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映画「ドリーム」@シネマイクスピアリ

2017-10-16 21:13:53 | 映画感想
映画を何処で見たか、は自分の中ではある程度の重要度があり、
今過去の映画感想を全部見直し、場所をタイトルに入れようとしているところ。

しかし、見返してみたところ、試写会場は結構書いているが、
一般の映画館の記述がないものが多く書ききれていない。
古い資料などを見ればわかるものもあるはずだが、そこまでやる気にはなれない。

それはさておき、この映画は舞浜のシネマイクスピアリで見た。
よく行く4つの館のうち、最も東にある映画館に当たる。

2017/10/13、シネマイクスピアリ。
5番スクリーン。
シネマイクスピアリは120席、164席、190席、314席のスクリーンが
それぞれ4つの計16スクリーン、3154席からなるシネコン。

5番は314席のスクリーンの一つに当たる。
過去に見たときにどの列が良かったかの情報を残していないので、
中央通路の2列後ろ、J列を選択した。

**

タラジ・P・ヘンソン、オクタビア・スペンサー、ジャネル・モネイ、
ケビン・コスナー、キルスティン・ダンスト。



1961年、バージニア州。NASAで働く仲良し黒人女性3人組の物語。

本題に入る前に、当時の米ソの宇宙開発戦争を整理しておく。

そもそも、宇宙ロケットと大陸間弾道ミサイル(ICBM)のロケットが原理的には同じものであり、
ICBM開発の延長線上に宇宙ロケット開発があったことはよく知られている。

1957年10月、当時のソ連は、発信機を乗せた人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功。
次いで、11月、今度はライカ犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げに成功した。

その後、1960年8月に打ち上げられたスプートニク5号ではついに搭乗した2匹の犬や
その他の動物の帰還回収に成功した。

一方のアメリカは、ソ連のスプートニク1号の成功に危機感を覚え、
1957年11月、NACA(アメリカ航空諮問委員会)に「宇宙技術特別委員会」を設置、
委員会は1958年3月にNASA(アメリカ航空宇宙局)に改組され(活動開始は同年10月)、
NACAは解体された。

アメリカ初の人工衛星はJPL(ジェット推進研究所)が製造し1958年1月に
打ち上げに成功したエクスプローラー1号。

なお、JPLは同年12月にNASAの指揮下に入っている。

ソ連は1961年4月、ユーリー・ガガーリンを乗せたボストーク1号で地球を一周し、
初の有人宇宙飛行に成功した。

アメリカはマーキュリー計画で有人宇宙飛行を目指したがなかなか成功せずソ連に後れを取った。

そして、1961年5月、アラン・シェパード飛行士が搭乗し、15分の有人弾道飛行に成功。

1962年2月、ジョン・グレン飛行士により地球3周のアメリカ初の有人周回飛行に成功した。



1961年と言えば、やっとトランジスタ式のコンピューターが登場したころで、
事務所では電動機械式計算機がまだ幅を利かせていた。
電卓(電子式卓上計算機)を各メーカーがこぞって販売するようになるのはその数年後。

一方でいわゆる汎用機(メインフレーム)と呼ばれる大型計算機も登場し始めた。
IBMは1959年にトランジスタ方式のメインフレーム機IBM7090をレンタル開始していた。
(当時のコンピューターは超高価だったためレンタル方式だった)



1961年当時はまだまだ黒人差別が行われていた時代で、トイレや飲食店、バスの乗車位置まで、
白人用と有色人種用に分けられていた。
1960年代のボルチモアが舞台の2007年の映画「ヘアスプレー」でも、
黒人と白人が柵などで仕切られている様子が映し出されていた。
そんな時代。

**

そんな時代背景の下、いよいよ本題に入る。
幼いころから数学に卓越した才能を見せたキャサリンは飛び級で進学、ぐんぐんと力を発揮した。
(15歳で大学に入学、18歳で卒業している)

やがて、1961年。
成長したキャサリン・ゴーブル(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ボーン(オクタビア・スペンサー)、
メアリ―・ジョンソン(ジャネル・モネイ)の3人は、NASAで勤務していた。

当時のNASAでは、計算や検算のために多くの計算手(コンピューター)を雇っていた。
その多くは女性で、黒人たちは西計算センター、白人たちは東計算センターで勤務していた。

ソ連の人工衛星の成功にアメリカ政府や軍の焦りは募った。

当時のNASAでは、有人飛行へ向けてマーキュリー計画が進められていたが、
有人宇宙船を大気圏に再突入させる際の計算をする有効な計算式が見つけられないでいた。

ドロシーは計算手を束ねて主任格の仕事をこなしていたが、処遇は一般社員のまま。
管理職への登用を嘆願するもスーパーバイザーのビビアン・ミッチェル(キルスティン・ダンスト)は
黒人の管理職は前例がないと却下する。

メアリーは技術者としてカプセルの開発チームに移動するが、「技術者としての処遇」は
与えられないままだった。
昇格基準に必要な資格(白人専用の学校でしか取れない)がないと言われる。

スペース・タスク・グループ(STG)の責任者、ハリソン(ケビン・コスナー)は、
不足している解析幾何学の研究者を探しキャサリン・ゴーブルの推薦を受ける。

とはいえ勤務場所は白人仕様の東計算センターで、STGには女性もいなければ、黒人もいない。
(庶務係は白人女性)
検算を任されるも渡された資料は黒塗りだらけで、苦情を言っても取り合ってもらえない。

有色人種用のトイレは被害計算センターにはなく西計算センターまで走っていく毎日だった。

そんな中、IBM7090が導入されることとなった。1秒間に24000回の計算ができると言う。
IBM7090が稼働し始めると計算手は要らなくなるかもしれない。
危機を感じるドロシーは独自にFORTRANの勉強を始める。

そういう環境で、ドロシー、キャサリン、メアリーは実力を発揮し、
未来を拓いていくことができるのだろうか

中でもキャサリンはマーキュリー計画の中で力を出すことができるのだろうか。



こういう実在の人物を扱った映画の場合、本人の映像が最後にクレジットされることが多い。
本作でも3人の女性の写真が映し出されるが、キャサリンは一見すると黒人には見えず、
かなり白人に近く見える。

実際のキャサリン・ジョンソンは、父親は黒人だが、母親は白人とインディアンの混血らしい。
もしそうだとすると白人は1/4と言うことになるが、その子供の見かけが黒人っぽくなければならない
と言うことはない。

実際にキャサリンがNASAに就職できたのはNASAがアフリカ系アメリカ人を
雇い始めたことを知って応募したからだし、処遇はアフリカ系アメリカ人のものだったと思われる。
なお、キャサリンがNASAに雇われたのは35歳の時だったらしい。



1960年代。
まだまだ実質的な黒人差別が横行し、女性に対しても偏見が強かった時代。
3人の優秀な黒人女性がNASAの宇宙計画に多大な貢献をしたものの、その実績が知られることはなかった。
もちろん映画なので多くは脚色されていると思う。

しかし、障壁を派手な運動や抗議行動ではなく、実績や地道な努力や見事な説得力で切り開いていく
3人の女性の姿が爽やかに描き出されている。



原題は「HIDDEN FIGURES」
FIGUREはフィギュア、姿、形、図形などの意味で、直訳すれば「隠された姿」。
「知られざる人々」みたいな感じか。

確かに原題でも訳でもロケットの話とは分かりにくいとは思うが、
邦題の「ドリーム」はちょっとピント外れ。

当初は「ドリーム 私たちのアポロ計画」だったらしい。
マーキュリー計画じゃ日本人になじみが薄いが、アポロ計画だと宇宙ロケットの話と分かる、
とでも思ったんだろうが、本気でそう思っていたかどうかは別として、それはあまりにもあまり。

「ドリーム」の方がまだましだが、もう少し気の利いたタイトルは考えられなかったのだろうか。



FORTRANはプログラミング言語のひとつで科学技術計算を得意とする世界初の高級言語(コンパイラ)。
FORmula TRANslator(数式翻訳機)が名称の由来と言われる。

FORTRANにはバージョンがいくつかあり、IBM7090用のFORTRANは
「FORTRAN IV」である。

ドロシーはテキストでFORTRANのコーディングはできても、
カードリーダーに読ませるパンチカードを作るには機材が必要だ。

機械式のキーパンチ(カード穿孔機)以外に手動で穴をあける装置(ポータ・パンチなど)もあったので、
ドロシーにも作れなくはないが、穿孔器具と穴の開いていないカード(ブランクカード)を入手する必要がある。
入手するとなると、それなりに苦労もあったはずだが、全く触れられていない。



ハリソンが新しい数式が必要、数式が見つからない、と言っていたのは、
おそらくは「式」ではなく、微分方程式の解と思われる。
はっきりと覚えていないが新しい数式ではなく「オイラー法」でやると言ったのは、
微分方程式を厳密に説くことを諦めてオイラー法で近似解を求めると言うことだったと思われる。

オイラー法は微分方程式の数値解を求める近似計算法で、厳密解ではなく
ある程度の誤差を持つ(要は近似値、近似解)
一発で精緻な数値が算出されるわけではないので、後退オイラー法と組み合わせるなどして
精度を高める方法が取られる。

現在ではより精度の高い近似値を求める方法として高次のルンゲ・クッタ法などが用いられているらしい。

キャサリンが黒板にずらずらと板書している式の多くは変換/展開された数式ではなく、
実際の数値が入った計算式。
ただ、彼らが必要としているのは数学的な解ではなく、実際の計算結果の数字なのだからそれで良いのだろう。

なお、物体の運動の解析は容易ではない。
ニュートン力学で簡単に解けそうに思うが、ニュートン力学が扱うのは二体問題(2つの物体の相互作用)までで、
これが三体問題(3つの物体の相互作用)になると途端に難解になり、一定の制限の範囲でないと解くことができない。
計算量の過多や式の複雑さではなく、原理的に解法が得られておらず、数値解析などによる近似解しか得られない。



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2 コメント

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Unknown (クマネズミ)
2017-10-17 08:15:44
お早うございます。
こういった理系の映画において、描かれている人物がとにかく偉いと言われた場合、実際のところ、どこがどのように偉いのか門外漢にはよくわからないことが多く、それでイマイチの感が残ってしまいます。
本作のキャサリンが優れていたのは、新しい「数式」を導出したからではなく、「オイラー法」に気がついたからなのか、そうだとしても、周りの研究者たちはなぜそうした方法に気が付かなかったのか、などモヤモヤ感がどうしても残ってしまいます。
尤も、そこらあたりをいろいろ説明されても、今度はこちらの乏しい理解力ではついていけなかったりしますから、本作くらいの描き方で十分なのでしょう。
返信する
オイラー法 (KGR)
2017-10-17 09:10:20
宇宙船の軌道計算のための運動方程式=常微分方程式は作れたのでしょうが、その解の数式がわからなかったものと思われます。
オイラー法は古い近似計算法でおそらくは研究者の大半が知っていたものとは思いますが、誤差が大きく使い物にならないと思っていたのではないでしょうか。
キャサリンも改めて文献で調べてましたし。
実際にはある程度の誤差を覚悟で精度を高める工夫をしたものと思います。
観客に分かるかどうかは別として「誤差はどうする」「(後退オイラー法と組み合わせれば)精度はあげられます」とかなんとかセリフでもあれば良かったかも。

この辺はよくある、デジタル機器がうまく機能せず、アナログな知識や機器を駆使して問題を解決するみたいな展開かと。
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