今月ぐらいからAO入試を始めている大学もありますがよーく考えてAO入試を受けるべきです
就職できない大学生たちは約13万人。4月になり、社会に出ていたはずだった彼らは、"就職浪人"としていまだ入社試験の日々だ。だが、氷河期と言われる就職難も、不況のせいだけではないのだ―。
筆記試験なしで合格
「僕はね、AO入試は不正入学だと言っているんです。『多様な人材や意欲のある人を求める』なんて真っ赤なウソ。早慶ですらAOで学力の低い学生を入れている。これはいつか地盤沈下が起こる。早慶がそうなると、他の私大はさらに沈む。
AO入試組が、なかなか就職できていないというのはあるでしょう。勉強していないくせにリクルートスーツを着て、普段使わない言葉を使っても、企業に見透かされますから」
こう話すのは、法政大学理工学部・川成洋(かわなりよう)教授だ。
厚生労働省と文部科学省の発表では、今年3月に卒業予定の大学生の内定率は2月1日現在で80.0%と、統計開始以来、過去最低の数字を記録した。
13万人もの就職浪人が生まれたのは、もちろん日本経済の不況が直接的な原因だ。しかし、川成教授が廃止すべきと唱えるAO入試という制度も、少なからず影響している。
AO入試のAOとはアドミッションズ・オフィスの略で、大学や学部の理念に合った学生を求めるといった意味。基本的に筆記試験は行わず、面接やディスカッション、小論文などで合否を判断するシステムだ。
学力そのものが試されるケースは少ない。一般入試、推薦入試に次ぐ"第3の入学組"と言われ、'90年、慶応大学総合政策学部と環境情報学部が先駆けて導入して以降、多くの大学に広まった。実はこの制度が就職への大きな障壁となっているのだが、その具体的なケースは後述しよう。
就職浪人中の早稲田大学政治経済学部5年の桜井泰崇君(仮名)もAO入試組だ。
「金融やメーカーなど30社受けましたが、最終面接にすら行けなかった。何が悪かったのかわからないんです。僕は大学に筆記試験なしで入り、ロクに勉強もしない4年間でした。それがいけなかったのか、採用面接では『大学時代何をしたか』という質問への答えにいつも窮してしまったんです」
同じく内定ゼロに終わった有名私大法学部.藤岡俊介君(仮名)もこう話す。
「AO入試の面接の際、僕たち学生側は意気込んで、緊張して面接に臨んでいるのに、面接官は志望動機など通り一遍の質問をして、5分程度で面接が終わってしまい拍子抜けしました。これでは誰だって、『そこそこ有名な大学でも、こんなに簡単に入れるんだ』と勘違いしてしまいます。入学後も授業に身が入らず、ダラダラと過ごしてしまい、就活で失敗しました」
川成教授は、「学生全体の質が下がっている」としたうえで、AO入試組はさらにレベルが低いと言う。
■「私は英語を教えていますが、一回音読を聞いたら、その学生がAO入試か、一般入試かすぐわかります。AO入試組はローマ字さえ読めない学生もいますから。第2外国語なんてなおさら無理。神奈川の名門公立校から入ったある学生は、中学レベルの英単語すら知りませんでしたね。呆気(あっけ)にとられましたよ。
彼らは知らないことが恥ずかしいと思わない。どの先生も今の学生は『無反応だ』と言います。10年前とは学生の質がまるで違う。やはり、AO入試があるかないかの違いが大きいですよ」
「独りよがりの根性なし」
当事者である大学側は、AO入試についてどう考えているのか。法政大学入学センターに聞いた。
「ウチは自己推薦という形ですが、学力が整ったうえで応募してくるというのもなかなか難しい。志望書ではそつなく書くのですが、とってみたいという生徒はそう多くないという話を面接官から聞いたことがあります。ただ、学部にマッチして活き活きとやっている学生もいますので、大事な入学経路ではあると思っています」
と、AO入試のデメリットも認識している。この状況に一足早く手を打ったのは国立大学だ。九州大学法学部や筑波大学国際総合学類、一橋大学などはAO入試を廃止、または縮小している。九大は'00年、国公立では初めてAO入試を導入し、最も力を入れていた大学の一つだった。
「九大法学部は入学後の学生の追跡調査をするなどして、意図していた生徒がとれているかを検証していると思います。それを踏まえての廃止でしょう」
(河合塾教育情報部.富沢弘和氏)
筑波大学アドミッションセンターは、国際総合学類のAO(筑波ではACと呼ばれる)入試廃止の経緯についてこう答える。
「最初の頃は特異な経歴や独特のユーモアを持った学生が入ってきたのですが、徐々に普通入試の学生と変わらない志願者が増えました。逆に言えば、普通入試でもウチの求める人物像を理解した人が増えたということです」
一般入試で合格した学生は、一つの壁を越えた経験を持っている。あるいは、浪人の経験で挫折も味わっている。ところが、AO入試組は一部を除き、挫折も大きな成功体験もないまま合格し、大学生活を送るわけだ。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、AO入試組は就職活動において打たれ弱い傾向があると話す。
「僕の取材経験で言うと、march(明治、青山学院、立教、中央、法政)のAO入試組が最も打たれ弱い。大学の名前と学生本人の乖離(かいり)に気付かないまま就活に臨むため、面接官の何気ない問いかけに過剰に反応して圧迫面接だと感じてしまう人もいます」
全国学力研究会理事長.河本敏浩氏がAO入試組に共通する特徴を話す。
■「自己推薦の形で入学しますから、自分を出すことはうまいが、嫌いなものや苦手なことと付き合えない。一度に多くの課題を出された時、優先順位をつけて全体を見ながら進めることができないのです。
端的にいえば、段取りが悪く、独りよがりで根性がない。早慶レベルでもそれは同じ。そういう子たちが就職活動をしてもうまくいかないのは容易に推測できます」
質より数を求める大学
ただでさえ、採用に慎重になっている企業側は、AO入試組への対応にも慎重を期している。そのため、各企業の採用担当者は大学だけでなく出身高校を必ず見るという。
「つまり受験の経験が重要視されるんです。基礎学力とラーニングアビリティの高さ、もう一つはストレス耐性があるか。メンタルな問題を抱える社員が増えていますが、その大きな理由は入社までストレスがない中でやってきたからです」
(大学への就職支援などを行うクオリティ・オブ・ライフ代表で、高知大学客員教授の原正紀氏)
受験で鍛えられたストレス耐性が、AO入試組にはないというわけだ。実際の採用面接の現場では、AO入試をどう捉えているのか。大手家電メーカー人事担当者が明かす。
「弊社の新卒採用では、若い社員から始まり、役員まで4回面接を行いますが、話をしていてその学生がAO入試組かどうかは、言葉遣いや身振りで、なんとなくわかる。もちろん面接官が尋ねたり、会話の中で出ることもあります。5年前、弊社では『AO入試組は自分の武器を生かしている。
企業も企業人として特徴のある優秀な人材を』ということになり、積極的に採用したのですが、これが失敗でした。彼らに共通しているのは人としての基本能力の欠如です。
先日、ある商社の人事担当者とAO入試組の話になりました。その社員は学生時代、TOEICで900点を誇ったのですが、配属先の部長から文句が来た。『自分の言いたいことしか言わず、相手の話を聞かない。顧客とも社員とも協調しようとしない』と言ってきたそうです。このタイプは残業をしないし、会議でも自分の意見だけ言う」
ここまで来れば、学生個人の資質だけの問題とは言いがたい。大手通信会社社員によると、企業の人事担当者に敬遠されている有名大学の学部があるという。
「この学部の学生たちは、成績は優秀なのですが、大学でずっとコンピュータだけと向き合っていたため、偏りすぎているんです。周囲と馴染めず、適応能力がない。調べてみると、この学部はAO入試の割合がかなり高かった。履歴書にこそ書かせませんが、『AO入試組はやっぱり使いづらい』と企業側が感じるようになっているんです」
では、学生にとっても、企業にとってもいいところのないAO入試がここまで浸透したのはなぜなのか。
■「大学側の一方的な都合です。現在、中堅以下の私大では約7割が一般入試以外の入学。この層は試験が苦手、勉強が嫌い、もしくは勉強をしない。推薦組は、部活や生徒会での実績などの評価があるが、AO組にはそれすらない。従来だと大学に入れなかった層と考えられます」
(前出・原氏)
'09年は、高校卒業者のうち4年制大学に入学する者がついに5割を超えた。つまり2人に1人が大学に入る時代になったのだ。そのうち、推薦とAO入試による入学者は半数を超え、現在、AO入試組は約5万人と言われている。
少子化で学生数が減っているのに大学の数が増え、とにかく学生を集めたいという大学が山ほどある。なかには、面接当日に合格を通知したり、ある大学では一年中AO入試を実施するという青田買いが当たり前のように行われている。
人集めに躍起になる大学は、学生の数を見るだけで質を見なくなってしまった。学生の質が落ちるのがわかっていながら、大学がAO入試を拡充する理由は定員確保ともう一つ、偏差値の維持だ。AOで多く採用すれば、一般入試の枠が少なくなり、偏差値が上がりやすくなるという単純な理屈である。
昨年3月、これを問題視した文科省は、'11年度からAO入試の願書受付は8月1日以降にし、各種条件を課す通達を出した。が、あくまでガイドラインのため、糠(ぬか)に釘だという指摘が多い。
私学の雄は"無試験だらけ"
こうした大学全体の"無試験化"が進むなか、有名大学もその波に流されている。HRコンサルティング会社「ニッチモ」代表の海老原嗣生著『学歴の耐えられない軽さ』(朝日新聞出版)によれば、早稲田大学の看板学部、政治経済学部の入学者に占める一般入試の割合が年々下がり、'09年度では、わずか39.9%。他学部も、法学部32.6%、商学部39.8%といずれも4割を切っているのだ。
「推薦入試、近年のAO入試枠の拡充に加え、早大学院や早実など、付属校からの入学者がかなりの割合を占めます。国際教養学部などの学部を増設しても、総学生数は増えていないため、一般入試の割合が減っています。これでは、私大の雄としての看板を保つのは難しい」(早大関係者)
AO入試組とともに、推薦組、付属組も企業からは警戒されている。意外なところでは、名門高組も警戒の対象だという。
「採用側は大学名だけでなく、中高大のヒストリーを見るようになってきています。付属高出身はもちろん、開成、麻布、桜蔭などの名門高校出身者も警戒されつつある。彼らは企業に入った時に上司と融和できるのかという問題を抱えている。また、東京の私立出身の学生は受験勉強もマニュアル的にやるので、どこかナメているところがあるんです。
いま、企業が最も欲しがる人材は、公立中学~地方の名門公立校~一流大学という経歴の学生です。さまざまなレベルの子が集まる公立中学で勉強を続けることは、タフでないとできませんから」(前出.河本氏)
少子化、大学増加が拍車をかけたAO入試の拡大化。大学生たちの悲劇はまだ終わらない。
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