猛暑日が続く中,静かに暮らしたいのに,余計な暑さをもたらしている,平和安全法制の審議です.平和安全法制は,十の法律の改正である,
1.「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」(以下,衆議院閣七二号議案)と
2.新しい法律である「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(以下,衆議院閣七三号議案)の二つで構成されています.
政府の簡略版説明資料はこちら.
衆議院閣七二号議案は,十の法律を一まとめに書いてあるので,法案だけを読んだだけでは,一体何が変わるのかとか,何を狙いとしているのかが,わかりません.
なので,十の法案を文章の中での変更として書いてみました.こうすると,どこが変わったのかが少しは,見つけやすくなります.疑問などは,また,別にするとして,まとめておきます.
閣七二号議案
第一条 自衛隊法の改正
その1:自衛隊任務の改正(第三条)
その2:自衛隊行動の改正(第六章)
その3:自衛隊の権限の改正(第七章)=武器使用権限の変更です.
その4:雑則の改正1 = 雑則と言いながら,米軍と豪軍との連携に関して,主に,物品の提供に関することです.政府の説明資料では「物品および役務」となっていますが,条文を読む限り,「物品提供」を拡充したことにしか読み取れません.どこか読み落としをしているかもしれません.しかし,この雑則で,政府が頻繁に説明する,米軍艦船の警護が可能になるので,重要な改正です.
その5:法令の適用除外の改正
第二条 PKO法の改正
従来のPKOに加えて国際連携平和安全活動というのを加えています.違いをざっくり言うと,従来のPKOは国連事務総長の依頼に基づき,後者はそれが要らないと言う点です.法律の全体にわたって改正され,かつ,長いので4つに分けました.
第三条 周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の改正
この法律では周辺事態を削除し,新たに「重要影響事態」と言う概念を導入しています.
重要影響事態:そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態,と,なっていますが,具体的な想定がどのようなものかは,当然,法律案だけからはわかりません.
長い法律なので,二つに分けました.
重要影響事態およびPKO法の改正のより実施する船舶検査(戦艦以外の検査)の改正です.戦艦の検査は,別の法律で対応しています.
第五条 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律の改正案
その3(現行法第三章)=現行法の第三条は全て削除されます.
その4(改正案第三章) =現行法のの第四章が繰り上がって第三章になります.
この法律は名前が,改正され,武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 となります.野党が憲法違反ではないかと言っているのが,恐らく,この法律の「存立危機事態」と言う概念です.
武力攻撃事態の定義:武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。
存立危機事態の定義:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。(第二条第四項)
この法律の問題は,政府は存立危機事態を宣言するには,上記の定義に加えて,
(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を 守るために他に適当な手段がないこと (第九条)
(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと (第三条第三~五項)
の三要件が必要であると説明しています.でも,上記の通り,三要件が,特定の条項にまとまっているわけではなく,バラバラに書かれています.第一の条件だけでも宣言しようと思えばできなくもないと,野党が質問している所以であろうと思います.
第六条 武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
この法律は改正案により 法律名が「武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律」と変わります.
この法律の改正の大きな点は,米国軍との連携を密にすることと,同盟条約が無い外国の軍隊とも連絡等を取りあうとしていることです.つまり,「集団的自衛権」の背骨とも言える法改正です.
第七条 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律改正案
この法律の不思議な所は,他の法律の改正では,法律名に「及び存立危機事態」が付け加えられているのに,この第七条の法律名は変わりません.推定理由は後で述べます.
第八条 武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律改正案
この法律は「武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律」と改名されます.
この法律は,自衛隊法の第六章 自衛隊の行動において,「防衛出動」した自衛隊の部隊による外国軍艦の輸送規制(海上封鎖?)に関する法律です.改正前は,日本領海およびその周辺となっていましたが,存立危機事態の概念の導入に伴い,地理的概念は削除されています.
第九条 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律改正案
条文の多い法律のなので改正部分のみ書きました.この法律名は「武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律」と改名されます.
この法律はほとんどが重要影響事態と存立危機事態の定義を導入したことによる用語の置き換えです.でも,この法律を変える必要は,用語の置き換えではなく,重大緊急事態として「武力攻撃事態等、存立危機事態、重要影響事態、国際平和共同対処事態」を併記しています.恐らく,2015年夏の国会の議論の的の「集団的自衛権」をまとめている法律とみなすことができます.
附則第八条 サイバーセキュリティ基本法の改正 国会の政府答弁において,サイバーセキュリティへの対処が必要と言っていたので,なにか,重要な改正が反映されているのかと期待しましたが,当該法律の「附則第三条 で読んでいる法律名:武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の 確保に関する法律武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 のみです.
<第七条の法律名が変更されず, 第五条,第六条,第八条 および 第九条の法律名が改正される推察理由>
第七条は日本国内法による施設の利用について,日本への直接武力攻撃への対応のため制限等を設ける法律です.しかし,「存立危機事態」には,十の法律全部を斜め読みすると,日本国外,場合によっては公海上で行う自衛隊の防衛出動行動です.なので,日本国内の施設の利用に制限を設ける必要がありません.そのため,法律名が変わっていないのであろうと推察します.
同様なことは,第九条 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律改正案の中の捕虜が死亡したときの措置(第七十一条第一項の条文)からも推定できます.
法律への賛否は人それぞれでしょう.
でも,賛成するにせよ,反対するにせよ,法律を一通り読んでから決めるべきではないかと思います.
憲法の合憲・違憲議論とは別に,それぞれの法律は,すべて,改正内容を詳しく審議されるべきで,素人の私が読んでも,これで良いのであろうか?と疑問に思う点が多々あります.
読むのに疲れますが,政府の提案法案よりは読みやすいと思います.
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