山田風太郎の明治物。
《警視庁草子紙》を読みました。
NHKの金曜時代劇でドラマ化されておりましたね。
画像にあげたのは、比較的手に入れやすいちくま文庫版ですが、
実際に読んだのは文春版。図書館で借りました。
いや、古いだけあって所々染みがあったり、妙に切れていたり、線が引っ張ってあったり、歯型がついていたり…。
図書館の本はもっと大事に扱おうよ。
なんだい、歯型って。笑。
初代警視総監川路利良を先頭に近代化を進める警視庁と元南町奉行駒井相模守、元同心、元岡っ引の知恵と力を駆使した対決を2冊で送る。
大久保利通、岩倉具視、一葉、山田浅右衛門ら実在の人物と架空の人物が銀座煉瓦街を駆けめぐる。 (BOOKデータベースより)
という物語は、明治の巨星西郷隆盛が東京を去る朝から始まります。
語られるのはその日からの3年半。
西南戦争へ官軍が出発する朝までです。
舞台となるのは明治初年の東京の一角。
帝都東京の治安は川路大警視率いる警視庁が預かっています。
ところが警視庁というのは東京市民にはとにかく評判が悪い。
薩長を中心とした元志士達や、官軍友藩・幕府方の元侍達がなれない東京(江戸)で不穏分子や犯罪を取り締まるのですから、官権を楯に上からバシバシ取りしまる。
大家店子に町名主といったつながりを持って町の色々を収めていた江戸時代とは、
万事色々違うのです。
川路大警視率いる警視庁を向こうに、東京の片隅で細々とした事件を解くのは自ら『隅の老人』を名乗る元南町奉行・駒井相模守。
江戸八百八町の父親のような気持ちで、市井の片隅で事件を解いて警視庁に挑戦ともいえない挑戦を繰り広げていく。
語り口も洒脱で、『隅の老人』とは江戸時代の大伝馬町の牢獄の、牢名主を勤めた者が舞い戻ってきた時の呼称。と説明されても、読んでいる方にはオルツィの『隅の老人』が思い浮かぶでしょう。
駒井相模守が「ごめんや池波正太郎殿」と呟く場面があったりするのも、この物語を盛り上げていきます。
史実に基づいた事柄が語られているかと思うと、いつの間にが作者の嘘に巻き込まれている。
虚虚実実の語り口は山田風太郎の面目躍如といったところで、この人以上に達者な人はいないのではないかしら?と思えてきます。
とにかく上手い。
読んだが最後、ぐいぐい引き込まれます。
虚虚実実の物語には、無理を重ねているという風には見えないのです。
(歴史に詳しい人なら、あえて無視されている点を発見できるでしょうが)
とにかく面白い。
夏目漱石や樋口一葉の邂逅。斉藤一、永倉新八の消息。
後に一世を風靡する芦原将軍が出てきたかと思うと、
明治随一の毒婦といわれた高橋お伝を哀れみのある女性として書き、
江戸代々の家伝の勤めを果たす石出帯刀・山田浅右衛門の維新後の生き方が語られる。
山田風太郎の作品が文庫・全集で容易に手に入るのがありがたいです。
読んだことのない人はぜひ一度手に取ってください。
船旅で外国に出掛かるときに、持って行きたくなることを請合いますよ。