タバター

2013年03月25日 | ショートショート



「田端さん、田端バタ子さん」
耳元で名前を呼ばれて目が覚めた。
げっ。だれ?なんでわたしの部屋に?
体を起こすと、クラッとめまいが。ウ~、頭もガンガンする。
コタツの上には、コンビニで買った缶チューハイが二本、三本、四本。
ひとりでこんだけ飲んじゃったのか。うう、気分悪い。
昨日、わたしは失恋した。いや、失恋したなんて会社のだれも気がつくまい。
勝手にあこがれて、勝手に熱をあげて。その彼が、チズ子と深い関係だったなんて。
せめて思いを伝えとけば気持ちの整理もついてた、かも。
時計を見ると、午前二時。雨音が部屋の中まで聞こえてくる。
バラバラ降る音を、バタバタした名前と聞きちがえたんだ。
「ちがいますよ。お迎えにあがったのですよ、王女様」
げっ、また声が。
「け、警察呼ぶわよ!」
「驚くのも無理ありません。でも、あなたはわが衛星パンチラの王女なのです」
なに言ってんの、こいつ。
「わが衛星では、他の星の知的生命体に意識転送して、一定期間の精神修養をいたします。田端バタ子は仮の姿、つまりタバターです」
「タバター?」
「はい。王位継承者たるあなた様のお名前は、タバタッバ・タバンティーヌ様にてございます」
あまり変わらない。
「実は、全世界の、そして全宇宙の田端さんは、われらの化身タバターなのです」
田端だけかよっ。
「で、あなたは何者?」
「陰ながらお見守りしておりました、ケロと申します」
「姿を見せなさいよ」
「わたくしならずっとここです。ほら、窓の外、薬屋の前」
外を見ると、製薬会社のカエル人形が雨に濡れ、街灯に浮かびあがっている。
ケロちゃんが宇宙人ですってえ?
「実は今、衛星パンチラは暗黒帝国軍から攻撃を受けているのです。大至急、ご帰還ください。宇宙の危機を救うために」
自分ひとり救えないわたしが、宇宙を救えるわけないじゃないの。
「信じるのです、王女様。さあ、まいりましょう!」
信じられるもんですか。
でも、会社に行って、彼と顔を合わすのも、チズ子と話すのもつらい。
・・・いっそ宇宙へ。
「ベランダの向こうが意識転送空間ですよ。さあ、そこから飛んで!」
ベランダに出ると、雨が降りかかって、あっというまにグショ濡れになった。
濡れた鉄柵をつかむ。
足の骨を折って、しばらく入院することになるのか?
それとも宇宙の救世主になるのか?
何が待っていてもかまわない。『今』からとことん逃げてやる。
ジャンプ!!



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2 コメント

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ネーミングッド (りんさん)
2013-03-26 16:34:10
なんだか楽しいネーミングですね。
バタコさんにチズコさん。
パンチラ星?
それに、このあとどうなるのか、不思議なラストですね。
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りんさんへ (矢菱虎犇)
2013-03-27 06:40:53
ファンタジー映画の多くって、基本、現実逃避なんじゃないかってことで、思いっきり現実逃避な展開でおふざけしてみましたぴょ~ん。
アバターの星、衛星パンドラを、タバターのパンチラにしてみますた。
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