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マンボウ№5

2013年09月11日 | ショートショート

 

未来。
永久機関同様、絶対不可能と言われていたタイムマシンが完成した。
時間旅行理論を生み出し、自らマシンの開発をも成し遂げたのは、日本人、万城目博士である。
「博士、コングラチュレーション!」
「イヤ~ありがと、ありがと」
万城目博士が白いヒゲを指先でしごいた。
記者会見場は、世界各国の記者で溢れんばかりだった。
その会場ステージ中央にはマシンが鎮座している。
生け簀のような・・・TV番組の熱湯風呂のような・・・。
「これこそ人類初のタイムマシン、なづけてマンボウ№5!」
どよめく記者団。そして会場に鳴り響く、マンボのリズム。
「早速、時間旅行をご覧いただこう」
舞台袖から現れる、水着美女。いそいそと入湯・・・う~ん、これはその手のショーなのか?
博士が装置下部のボタンを押す。
するとどうだ、水着美女は水槽の中で見る見るマンボウへと変身してしまったではないか。
博士が次のボタンを押すと、水槽の中のマンボウの姿が忽然と消えた。
「博士、これは一体・・・?」
「美女はマンボウとなって時間旅行の旅へ出掛けたんじゃよ。時間旅行できるのは、なぜかマンボウだけ。人間はおろか他の動物実験もすべて失敗。そこで人間をマンボウに変身させることで時間旅行を可能にしたんじゃ!」
会場割れんばかりの拍手。一人の記者が質問する。
「確か、博士の理論では、タイムマシンが作られた時点が起点となるため、それより過去へ戻ることは不可能でしたよね?」
「そこなんじゃ。じゃが実際にやってみるとなぜか過去にも送れるんじゃ。そこがまったくもって謎・・・」
博士は、海水だけが満たされたマンボウ№5をじっと見つめるのだった。

・・・と、ここまで書いたところで、矢菱虎犇はキーボードを叩く手を止めた。
画面を見つめつつ、ボソリ。
「さ~て、どんなオチにするかなあ」
そう、『マンボウ№5』なんて駄洒落タイトルだけで書きはじめたものの、オチまで考えていなかったのだ。
マンボウのように虚ろな目でモニター画面をジ~ッ・・・・・・・・・ガクッ。
おっと、ついつい意識が遠のいて。
よ~し、もうやめやめっ。明日になったらなんか思いつくかもよってなわけで、とっとと寝てしまった。

そして翌朝。
朝刊をとろうと表の戸を開けた途端、プ~ンと強烈な魚の腐臭。
見れば、うちの前の路地に大きなマンボウの死体がゴロリ、ゴロリ。
な、なんなんだあ?
慌ててテレビをつけて、さらに驚いた。
昨夜から日本中、いや世界中でマンボウが大発生、海を山を街を道路を埋めつくしているらしい。
「え~!いったいぜんたい誰のしわざだあ?」



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エウロパ

2013年09月08日 | ショートショート



木星第2衛星エウロパ。
厚さ数キロに及ぶ氷に覆われた球体、その表面には引っ掻き傷状の水路が無数に走っている。
実際に探査艇を降り立つと、そこは流氷の海を再氷結させた、氷のグランド・キャニオンであった。
漆黒の空には木星が悠然と浮かび、縞帯の対流まで鮮明に見てとれる。
「気をつけろ。ペースト状の氷海部は底無し沼かもしれんぞ」
緊張した船長の声がヘルメット内で響いた。
後方の探査艇を振り返り、見守る船長に向かって大丈夫だとサインを送った。
氷の岩場を跳ねて進むと、子供の頃に渓流の岩場で遊んだ気分になった。
はたして科学者が予測したように、エウロパに生命体は存在するのか?
マイナス170度、酸素ほぼ100%の環境は、あまりにも過酷だ。
科学者たちは言う。
地球深海の熱水噴出孔周辺部には、化学反応だけに依存した独自の生態系が存在する。ならばエウロパの氷の下の海に、バクテリアや藻類が存在しても不思議ではない、と。
エウロパの生命体に思いを馳せつつ、歩を進めていたその時・・・
進行方向の氷塊の陰から、そいつが現れた。
ビクッ・・・
驚愕のあまり立ち止まるのと、相手が驚きにすくみあがるのと同時だった。
その距離、わずか十数メートル。
ニンゲンの胴体ほどもある巨大なガスマスク状の黒い頭。それを支える八本の触手。
地球のタコそっくりだ!
心の準備もなにもできていなかった遭遇。
しかし、あろうことか、ボクも相手もパニックをおこして諸手をあげて逃げ出したのだ。

あまりにも無様な、ファーストコンタクト
・・・だが、ボクは目撃したのだ、エウロパ星人を!
氷塊の回廊を探査艇に向かって急ぎながら、艇に通信を入れた。
「おいおい、そんなに慌てるなって。落ち着けよ」
これが落ち着いていられるか。
「だから、たった今、遭遇したんですって!知的生命体に!エウロパ星人に!」
今度は船長の慌てる番だ。
「まさか・・・この衛星に知的生命体だって?そんなバカな・・・」
「いたんですよ!間違いなく。ボクと出くわして、そりゃもうぶっ魂消てましたヨ」
「で?どんな形態だったんだ?その、エウロパ星人は」
ボクは慎重に先ほど目撃したばかりのエウロパ星人を思い出して説明した。
「それが・・・ずいぶん変わった形態で・・・触手四本の胴体に小さな頭が載ってて・・・そうそう、まるでわが星のサルそっくり」



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ペルセウス座流星群の夜

2013年09月05日 | ショートショート



「ア、流れ星!!ネ、今見えたよね!」と由里子ちゃん。
「う、うん・・・」とボク。
ううっ、また見逃してしまいました。
由里子ちゃんの指さす彼方には、とっくにカケラもありません。
ペルセウス座流星群がたくさん見られるはずの、8月某日真夜中。
それなのに、それなのに~っ。
畜生、絶対見てやっからな。北東の空をぐいぐい睨めつけます。
「はい、タカシ君、コーヒー」
由里子ちゃんがポットからカップに注いで差し出します。
「あ、サンキュ」
カップに目をやった瞬間、
「アッ、また!!」と由里子ちゃん。
反射的に見上げたものの、時すでに遅し。ああ、またしても。
そうなんです、いつだってそうなんです。
ピカッ・・・
「あ、光った!すっげ~イナビカリ!」とクラスメートたちの嬌声。
「え?どこ、どこ、どこ?」とボク。
パシャッ・・・
「あ、魚跳ねた!お腹、銀色!」
な~んてみんなの声。ボクには川面に広がる波紋しか見えません。
どんだけ不幸な星のもとに生まれたんでしょう。
今宵、全天が見わたせる、高原まで出掛けてきたというのに。
友だち以上恋人未満の、大好きな由里子ちゃんとの初デートだっていうのに。
それなのに、それなのにっ。
ボクは心の中で叫びました。全身全霊をこめて。
『流れ星が見たいっっ!!』
と、その瞬間。
み、見えた!
大きな大きな星が尾を引きながら、長く長く天空を翔け渡っていったのです。
す、すごい・・・ボクはそのスケールのでっかさにジ~ンと感動しちゃいました。
「うわ~キレ~!!」
由里子ちゃんがボクの手をギュッと握ります。
自然にボクも由里子ちゃんの手をギュッ。
「ね、タカシ君、何をお願いしたの?」と囁く由里子ちゃん。
いや~それがその・・・
まさか流れ星に流れ星をお願いしたなんてなあ(照笑)
で、「ハハハ、由里子ちゃんと一緒だよ~」と、ボク。
すると由里子ちゃん、無言でボクの肩にそっと頭を。
やったあ。
そうなんです。ボクの願いごとはささやかだったけど、どっさりオマケがついてきたんです。
やるじゃないか、ペルセウス座流星群!
ボクたち寄り添って星空を見上げていると、
「あ、また!」
ウィンクするみたいにキランと流れ星がまたひとつ。



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妖精ハンター

2013年08月30日 | ショートショート

いや本当、本当。本当に見たんだって。
岡山の杉林で。本物の妖精を、この目で。
ボクは元々妖精が見えるタチでさ。生まれ故郷のウェールズの森でも妖精を幾度も見たことがあるんだ。
写真に撮ったことだって数回ある。でも、バッチリ写したつもりでもさ、いざ写真見たらトンボやアゲハにすり変わってて。ホ~ント不思議。妖精がいるって証拠、つかみたいなあ。
それに、生きたまま捕まえた妖精には、百万ポンドの懸賞金がかかってんだぜ。死んでたら半額、写真だけでも10分の1さ。
日本で妖精目撃!ってネット情報見て、一獲千金を狙って単身ニッポンに来たわけ。
で・・・あの日もいつものようにカメラと虫捕り網をたずさえて、目撃場所近くを探してたんだ。
お昼過ぎ、太い杉の幹に寄っ掛かって、しばし休んでた時・・・
ん?
木々のざわめきやら小鳥のさえずりに混じって、規則的な、聞きなれぬ音が。
これは・・・イビキだ。ナニモノかがグウスカ寝ている。
抜き足差し足、音のほうへ近づいて木の陰からそっと覗くと・・・
いたのさ!妖精が。木漏れ日の中、落ち葉を枕に熟睡中の、30センチほどの妖精が。
西洋のソレとはちょっと違ってたな。中年太りの親爺風。ダボシャツ、腹巻、ステテコ姿。イッツ・ジャパニーズなタイプ。背中に透きとおった翅が見え隠れしてなかったら、妖精だってわかんないような。
ボクは夢中でシャッターを切った。でも、妖精は眠りこけたままさ。
と、そのとき心の声が囁いたんだ。
「今なら捕まえることだって簡単じゃないか」
すると、妖精が百万ポンドの札束に見えた。ボクはソレにそっと虫捕り網をかぶせるだけ。
虫捕り網の柄をつかむ手の震えが止まらない。網を伸ばして、伸ばして・・・
えいままよ、と振り下ろした・・・獲った!
と思った瞬間、そいつは目にも止まらぬ速さで網をかいくぐり、前転姿勢でゴロリゴロリ、深い茂みへ。
百万ポンドがボクの手をかすめて消えたことに、しばし茫然。
でも写真、写真がある!
カメラを操作して画像を確認していく・・・エ?なんだコレ!?
どれもこれもヘビ、ヘビ、ヘビ。眠りこけたヘビの写真が何十枚・・・何百枚。
またしても・・・妖精を見たなんて誰も信じてくれないな・・・
落胆しきったボクは、写真データの全消去ボタンをプチッと。
どう?ボクの話。信じらんないだろうなあ、やっぱ。
ねえ、それにしてもニッポンのヘビってのは、ずんぐりしてて不格好だねぇ。
エ?どんなって?えっとお、絵に描いたらこんな感じ・・・。





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絶叫館

2013年08月25日 | ショートショート

雷の閃きに、断崖絶壁に建つ妖しげな洋館の影が浮かびあがった。
館の大広間中央、糸の切れた操り人形のように横たわるメイド姿の若い女性の骸。
それを取り囲むようにして、三人の容疑者。そして、名探偵桶津香具郎(おけつ・かぐろう)の姿があった。
「桶津くん、で?犯人はわかったのかね?」
館の主である、伯爵が問うた。
大佐「わかる筈があるまい。我々にろくに質問もしとらんじゃないか」
博士「まあいい、ひとつ、君の推理とやらを聞こう」
容疑者三人の顔を眺めわたすと、桶津は燭台を手にとって死体へと灯を近づけた。
「これをご覧なさい」
一同環視の中、桶津は白い首筋を露わにした。
「こ、これは・・・!」
メイドの頸部には鋭い牙の咬み痕がくっきりと。
「ということは・・・」
皆の視線が伯爵へと注がれる。
「ち、違う!わしは決してそういう伯爵じゃなくて」
桶津が不敵に笑った。
「伯爵、貴方のことは十分に調べさせていただきました。貴方は昨年アフリカ旅行中にゾンビウイルスに感染、細胞のひとつひとつまで侵されて、とうに死んでいる!ドラキュラじゃなくてゾンビなんだよ!」
「な、何を証拠に・・・」
「もうじき真夜中だ。人間の脳みそを啜りたくてたまらなくなるはずだ」
続いて桶津は大佐の顔へと灯を向けた。
「本物の大佐は数年前の演習中に爆死してますね。貴様の正体は、大佐そっくりに造られた軍事ロボットだ!」
慌てた大佐がキュルキュルと機械音を立てた。
作戦を阻む障害は爆破排除する・・・それが彼に組み込まれたプログラムである。たとえ人間であろうとも。
「どいつもこいつも・・・ここはバケモノ屋敷か?」
呟いた博士を桶津が睨んだ。
「そういう博士、貴方は半年前にUFOに連れ去られたはず。あんたの正体は、人類家畜化を企てる侵略者だ!」
驚きのあまり、博士の額を突き破って触角が現れた。
「ソウダア。俺ハ宇宙人ダア。アア、生キタ人間ヲ貪リ食イタイ!」
桶津が満足げに笑う。
「そう、皆さん全員、犯人ではない。というか、人間ですらないので罪に問われませ~ん」
真夜中を告げる柱時計の音が鳴り始めた。床に倒れたメイドの腕がピクリと動く。
「そして、この女性すら吸血鬼であって人間じゃないし、死んでもいない。ってことで、殺人事件でもなんでもなかったのです。これにて一件落着!」
時計が鳴り終わる・・・探偵の顔がみるみるこわばっていく・・・館に、身も世もない絶叫が鳴り響く。



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宝くじ1等2億円、当たっちゃいました

2013年05月24日 | ショートショート



あ、当たってる?
当たってるよね?コレって。
何度も何度も番号を確かめる。
「どうしたの?ノゾミ」
うろたえているアタシに同僚が声をかける。
「ウッソ~!!当たってるじゃないの、1等!」
その声に、SSの看護師たちがわらわらとアタシを取り囲む。
ドリームジャンボ宝くじ、1等2億円。それが今、アタシの指先でプルプル震えている。
「どうしたの?」
「エッ、2億~!?」
ドクターやら入院患者さんたちまでナースステーションへ駆けつける。
「だって、ノゾミちゃん、アレでしょ?その宝くじ」
そう、アレなのだ。
アタシたち新人の歓迎会が先月開かれた。各々の座席に封筒が置かれ、封筒には宝くじが1枚という趣向だった、アレ。
余興で手に入れたにすぎない、人生初の、たった1枚の宝くじ。
それが、なんと2億円。
師長さんがアタシの肩に手を置いた。
「ノゾミちゃんの日頃の行いがいいからよお。おめでとう」
何もかも受け入れられたような、温かい気持ち。
「ありがとうございます!」
立ち上がって師長さんと握手。
誰からとなく拍手が起こる。同僚も、ドクターも、患者さんも。
よかった。本当によかった。
祝福のシャワーに包まれる。
ああ、もう夢みたい・・・

「ノゾミちゃん、ノゾミちゃん」
呼びかけられて目を開くと、魔人がいた。
「どうでした?宝くじ1等の夢。いや~実に幸せそうな寝顔でしたよ」
ここってアタシのアパートじゃないの。正座した魔人がアタシを見てるけど。
「今のって、夢?」
「そうですよ」
「アナタ、魔人でしょ?夢をかなえてくれる」
「そうですよ」
「でなんで、ただの夢なのよ!しかも当選シーンのみ!」
魔人が頭を掻いた。
「いや~、『宝くじ1等2億円の夢をかなえたい』ってゆーから・・・」
「違うでしょ、ソレ。そーゆー意味じゃないからっ」
「まあ、当選の瞬間がいちばん幸せで、そのあとのイメージなんてご主人様にない訳ですし・・・」
「なによ、ソレ。イメージくらいあるわよっ」
とは言ったものの、内心、さっきの当選の瞬間ほど幸せなイメージは思いつかない。
所詮、夢は夢。かなってしまえば、ただの現実。
夢は夢のままがいちばん美しいのかもしれない。
だとすれば、今見た夢こそがアタシのホントのノゾミだったのかも。
なんだか可笑しくなってきて笑ってしまった。
つられて魔人も笑う。
「な~んだ、ただの夢だったのかあ(笑)」
「魔人が出てきた時点で気がつかないと(笑)」
・・・ん!? 



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タイムマシンの行方

2013年05月19日 | ショートショート



「ついに、ついに完成したぞ」
野々村は、今しがた完成したばかりのタイムマシンを見上げて、瞳を潤ませた。
研究室中央に鎮座している、ゾウほどの大きさの巨大マシン。
それはどこからどう見ても蚊遣豚に似ていた。
西暦2222年。今、人類初のタイムマシンが野々村の手によって作り出されたのだ。
長く長く、苦しい道のりであった。
彼が『時間移動理論』を世に問うたのは、かれこれ五十年前。
自信に満ち溢れ、容姿端麗な若き科学者は世間の注目を浴び、数社の大手スポンサーが名乗りをあげた。
かくして巨費を投じて研究所が建設され、世界から共同研究者が集まった。
だが。
時間移動のために空間を分断する方法が見つからない。
時空を捩じ曲げるための膨大なエネルギーを生み出せない。
巨大エネルギーを扱う危険な実験を繰り返し、研究所はたびたび爆発事故に見舞われた。
研究者や助手の尊い生命が失われ、野々村自身も度々重傷を負った。
十年経ち、二十年経ち・・・。
しかし開発は一向に進まない。
一社、また一社とスポンサーは離れていった。
共同研究者や助手も一人二人と研究所を去り、ついに野々村ひとりとなった。
野々村の妻もまた、子どもたちを連れ、野々村のもとを去った。
そして五十年。
今、タイムマシンを完成させた野々村に、喜びを分かち合う相手すらいない。
しかも、彼に残された時間は幾ばくもない。半年前、医者から余命半年と宣言されたのだ。
野々村は鏡に映る顔を珍しげに見つめ、卑屈に笑った。深い皺が刻まれた禿頭の小男に、若き日の面影などない。
畜生、なにもかも清算してやる。
野々村は、義手の手に拳銃を握り締めた。
そして、タイムマシンに乗り込むと過去に向かって始動した。

・・・と、ここまでお話を書いてきた矢菱虎犇は、キーボードから手を放すと、コーヒーをひとくち啜った。
いや~久しぶりに書くと、肩凝っちゃうなあ。
それにしてもこのタイムマシンの話、どんなオチにする?
腕組みしてモニターを見つめていると、玄関からチャイムの音。
いったい誰だあ?こんな時間に。



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ウイルスの日

2013年05月15日 | ショートショート

ゴトゴト・・・カタンッ。
自販機みたいな音を立てて、円筒形の容器が排出口から吐き出された。
缶ジュースほどの大きさだが透明な樹脂でできており、無色透明な液体で満たされている。
貼り付けられたラベルには、『検査薬』の文字。
個室シェルターの壁面スピーカーから無機質な合成音声が漏れ出す。
『検査薬は届きましたか?』
「ええ」
声の主は政府保健機関。容器を送った張本人だ。こちらに届く正確な日時を把握しているくせに。
『それでは容器を開封し、服用してください』
「その前に教えてくれ。感染しているのかいないのか、どうやってわかる?」
『後日、血液サンプルを採取してご返送いただき、感染者か否か判定するシステムです』
容器を見つめる。
本当に、本当にこれは検査薬なのだろうか?
判断材料はあまりにも乏しい。
数ヶ月前のパンデミック以来、ボクは卵形の個人向け地下シェルターで生活しているのだから。
外部と繋がる手段は、ネットと隣接するシェルターを連結したパイプだけ。
ネット世界では、さまざまな噂が飛び交っている。
ウイルスは感染者を意のままに操るスナッチャータイプだとか、
感染者は自分が感染者であることすら気がつかないとか。
じゃあ、ボクは本当に非感染者なのか?ウイルスが非感染者だと思い込ませているだけの感染者なのか?
この『検査薬』を飲めば、それがわかる・・・
いや、別の噂もある。
政府機関が『検査薬』と称して配布している、この薬を飲むと、感染者はその場で喉を掻きむしり悶死するのだとか。
飲むべきか、飲まざるべきか?
透明な容器を手にしたまま悩み続ける。無機質な狭い室内には空調の音だけ。
ボクがウイルスなら、いずれ処理されるはずだ。ならば、イチかバチか、飲んで身の潔白を晴らそうじゃないか。
『飲み干しましたか?最後の一滴まで』
例の音声が聴こえて飛びあがるほど驚いた。
「あ、ああ、飲んだ」
『・・・・・・』
沈黙が続く。
今の答えはまずかったのか?薬を飲んだ途端、悶え苦しんでいるはずなのか?それとも?
『・・・・・・』
もしかして、通信機の向こうで政府機関を名乗る相手がウイルス感染者なのか?
そして、この容器の中身、実はウイルスそのものなのでは?
『・・・・・・』
今、こうして疑心暗鬼になっているボクは、人間?それともウイルス?
『・・・・・・』
未開封の容器を手にしたまま、卵の中で悩み続ける。
悩み続ける。
悩み続ける。 



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学校にまにあわない

2013年05月11日 | ショートショート



未来。
太陽エネルギーが宇宙から運ばれることで、エネルギー問題が解決した。
電気自動車の運転操縦が全自動化され、交通事故も限りなくゼロに近づいた。
クローン技術の進歩によって人口減少に歯止めがかかり、経済ももちなおした。
21世紀のさまざまな宿題がきれいに片づいた、そんな明るい未来。
そんな未来に何の意味があるんだろう?
高校の始業時間に遅刻しそうな、今の井上たかしにとっては。
井上たかしは絶望的な表情を浮かべ、眼前を行き交う全自動エコカーの群れをながめていた。
駅から高校まで道のりは徒歩15分ばかり。いつもこの交差点で足止めを食らってしまう。
このタイミングで始業チャイムに間に合う可能性は極めて低い。
遅刻をすれば、担任教師から大目玉を食らうだけじゃなく、進学にも響く。
あ~あ、もうこれで何回目だっけ?
空を仰ぐと、抜けるような初夏の空。
昨日、十年前、五十年前、百年前。
どれだけたくさんの高校生がここに立って、絶望的な思いで空を見上げたことだろう。
どうせ未来に生まれるなら、タイムマシンが普及した未来に生まれたかった。
せめて、自分そっくりの身代わりコピーロボに登校してもらいたい。
いやせめて、タケコプターで高校まで飛んでいけたなら・・・。
そんな未来道具なんて現実の未来じゃなくて、所詮、逃避的な夢想にすぎなかった。
ああ、学校に間に合わない!早く・・・早く!
やっと歩行者信号が青に変わった。井上たかしは猛然とダッシュした。

数分後。高校の下駄箱。
息を荒らげた井上たかしが靴箱の上履きに手をかけた瞬間、無情にも始業のチャイムが鳴り響いた。
全身から力が抜けていく。
「未来なんてクソ食らえだ」
悪態をつき、井上たかしは靴を履き替えると3階の教室に向かって階段を上りはじめる。

そのころ、教室では・・・。
「安藤さとし・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
担任教師の出席確認の点呼の声が続く。
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」・・・
担任教師は、出席簿にずらり五十七人続く転入生「石川こうじ」を見つめ、ため息をついた。



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パパはウルトラマン

2013年05月06日 | ショートショート



「ねえパパ~、ウルトラマンショー連れてってよう」と、朝ごはんのときにタカシ。
「ゴメンゴメン。パパ、今日もお仕事なんだ」と、私。
「タカシ、無理言っちゃダメでしょ」と、台所からママ。
今日は、こどもの日。こんな日にも働かなくちゃならないなんて。
「ウルトラマン、お休みの間だけでしょ。連れてってよう」
「お休みがとれたら、遊園地に行っていっぱい遊ぼうな」
「やだやだあ!ウルトラマンがいい」
タカシがダダをこねます。
そんなの、無理なんだよ、タカシ。

ネクタイを締めていると、ママが後ろから声を掛けました。
「あたしが連れてってくるわ。こどもの日ですもの」
「スマン。必ず埋め合わせはするから」
「・・・・・・こどもの日まで出勤なんて、どこに勤めているの?妻にまで内緒だなんて」
「ゴメン。それは絶対に言えないんだ・・・じゃ、行ってくるから」
ママがため息をつきました。

言えるわけありません。ウルトラマンだなんて。
ディズニーランドのミッキーマウスたちと同じです。
「実は、パパがウルトラマンなんだ」
そんなことを言って、こどもたちの夢をぶちこわしにするなんて、絶対できません。
つらいけれど、ウルトラマンとして生きていく宿命なのです。
ゆるしてくれ、タカシ。ママ。

夕方、うちに帰ると、タカシはヒロシくんちに遊びに行っていました。
ママがニッコリ、タカシが書いた作文を何も言わずに渡しました。
『きょう、ママとウルトラマンショーをみにいきました。
レッドキングやゴモラをたいじしてくれました。
ウルトラマン、かっこいい。
パパもいっしょだと、もっとたのしかったです。
ぼくは、おとなになったらウルトラマンみたいになりたいです。
へんしんしてないときは、パパみたいなやさしいおとなになりたいです』
ふだんはパパで、変身するとウルトラマン・・・
私です、私そのもの。
ありがとう、タカシ。
鼻の奥がツーンとしょっぱくなっちゃいました。

おふろタイム。
「ねえパパ、ヒロシくんがさ、ウルトラマンの中には、ヒトが入ってるって言うんだ。背中にチャックがあるって」
タカシの背中をゴシゴシしていた手を、思わず止めてしまいました。
「ウルトラマンはウルトラマンさ。そういうデザインなんだ」と、苦しまぎれに私。
「そっか、そうだよね!パパの背中を洗ってあげる」
「ああ、頼むよ」
ゴシゴシしていたタカシが突然、叫びました。
「パパの背中にチャックが!」
「ハハハ。パパはこういうデザインなんだ」 



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悪魔の契約

2013年05月01日 | ショートショート



「つまり、つまり貴方は、悪魔の存在自体信じていない、そうおっしゃるのですね?」
「ああ。悪魔どころか、神の存在すら信じちゃいない」
悪魔は絶句した。
悪魔、と言ったものの、それは本人がそう名乗っているだけ。
どう見ても外回りの営業マンにしか見えない。
紺の背広、七三分けに銀縁眼鏡。全然悪魔っぽくない。
場所はと言えば、フランチャイズの喫茶店。これまた悪魔との密会場所に相応しくない。
「時間のムダだよ。そもそも、君の欲しがっている魂すら存在しないんだから」
「魂が存在しない?」
コーヒーをちびりと啜る。
「存在しない。魂なんてのは脳が作り出した幻想さ。たくさんのエピソードを記憶して困難に対処する、それが人類の選んだ生き残り戦略なんだ。膨大なエピソードを効率的に記憶するために脳が仮定した『主人公』、それが魂の正体さ」
悪魔は、すっかり困惑している様子。
そりゃそうだ。悪魔も神も、魂すら否定する相手じゃ契約も取れまい。
「他をあたりたまえ。じゃ」
ボクが退席しようと腰を浮かすと、男が制した。
「悪魔と契約すればどんな望みでもかなうのですよ」
「信じるものか」
「貴方がおっしゃるように魂が存在しないなら、魂を奪われる心配もないでしょう?望みをかなえて魂そのまま、こんなオイシイ話はありませんよ。どうです?契約書にサインを」
ボクは悪魔をしげしげと見つめた。憑依障害の精神疾患者にしては、理屈の通ったことを言うものだ。
確かにサインをしようとすまいと、ボクに実害などないか。
「絶世の美女をお望みですか?それとも巨万の富ですか?地位でも名声でも思うがまま。さあどうぞ、ご契約を」
そうか。いいだろう。ボクは契約書にサインした。
「本当にいいんだな?ボクの望むままにして」
ボクがニヤリと笑うと、悪魔がひるんだ。
「な、なんなんですか?貴方、私よりよっぽど悪魔みたいだ」

その日を境に、悪魔という存在がこの地球上から消えた。



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2013年04月26日 | ショートショート



ひいええええええっ
素っ頓狂な叫び声をあげながら、嘉平さんが川土手の蕎麦の屋台に駆け込んでまいります。
「一体全体どうなすったんです」
店じまいを始めていた蕎麦屋の爺さん、声をかけます。
嘉平さん、ハアハアゼイゼイ荒い息をととのえながら、
「で、出たんだよ。その、アレが」
「アレじゃあわかりませんや。何です?アレって」
「いやだからアレさ。えっと貔さ」
「貔?」
「ああ。貔に化かされたんだよ。爺さん、まあとにかく酒を注いどくれ」
「湯は落としちまったが、酒だけなら一献やっとくれ」
湯呑みに注いだ酒を、嘉平さんゴクリとやって、やっとこさ落ち着きました。
「まあ爺さん、聞いとくれ」
嘉平さん、一件を話します。
ワシは赤坂界隈の商人で、或る商談あっての帰り、日もとっぷり暮れて紀伊国坂を下っておった。
すると、坂道沿いの淵の縁にしゃがみこみ、さめざめと泣いている娘がおるではないか。
身投げでもする気かと心配になって、娘の背に声を掛けた。
お女中、お女中、こんな夜中にこんな寂しい場所で何を泣いておりなさる。
娘は白いうなじを見せて泣くばかり。
ワシが家まで送ってあげよう、さあ。
そう言って娘の肩に手を置くなり、娘はすっと立ち上がる。
「そして、目の前でふりかえった顔を見ると」
「見ると?」
「なかったんだよ、顔が!つるんつるんの茹でたまご」
「のっぺらぼうかい?」
「のっぺらぼうさ」
爺さん、嘉平さんの顔をじっと見つめます。
「で・・・。で、どうしてそれが貔だってわかったんです?狐狸でも貉でも貂でも獺でもなく」
「書いてあったんだよっ。顔の真ん中に」



「はは~ん、ソレって」
蕎麦屋の爺さん、そう言いながら顔をつるんと撫でます。
するってえと、爺さんの顔もつるんつるんの茹でたまご、その真ん中に大きく貔の字。
「それそれ!その字だ、爺さん!」
嘉平さん、我が意を得たりと大喜び。
「で?爺さん、その字、なんて読むんだ?」
「え?貴方もお読みになれない?」
貔の一席。おあとがよろしいようで。

・・・え?お客さん、貔って結局なんて読むかって?いや~実はあっしも・・・。



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大魔術の夜

2013年04月19日 | ショートショート



小屋は今日も大入り満員だった。
客席に一礼。大魔術ショーのはじまり、はじまり。
まずはツカミから。
颯爽とシルクハットをとって白ウサギを出して見せる。
どよめき、そして拍手。
よしよし、反応がいいぞ。
いくつかマジックを披露したあと、小テーブルの上のシルクハットへ。
ウサギがまだ入っていることを客に見せ、ステッキでノック。
すると帽子の中のウサギは忽然と・・・
消えなかった。
テーブルの仕掛けでウサギを抜くのはアシスタントの妻の役目だ。段取りを忘れてやがる!
俺は苦し紛れにウサギを抱いて踊り、客を沸かせる。
異変に気づき、バニーガール姿の妻が登場、俺はウサギを手渡した。
「何やってんだ、おい」
「忘れてたのよ、ごめんなさい」
笑顔のまま、俺は妻を睨み、妻は俺を睨んだ。
最近、妻とはギクシャクしている。だからといって、こんな初歩的なミス、断じて許されない。
今日という今日は、きっちり話さねば。
ステージを続行、ついにクライマックスの人間消失へ。
本来消えていたはずの白ウサギを抱いた妻が、円形の台にあがる。
リングカーテンですっぽりと覆うと、ドラムロールが鳴る。
「ちゃんと消えろよ」
「望みどおりに」
妻が仕込まれた抜け道を下りていく。
シンバルが響くとともに、カーテンを落とす。妻の姿はない。
会場はどよめきに満たされる。
スポットライトが舞台袖へ。ウサギを抱いた妻が笑顔満面で・・・
登場しなかった。
何やってんだ、馬鹿野郎!
異変に気づいた音響が派手なオケで誤魔化し、ステージは終了。
なんたる大失態!
怒り心頭、妻を探していると、興行主に呼び止められた。
「おいおい、本当に消しちまったのかい?明日はちゃんと頼むぜ、大魔術師さんよ」
仕掛けのどこを探しても、自宅に戻っても、妻の姿はなかった。
出ていったのか?・・・まさかホントに消えたのか?

翌日も妻から連絡すらなかった。
以前、妻の代役を務めてくれたことのある、バイトの娘に電話をしたが留守のようだった。
とりあえず、ウサギだ。
俺はいつも仕入れている店に行った。
「やあ。いつものウサギを頼む」
「ウサギ?そりゃ一体どんな動物だい?」
「ウサギはウサギだろ。こう、耳が大きくって・・・」
「つかまえやすそうだな。そんな都合のいい動物、見たこたあねえなあ」
ということは・・・まさか・・・
俺はおそるおそる店主に尋ねた。
「なあ、女って見たことあるか?」



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嗅いじゃいたい、噛んじゃいたい

2013年04月18日 | ショートショート



彼女のこと、好きかって?
もちろんですよ。ボクたち、愛しあってるんですから。
ゆくゆくは一緒に暮らしたいなあって。
そりゃもう彼女も同じ気持ちですよ。
あたりまえじゃないですか。ボクが彼女をいちばん愛してるんですから。
今朝?
ええ、会いましたよ。
ふふん、すっぴんで油断してる彼女なんて、ボクしか見たことないだろうなあ。
そのとき彼女、何してたかって?
ゴミ出しですよ、当然。
そのゴミをどうしたかって?
ちょ、ちょっと、なにか誤解してませんか?
中身を開いたか?
ん~、開いたかなあ。
目撃者がいる?ゴミ袋に頭つっこんで、クンクンにおいを嗅いでいるところを?
待ってくださいよ。
それが事実だとして、彼女の生活や健康の状態をチェックして何が悪いんです?
彼女を親身になって心配してるんです。他意はありません。
今晩?
ええ。彼女が電車を降りてから、彼女と一緒にアパートへ帰りました。
つけたんじゃないか?
そんなふうに見えるかなあ。距離をおいてボディガードしてたのに。
それが、今晩に限って、彼女、ボクを見つけて小走りになって。
それで、ボクも思わず走ったんです。
ああ、それが彼女を追いかけてるみたいに見えたんですね。
で、彼女ピタリと足を止めたんです。そして唸るように言ったんです。
「ついてこないで」
え?
「ついてこないで」
いやボク、そんなんじゃなくて。
「つきまとわれて迷惑なのよっ」
誤解だ!ボクは彼女に駆けよりました。
「来ないでって言ってるでしょ!この野良犬!」

「・・・そんなわけで思わずかっとなって、彼女のお尻をガブリと噛んでしまったんです」
「噛んでしまったんですって・・・アンタねぇ、本物の犬じゃないんだから・・・」
「ふん、アンタら国家のイヌごときに言われたかないな」
「おまえ・・・噛んでやろうか?」



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雪山ジェラシー

2013年04月16日 | ショートショート



そうなんです。
タカシとあたし、雪山で遭難してしまったんです。
登山ルートから外れた山小屋を見つけたものの、食料はおろか暖房もありません。
外は猛吹雪、ここで救助を待つしかありません。
タカシが抱いてくれてるけれど、体温は徐々に奪われて・・・
するとタカシがポツリ。
「あ~ボンカレー食いて~」
「この状況で?バカじゃないの?」
彼、頭のネジがゆるいんです。どうしてこんなヤツ、好きになっちゃったんだろう。
「そんなカッカすんなって。オレたち、死んじゃうかもしれないんだぜ」
あんたがわかってないっつーの。
「やっぱオレ、言っとこうかなあ」
「なんなのよ」
「いや~やっぱやめとくわ」
「言い出したら言いなさいよ。気になるでしょ」
「あのさ~オレ、カオリとちょっと」
カオリと?親友のカオリと?
「3回だけ。花火大会の晩と、温泉旅行のときと・・・あれ?4回?」
あたしの目を盗んで何度も、何度も。
「でもさ、愛してんのはアッコちゃんだから」
「放してよ、このケダモノ!!」
あたしはもう嫉妬やら怒りやら、夢中で彼の腕をふりほどこうとしたわ。
「よせって。寒いって。・・・あ」
「ナニよ。今度は」
「アッコちゃんのお姉さんとも・・・」
「なんですってぇ?うちの姉貴と~?」
「アッコちゃんちでお風呂上がりのお姉さんと廊下で会って・・・気がついたらお姉さんの部屋で三発・・・」
「あんた、バッカじゃないの!人間以下だわ。人間やめなさいっ」
すると、タカシ、
「そうで~す。実はボク、ロボットなんで~す。体が冷えても電子レンジに入れたら、ハイ、元どおり~。面白い?」
どこまでバカなの?もう呆れちゃって泣けてきたわ。
「ホンット最低!助かってもサヨナラだからね」
次から次へと涙が出て、泣き疲れてそのまま眠ってしまいました。

目が覚めると、広い施設のベッドでした。そうです。助かったのです。
「タカシは?」
救助隊のドクターが黙って首を横に振りました。そして一枚の紙片を手渡しました。
それはタカシからの手紙でした。
『アッコちゃん。
この手紙を読んでるってことは、助かったんだね。
ヨカッタ!
ボクは、昨晩たくさんウソをつきました。
でもそれは、君を助けるためだったんだよ。
君の感情を高ぶらせ、体温を上昇させるためにね。
でも、これだけは信じてください。
ボクはやましいことは一切していません。
ボクが愛しているのは、アッコ、君だけだよ。
タカシ』
そんな・・・。全部、あたしを助けるために?
とめどなく頬を熱いものが伝いました。
タカシ!!
チーン!
そのとき、背後から電子レンジの音。
振り返ると、巨大なレンジの扉が開いてタカシが登場。手には、できたてのボンカレーのお皿。
そうなんです。
全部が全部、嘘じゃなかったんです。



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