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『続・100年予測(ジョージ・フリードマン著)』を読んだ記録

2016-03-04 13:28:13 | 税金・納税者

ジョージ・フリードマン著 続・100年予測 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)(文庫版2014/9刊,単行本2011/6刊)を3日間で読んだ。

続・100年予測 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ジョージ・フリードマン著(文庫版2014/9)
早川書房

この本の前著である『100年予測 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』を読むためには1週間を要した。 一方,続編にあたる『新・100年予測――ヨーロッパ炎上』には2週間を要した。 それらと比較すれば,かなりの速読をしたことになる。

 

この著作は日本での書名は『続・100年予測』であるが,英語の原題は"THE NEXT DECADE"である。原書の発刊が2009年10月であり,それから10年先までのことを書いている。

より具体的には,2010年から2020年の10年間に『米国大統領』がなすべきことを提案している本である。つまり,オバマ大統領の二期目と,2016年の大統領選挙を戦っている候補者に向けた本である。

この本の特徴は,日本語版解説の冒頭の一節を引用するとわかりやすい。

『時限爆弾のような書物である。「政治的に正しく」はない,不穏で危険な世界認識と提言がちりばめられ,不穏で危険な書物である。』(東京大学准教授/イスラム政治思想 池内恵氏)。

しかし,私には,不穏であったり,危険な世界認識や提言が記載されているようには,全く思えなかった。

著者の歴史認識や,現状認識,および,提言について,ほとんどの部分が同意できる。

本書は,解説も含めて366頁あり,アメリカが関係する世界中との関係について述べている。しかし,それは,個々の地域の具体論を述べているからであって,著者が本著作に込めた意図は,以下のようなものであろう。

1.米国は,好むと好まざると,現代唯一の帝国であること認識すべきである。

2.帝国である米国を代表する指導者は大統領であり,その大統領は,理想主義にも現実主義にも傾きすぎてはいけない。冷徹に米国の国益を維持し続けるべきである。

3.その手段は,かつてのソ連のように米国に対抗可能な帝国を作らせないことである。そのための手段が,各地域において勢力均衡を作り出し,特定の国家が突出しないようにすべきである。

その具体論を述べるために三百数十ページが必要であったに過ぎない。

著者と私の認識にずれがあったのは,冒頭の一点である。それは,私の現状認識が間違っていたに過ぎない。著者の方が正しい。

著者,米国が帝国となって20年(2009年時点)しか経っていないと考えている。日本の70年安保闘争は米国帝国主義に反対していたのと20年のずれがある。著者からすれば,ソ連崩壊以降が,米国が帝国となった始まりであった,その前の戦争は,ソ連と対抗としてベトナムでも,もちろん,朝鮮半島でも対応していたに過ぎない。日本の経済復興でさえ,著者に言わせれば,ソ連の脅威のため,日本の経済復興を支援したとなる。

そして,米国は,望んで帝国になったわけでないとする。しかし,世界において唯一の帝国となった以上は,そのように振舞う必要がある。と,いうのが,著者の提言のスタンスである。

 

これらは,どこかで読んだようなことである。私が好んで読んだ『塩野七生著 ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)』においてオクタヴィアヌス(アウグストゥス)が属州も含めて広大になったローマを統治するために行ったことと,ほとんど,同じである。

 

著者は,マッキャベリの言葉を数多く引用する。以下にそのひとつを示す。君主論からの引用であろう。

『したがって君主は,戦いと軍隊の組織や規律以外に,いかなる目的や関心事ももってはいけない。なぜならそれこそが,統治する者にふさわしい,唯一の務めだからだ。これは極めて役に立つ教えで,生まれながらの君主が地位を維持する助けになるばかりか,一介の市民が君主の座にのぼりつめる助けになることも多い。その一方で,君主が軍事用の関心事より,優雅な風流に思いを巡らすとき,国家を失うことは明らかだ。国家を失う一番の原因は,この務めをおろそかにすることであり,国家を手に入れる一番の方法は,この技術に精通することである』

著者は,米国大統領にマキャベリズムの君主であれと,提言しているのである。そして,世界において唯一の帝国として,パクス・アメリカーナの構築と維持のために,マッキャベリが述べた君主の『徳』ー狡猾さーが米国大統領に必要であるというのが,本書の論点であり,全てであると考える。

私は,イスラム原理主義者の台頭により,すでにパクス・アメリカーナは終わったと考えていた。しかし,それは,実は,始まったばかりであると考えるべきなのだと著者は言う。だから,最初の10年は浮かれ過ごし,その後の10年は,戦略を見失って,アフガンとイラクにのめり込みすぎた。それを,修正せよと,具体的に提言している。

日本との関係にも触れている。要約すると二点になる。

1.日本とは友好関係を継続せよ(そうか,それはありがたい)。

2.日本が独自にシーレン警備をできるような海軍力を整備させるな(つまり,おとなしいままにしておけ=爪は研がせるなということらしい)。

この二つだけである。中国については,そのうち,経済が大変なことになるから,なるがままま見ておけ,と,いう風にしか読めない。

この本を読んで,ローマ人の物語を全巻読んでおいて良かったと,感じた次第である。

 

この本を基に,今の日本の政治や経済について,いろいろ書こうと思ったが,あまりにも,次元が異なるので,やめた。



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