翌日の9/8、妻一人を部屋に残し(許可済)^^、ぶらぶら散歩に出かけることにした。ホテルを出た。10時半を回ったばかりだというのに、夏の名残りの太陽が降り注いでいた。それは帽子に容赦なく襲いかかる。
スマホの地図を立ち上げた。どうも近くには目ぼしい場所がなさそうだった。それでも少し足を伸ばすと建仁寺という、聞いたことのありそうな名前を見つけた。でも、ちょっと距離がありすぎる感じがする。散歩はせいぜい往復一時間以内が限度。肝心の法要をうっかり忘れてしまいそうになる。
京都特有の風情を肌にひしひし感じながら、狭い路地をのんびり歩いた。傍にあった住居表示を見ると清水五条となっていた。
初めて歩く道は、どこか新しい発見が期待出来て、心もわくわくする。
その時、ふらふらする気配を感じた。今までも時たま起こっている、あれだ。嫌な予感がよぎった。大丈夫だと念じ、歩を進めていく。左手に平屋建ての家屋が見えた。東山警察署松原交番という表示があった。その建物の正面玄関の上には瓦のひさしがあって、京都ならではの風情を感じた。またちょっと進んで行くと、今度は右手に「不思議茶屋バラライカ」という風変わりな名前の看板があった。遠目からみると、そこは路地になっていてその奥にあるらしい。茶屋というからにはお茶屋さんだろう。興味が湧いたものの、その一方で路地の奥にあるというのが僕を後ろ向きにした。とりあえず深入りすることはやめた。
六波羅密寺という寺の傍に、自動販売機があった。そうだ、喉がカラカラだったのだ。ちょうど日陰になった場所で水分補給。折角だからちょっと寄って、お賽銭を入れお参りをした。少しの間、そこで時間をつぶしたあと、時計に目を落とした。そろそろ帰途に就くほうがいい。
そこは車一台通れるかどうかの小路だった。その薄暗い路地の先に、明るい五条通りが見えた。道の両側は風情ある格子窓の家が軒を連ねていた。懐かしい家並みの中に、柔かい筆致で町家「ながら」と書かれた白木の表札があった。束の間、立ちどまった。古い歴史ある建物なのに、化粧を施したようにきれいに整っていた。その隣りの家も町家となっている。いぶかしく思いながらも歩を進めると、五条通の広い道路に出た。
法事は滞りなく終えて新幹線の中で町家のことを調べた。……ふむふむ。
それで、思い違いが解消された。芸者や舞妓さんらがいる家(置屋)と勘違いしていた……。