65歳の司法修習生 凄過ぎます 九州大学法学部を卒業しているんで基礎知識はあったようですね。
福岡地裁の法廷の奥に座る65歳の男性。裁判官かと見間違えそうだが、司法修習生だ。福岡市職員として国際スポーツ大会招致に携わり、東区長も務めた吉村哲夫さん=同市早良区=は本年度の司法試験に最高齢で合格し、弁護士を目指す。「何をいまさら」の心配をよそにわが道を行く。笑いながらも、目は真剣。「一人前になるのが先か、寿命が尽きるのが先か」
幼いころから勉強好き。市職員時代も夜間、大学に通い、経済を学んだ。英検1級も取得。「調べないと分からないことがあるのが楽しい」。興味を持つと、はまり込む。世界水泳や五輪招致でも先進例を研究し、緻密な計画を作り上げた。
58歳のとき、2年後の定年退職を考えた。「まだ役に立てる」と思っても居場所を失う寂しさ。学園紛争で満足に勉強できなかった九州大法学部の学生時代を思い返した。「法科大学院で学びたい」。第二の人生へ。休日に勉強を始めた。
退職後の2011年、京都大法科大学院に入学。合格者160人の中で28番。平日は勉強し、休日は神社仏閣を巡る。学生生活を謳歌(おうか)するはずだった。
教室の学生約50人の大半は20代。ただ一人の60代の学生は年下の教授に詰め寄られた。「予習で何を調べた」「どの判例をみたんだ」。教授は、事前に出した問題の答えを求め、矢継ぎ早に質問する。
1時間半の授業に3~8時間の予習。厚い教科書の注釈に答えの鍵があることも。午前3時になっても予習が終わらず、涙が頬を伝った。1学期が終わるまでに体重が7キロ落ちた。
なぜ、ほかの学生は答えられるのだろう。女子学生に声を掛け、なぞが解けた。その答えは短文投稿サイト「ツイッター」にあった。「この問題、難しい」「どこを調べたらいいの」。情報交換が盛んに行われていた。「20代と同じ目線にならなければ」。40歳下の友達を懸命につくった。歌手の話題は「意味不明」。それでも「ホークスが優勝した」などとツイッターに背伸びして書き込んだ。
最初の司法試験は不合格。福岡市に戻った。机の前に座ると食事まで休まない。やがて腰痛で座れなくなり、注射して試験に臨み、2度目の挑戦で合格した。
昨年12月から司法修習に入り、福岡地裁で裁判の流れを学ぶ。11月の試験に受かれば弁護士資格を得るが、就職先のあてはない。退職金を学費に費やし、先々への不安もよぎるが、迷いを断ち切る。「20代だって明日どうなるのかは分からない。何をいまさら、と諦めたら意味がない」
いつか、高齢者の問題に詳しい弁護士に。「同年代だから相談者の思いが理解できるはず」。自分にしか歩めない道を踏みしめる。