本を掲げ、暑さ寒さを物ともせず、ずっと街角に立って売っている男。実際は、物ともしていて、辛いのを我慢して売っているのだと思う。
彼らは、その本を140円で購入し300円で売って、その差額を生活費にしている。まさに経済の原理だ。
どんな本なのか、以前から少し興味があったが、買いたいということでなく、どちらかというと買ってあげたいという気持ちの方が強かった。(……あげたい、などという気持ちは、相手に大変失礼なことかもしれないが、事実そうであった。)
そう思いながら、自分の中でそれを押しとどめるものがあった。それは何だろう。
抵抗そして躊躇。今ひとつ、踏ん切りがつかない。
しかし、本当は気づいていた。
それを明かしてしまうと、そこに情けない自分が出てくる。自分がこっ恥ずかしく、情けなくなる!^ ^;;
要は、恥ずかしさだった。そして、勇気の無さ。まさに、チキンナゲットな僕だった。
売っている人のところに行って、その本を買うことの恥ずかしさ。
こんなにたくさんの人通りがあるわけだから、その人の存在は誰だって知っているはず。それなのに、誰一人として彼のところに行って買う者がいない。若い人は、興味が無いというのもあるだろう。しかし、有識人や一般人は彼らがどういう人たちかを知っているはず。それなのに。そして、その大勢の中に埋もれていようとする自分が……。
ある日、身なりのいいおばさんが、男に近づいて二冊買っていった。これを見て僕は、次は買おうと決めた。何でこんなことに抵抗を持ち躊躇っていたのだろう。
何日かしたある日、勇気を出した。どこかまだ恥ずかしさは少し残っていたが、もう大丈夫。その後、しばらくそういった場所を通る機会がなかったが、最近、人は違うけれど池袋東口で売っている人を見つけた。自分の用を済ませて戻ってみると、まだそこに立っていた。買った。もう、恥ずかしさはこれっぽっちもない。金額の割りに、情報も少なく高いかもしれない。でも、情報が欲しいからではない。情報なんて今の時代、どこかしこにたくさん転がっている。だからそれは関係ない。
他の人も、一人でも多く買ってあげたらいいな……と思う。
かくして僕は、時々ビッグイシュウを買うようになった。
兄の金蔵だったら、きっとこういうだろう。ビッグイシュウって、大きな異臭という意味かい? こうやってボケをかましてくるだろう。^^ ま、そうっとしておいてやろう!!!^^ぐふっ^^