飛魚的日乗 (現代詩雑感)

詩のことを中心に書いていきます。

グドの鎮魂のために

2018-12-12 | 

その駅には何層にも線路が重なり合っている
無秩序に造られた無数の階段が囲んでいる
長い階段や幾重にも折れ曲がる階段が交差する

駅の四方からは何本もの鉄路が乱雑に延び
どれが何処にたどり着くやら誰にも想像がつかない
ホームへ走り込む電車の両側で街は激しく勾配を増す
だから昼も夜も駅のまわりの景色はチカチカしながら
伸びたり縮んだりしている
キィキィとブレーキの音が響いてる
ワオンワオンと人の叫び声が渦巻いている

あたりを鎮めるために
やむなくグドはピアノを弾く
見えない別のグドと一緒に連弾する
グドのピアノにも何層もの線路が重なり
錯綜する無数の階段がグドを囲んでいる
グドがピアノを弾くと
長い階段も折れ曲がる階段も途中で消える
グドから何本もの鉄路が乱雑に延びる
どれがどれにたどり着くやら
まるで想像がつかない

グドはかつてキリストみたいに
死んだことがある
別のグドも死んでは蘇える
何回も死ぬ
死んだら終わりなのだが
グドは死んだままモーニングを着る
カタコトとピアノを連弾する
それから家に帰って奥さんを抱き
四万十川まで連れて行く
川のほとりで二人で魚を食べる

駅の脇のゴミだらけの道路で
白いエプロン姿の曲目の女王が僕に囁やいてくる
生活圏の柩の中には猫が密生する
柩の中の生活圏には亭主が住み着いている
つまり女王には猫に似た絵描きの亭主がいて
さっき死んだばかりで
次に死ぬまではまだ間があるということだ

グドは死んだ絵描きに弟子入りする
連弾する飛び跳ねる指が
赤や黄や青でまだらに染まる
ピアノの音がぶつかるから
みんな我先に駅から逃げ惑う
音がぶつかると何かが浮かぶ
それが何だか誰にも分からない

分からないと
頭のなかの傾斜がだんだん急になり
そこをすかさず電車が走り
走る電車はいつも
ひゆるひゆると警笛を鳴らす
警笛が鳴ると
クリネズミが走る
クリネズミと一緒に女王も走る
グドも別のグドも絵描きも猫も
みんな走る
みんな生きたり死んだりする
つまり世界は単純に発動するのだ

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