ギリギリ探偵白書・213


 ギリギリ探偵白書
 「赤いスポーツカー・第2話」


 
 直接、調査に参加はしていないが調査の指揮を取る身として
 全ての調査が終わるまで仕事から解放されない。
 そんな中、田中からの連絡が全くないことに気が付き電話をかけると
 逆に緊急の応援要請をされてしまった。



田中   「すみません。代表、応援に来てもらえますぅ?」

阿部   「・・・イヤだ!!と言いたいところだが、仕方ないな」


私は自分の車で現地に向かう事になった。
深夜になろうとしている時間は、比較的、道も空いている。

私は予定より少し早く、対象者が所有しているペンションに到着した。

ところが、私が到着した途端、対象者のベンツのヘッドライトが付いた。

(ん?走り出すのか?)

私はすぐに無線のスイッチを入れ、田中に状況を確認した。


田中   「わかりません。女を迎えに行くのではないかと・・。
      追って下さい!!」

阿部   「・・・何だかわからんが、任せろ」


調査現場の動きは早い。考えている暇や物事を問いただす暇などは無い。
全てが「急に」動き始めるのだ。

私は一度、車を道路の脇に入れ、対象者の車が県道に出るのを待った。

対象者の車はタイヤを鳴らしながら、県道に入っていった。
この県道は、県道とは名ばかりで、峠道になっている。

私は車を急バックさせ、対象者の後を追った。

さすがにスポーツタイプのベンツである。
異常なスピードで各コーナーを曲がって行く。
かたや、私の車は型落ちの国産車。
スポーツタイプと言っても、エンジンの性能は対象者のベンツの4分の1。

無理をしなければ、尾行などは出来ない。

私はサイドブレーキとアクセル、ハンドリングを何とか制御しながら、
車を滑らせ、対象者の車を尾行した。

時折、エンジンが悲鳴をあげているような音になる・・・。

峠道の中盤あたりで、田中から無線が入った。


田中   「すいません!!離脱します!!」

※「離脱する」・・・尾行不可能な状態。後は任せるの意味。

(ちっ、田中のオンボロ車は離脱か・・・)

私の車も限界が来ている。何度も見失いながら必死で追いかけている状態だ。

後で聞いた話だが、対象者である夫はモータースポーツが趣味で
時折、レースに出るような公式ライセンス保持者であった。

この時は、そんなことは知らない。
もし、知っていれば、私も離脱していたかもしれない。

しかし、この時は必死である。車を道の枠内に収めながら
何とか国道に差し掛かかるところまで尾行を継続した。

(よしっ!!追いついた)

ちなみに車両での尾行は、対象者の車のルームミラーで確認するのが難しい程度の距離をあける。
また、混雑時は数台、別の車を対象者の車と調査車両に挟みながら行う。

この調査の場合は、見通しが良く、走行台数の少ない県道のため
かなりの距離を取り、尚且つ側道や国道の入口付近では近付く。
つまり、対象者の車は一定の速度を保っていても、追い掛ける調査車両は、スピードに強弱をつける。

具体的に説明すると、50キロで走る車を40キロで尾行したり
同じスピードで尾行したり、時には100キロで追いつき、方向を確認するということを繰り返し行う。

(キンキンキンキンキンキンッ)

私の車のエンジンから妙な異音が聞こえてきた。

しかし、対象者のベンツは異常なスピードで国道を走っている。

調査に「ちょっと待った!!」は有り得ないのだ。

若干、掌に汗がにじんできている。

対象者のベンツは、駅のロータリーに滑り込むように入っていった。

そこには、調査資料にあった対象者の夫の秘書が待っていた。

(・・・なんだよ。ただのお迎えかよ)

そう思い、気を抜いたとき、田中から電話が入った。


田中   「代表、ここからがヤマです!その対象者はペンションで密会をしません!
      どこかのホテルに入ります!!」

阿部   「・・・意味がわからんが・・・」

田中   「ええ、ペンションは遠隔の防犯カメラで監視できますから、奥さんが
      監視しています。だから、いつも別のところに行っています!!」

阿部   「何とも・・・訳のわからん事をするな・・・」


得てして、対象者の行動は「訳がわからん!!」という事が多い。
きっと、対象者の夫もできる限りの工夫をしているのだろう・・・。
しかし、それならもっと別なところへ行けばいいだろうに・・・。


田中   「駅ですか?」

阿部   「ああ、駅だ。○×駅」

田中   「向いますが、多分、追いつかないんで、よろしくお願いします」

阿部   「・・・わかった。急げよ」


私は自分専用のビデオカメラを取り出し、証拠の収集を行った。
対象者の夫とその愛人秘書は、新婚カップルのように親密さがうかがえる。

(・・・ベタベタしてるぞ・・・。)

そして、対象者と女性はベンツに乗り込んだ。

一瞬、緊張が走る。

しかし、女性を乗せた対象者の車は、実に安全運転であった。
のんびりペースのまま、温泉付のホテルにチェックインしたのだ。

私も対象者と同じ階までエレベーターに乗り、部屋に入るところまでを証拠に収めた。
あとは、フロントにわがままを言って、同じ階の部屋を取るだけだ。

私はフロントの係りにいつも通りのわがままを言って、対象者が入った向かいの部屋
を無理矢理取った。

そして、田中達が追いついてくるのを待った。
泊まって温泉を楽しみながら、調査を行いたいところだが、私には次の日の朝から
予定が入っている。

(残念!!かなり残念だが、家に帰らないと・・・)

ホテルには田中が泊まる事になった。
私は車両の中で張り込まなければならなくなった調査スタッフ2人に
コンビニ弁当を渡し、帰路についた。

そして、その帰り道、自宅付近で問題が発生した!!

帰り道、異常な腹痛に襲われた私は、コンビニでトイレを借りた。
その駐車場で・・・。

エンジンがかからない!!
ニントモカントモ、動かない!!

しかし、自宅の駐車場までは約100メートル。
仕方なく、私は深夜、1人で車を押し、自宅の駐車場まで車を運んだ。

後日、車屋に修理に出すと、メカニックのお兄さんに・・・。


メカニック 「ダメだよ!!こりゃ・・・。何キロ出したの・・・。
       タイヤもダメだし、足回りもダメ。エンジンは死んでるし・・」

阿部    「何とかならないの?」

メカニック 「直したら、100万円はかかるよっ」

阿部    「マジかよ・・・」


そして、タイミング良く車屋の営業マンが登場し・・・。


営業マン  「今なら、新車がいいですよ。お子さんも生まれたことだし!是非!!」

阿部    「・・・・・」


ニントモカントモな気分である・・・。





        完



 メールマガジン「ギリギリ探偵白書」の復刻版です。

 ギリギリ探偵白書は、過去に行った調査を本人了承のもと掲載しています。
 尚、調査時期や調査対象者・ご依頼者様の個人情報は本人様の請求以外は開示いたしません。
 また、同作品に登場する人物名は全て仮名です。


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