十一日に合格発表があった新司法試験で、法科大学院修了を受験の条件としない予備試験組の合格率が68%に上り、関係者に衝撃を与えている。経済的事情などを考慮して設けられた「例外ルート」だが、どの法科大学院よりも高かったからだ。これをきっかけに法科大学院離れが進み経営悪化に拍車が掛かるとの見方も出ている。
「厳しい結果だ。優秀な人材が予備試験を目指す流れができかねない」。文部科学省の幹部は暗い表情でつぶやいた。
二〇一二年度の法科大学院受験者は、制度が始まった〇四年度の約四割。七十三校中六十三校で定員割れとなり、地方を中心に経営を圧迫している。今年は合格率10%未満の学校が二十校に上り、厳しい現状に追い打ちを掛けた。
予備試験の目的は、学費が払えない、仕事を辞められないといった事情で法科大学院に通えない人の救済。初めて行われた昨年は六千四百七十七人が受験し百十六人が通過。うち八十五人が今年の司法試験を受け、五十八人が合格。狭き門をくぐり抜けた受験者とはいえ、合格率はトップの一橋大(57%)を10ポイント以上上回った。
予想外だったのは、五十八人のうち二十六人が大学生、八人が法科大学院生だったことだ。法務省幹部は「合格率が高いことは予想できたが、学生がこれほど多いとは…」と驚きを隠さない。
政府が法曹養成の中核と位置付ける法科大学院は「人間的に豊かな法曹」を育てるのが目的とされるが、生き残りをかけて受験対策に重点を置いたため「予備校化」している大学も散見される。
今回の試験結果は、そうした現状の法科大学院すら迂回(うかい)し、予備試験を「金と時間を節約する抜け道」(法務省幹部)として利用した受験生がいる可能性を浮かび上がらせた。
「仕事を辞めることは全く考えていなかったので、予備試験があってよかった」。東京都文京区の投資運用会社社員(40)は、予備校の通信教育で勉強。法科大学院には通わず念願をかなえた。
一方で「早く合格して、社会に出たかった」と予備試験を選んだ理由を話すのは東京大法科大学院の男子学生(22)。「法科大学院の授業は丁寧だけど、司法試験にはプラスにならない」と話す。
司法試験向け予備校「伊藤塾」の佐藤修一執行役員は「大学生は在学中に予備試験に挑戦し、駄目なら法科大学院に行けばいいと考える。予備試験を目指す学生は今後増えるだろう」と分析。
日弁連の中西一裕事務次長は危機感を募らせる。「法科大学院は、実務家のため必要な教育を行う場所。『早く受かりたい』という理由で予備試験を選ぶという態度は、制度の趣旨と懸け離れている」
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