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 徳間書店から刊行されたゲームブック「首都消失」(雅孝司・著)をプレイしました。




 首都圏が“雲” におおわれて消失した!
 “雲” を破壊するためには、超電導磁石システムの制御プログラムが必要だ。しかしそれは、ある建物のどこかに隠され、守られている。きみは、首都と日本を救うため、隠し場所に潜入して制御プログラムを盗み出さなければならない。しかも、きみは<怪盗>なので、ただ働きに終わらぬよう、自分の利益も確保しなければならない。
きみのまえには、“雲” の破壊を妨害する敵も現われる。はたしてきみは、2つの目的をとげることができるか!


雅孝司「首都消失」(徳間書店)表紙折り返しより。




 主人公の竜坂有瀬(たつさか・あるせ)は、東西大学工学部の学生なのですが、怪盗という裏の顔も持っています。覚醒剤の取引をしていた暴力団から3000万円という大金を奪って逃走している最中に、東京を覆う雲が出現するところに遭遇します。間一髪で難を逃れた竜坂は、なんだかんだで、雲をなんとかするプロジェクトに協力することになるのでありました。
 タイトルを見ればおわかりのように、本書は映画にもなった小松左京のSF小説「首都消失」のゲームブック版となっています。実は私、原作は小説も映画も未見なので、読了後にwikipedia でちょっと調べてみました。東京を謎の雲が覆い、外部との連絡が途絶えてしまったのでそれをどうにかしようというシチュエーションや、何人かの登場人物は共通なのですが、主人公はゲームブックオリジナルで、基本的にはパラレルワールドのような話のようですね。

 ゲームシステム的には特別なものはなく、ほとんどは選択肢を選んでいくだけで進めていくことができます。○○を持っているなら、とか、△△に会っていたなら、とか、以前の行動によって分岐する場面はありますが、メモを取らなくても問題なく進められるレベルです。
 サイコロを振る場面もあるので、手元にサイコロがあるのなら用意していた方がよいと思います。サイコロがない場合にはランダムにページをめくって印刷してあるサイコロを参照するという仕組みになっているゲームブックが多いのですが、本書では時計を見て、そのときの時間や分によって数値を算出するという、ちょっと変わったシステムになっています。

 冒頭にも明記してあるのですが、全体的には難易度はそれほど高くありません。選択によって有利不利が発生することはありますが、事前にヒントとなる情報が得られることも多いですし、たとえ選択を間違えたとしても、遠回りすることになったり、成功の確率が減ったりするくらいで、すぐにゲームオーバーになるシーンはそれほど多くはありません。むしろ遠回りするルートで、有益な情報や便利なアイテムを入手することができたりすることもあったりしますしね。かなり親切な設計で、ストレスがたまることもなく、すいすい読み進めることができます。

 ストーリー面をみてみると、ちょっといまいちかなぁという印象を受けます。その理由のひとつとして、主人公が学生かつ怪盗であるという設定が挙げられるかもしれません。学生なのである程度自由に動ける上に、麻酔スプレーの使用やピッキング、変装などの、怪盗としての能力も持っています。これ、作者サイドからすればとても話を動かし易い便利な設定なのですが、ちょっと都合がよすぎて、ある程度のリアリティを持っている他の登場人物と比べて荒唐無稽過ぎる気がします。
 さらに、主人公の役割が、雲をなんとかすることではなく、雲をなんとかするための情報を入手することだということもあります。多少アクションシーンもあったりしますけど、全体のストーリーの流れからすればちょっと脇役で、華々しさに欠けています。そういった部分を埋めるのが、怪盗としての仕事もこなさなくてはならないという要素かと思うのですが、その部分の選択肢は唐突で取ってつけたような感じですし、パラグラフもあまり多く割かれてはおらず、本編と上手くリンクさせることができていないと思います。いやまあ、金を得るための方法としてはアリなんですけど、あんまりその手段が怪盗らしくないですしね。

 本書は小説・映画のゲームブック化ということだったわけですが、ゲーム自体は丁寧に作られていて、好感が持てました。しかし、原作の持つ魅力を消化・再構成する過程で、ちょっとバランスを崩してしまった部分もあったのが残念です。そもそも原作自体が、一人の主人公を追いかけていくというゲームブック形式に、あまり向いていなかったんじゃないかと思います。それをカバーするための怪盗という設定も、原作の雰囲気からちょっと浮いていて、活かしきれていませんでした(繰り返しますが、原作は未読なので、あくまでも推測です。ただ、本書の中だけでも、原作から引っ張っていると思われる部分と、オリジナルと思われる部分の乖離は感じられました)。まあ、このあたりが、原作モノの難しさ、なんでしょうね。



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