飛魚的日乗 (現代詩雑感)

詩のことを中心に書いていきます。

夢の海坂(うなさか) 

2013-12-20 | Weblog


夢の海坂(うなさか)


いつまでも
ばしゃばしゃという音が聞える
ぼくたちが(ぼくが)
耳の奥で
重いとか軽いとかつぶやく
夢のなかの場所が
ここに(たぶん ここに)あるのだから

ぼくたちが(ぼくが)
通り抜ける
数行のことばの列
揺れているその背後に
石の棺が浮かぶ
船のかたちの血の流れた痕の
幾条もの溝や裂け目が交差するそこへ
夢のなかの遠い空に絡みついている鳥たちが
せわしなく見えない脚注を運び入れる
こめかみのすぐ先にまた浮かぼうとする
「玉桙みちゆくあしひき」の首が
ところどころ抉れる
「ひとうみぢ塞ふみち」が窪む

もう 泣いたり叫んだりするな
ぼくたちは(ぼくは)
ひたすら降りしきる雨の音だ
揺れている深い水に沈む響かない楔形の記号だ
降り詰める夢に埋まる耳の奥の
微かな骨でバシャバシャという
音を
バシャバシャと
見えない水の流れを聴いて
ぼくたちは
(ぼくは)
「おきつくにうしはくきみが
そめやかたきそめの」
と唱えて渡る
小声で
呟きながら水に浸かる
薄い胸に石を並べて数える
海へ向けて
はりめぐらされる
深い水脈へ首をひねる
浅い瀬に横たわる神の抜け殻
その洞(うろ)の声の響く暗いところに
鳥たちの呪文を埋める

ぼくたちは
(ぼくは)病んだ足を剥きだす
棒切れのように高く積み上げられる
火あぶり水あぶりの時間の
重なり合う脛が触れている
「きそめのやがたの」の石に刻む
あらゆることばは
「うみぢにいでたちふさう」
ぼくたちを
(ぼくを)さかさまに通りぬける



注 (万葉集第十六巻 三八八八)(万葉集巻十三 三三三五)から引用する。