読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

食あれば楽あり

2006年06月22日 | エッセイ
                          小泉武夫  日本経済新聞社

 またまた食のエッセイです。こち飯、ベーコン茶漬け、沖ナマス茶漬け、あられ水飯、へしこ漬け、イカワタ料理、地鶏臓物飯、泡汁…。どうしてこの人はこんないろんなジャンルの旨いものを知っていて、そして旨そうに書くんだろう?うちの近くのものまで、わたしよりよく知っているわ。
 酒屋の生まれで、発酵研究所(旨そうな研究所だ)の所長をしているだけあって、とくに発酵関係の知見は抜群である。そのくせ、ギョーザ丼なんていう、誰でも思いつきそうな料理を「オリジナル」だと言い張ったりするのが可笑しい。たしか文庫版も出ていたと思う。
 ところで…、家のPCがトラブって2度目の修理に出すことに(T_T)。仕事場のは同じ機種の古い奴なのに故障知らず。こんだけヴァージョンアップが頻繁だと、スカの時があるのね。

M.R.ジェイムズ傑作集

2006年06月18日 | ホラー
                        M.R.ジェイムズ  創元推理文庫

 これまた古風な、19世紀的(と、自分で言っているらしい)ホラー集。でも、いい味出してまっせ。浜辺で白い幽霊に追いかけられるイメージが怖い「笛吹けば現れん」、小さな穴から地獄に引きずりこまれかけるシーンが強烈な「ハンフリーズ氏とその遺産」なんて最高。おそらく代表作の「消えた心臓」は、クライマックスよりも、中盤の浴槽の幽霊が怖い。
 古風古風というが、おどろおどろしいモンスターが登場する代わりに、微妙な視覚や聴覚(「マグナス伯爵」の鍵の落ちる音)、触覚(同文庫『怪奇小説傑作選』の方に収録の「ポインター氏の日録」)を駆使する手法は、むしろモダン・ホラーに通じるところがあるのではなかろうか。

天空の舟

2006年06月06日 | 歴史小説
                        宮城谷昌光  文春文庫

 商の湯王を助けて王朝を開いた名宰相・伊尹を描いた作品。何しろ甲骨文字しかない時代の話、宮城谷ワールド全開である。中原以外の地がかすんだ感じが何ともいえない。『重耳』『太公望』もいいが、私はこれが一番好きである。冒頭の大洪水の場面から一気に引き込まれる。
 湯王はじめ、顎、咎単、費伯、荊伯…魅力的な脇役が多数いる中で、湯王と伊尹の宿敵、夏の暴君・桀の知力と人格の深さが印象深い。魅力的な敵役ってのは歴史小説の出来を左右するね。同じことは『太公望』の受王にもいえるだろう。

ハイウェイ惑星

2006年06月01日 | SF
              石原藤夫 筒井康隆編『60年代SFベスト集成』徳間文庫収録

 古本屋で偶然見つけた短編集にのっていた話。その昔、とある惑星に自己修復機能を持つ高速道路を縦横に張り巡らして滅亡した知的生物がいた。原始的な段階にあったその星の生物は「道路があることを前提にして」進化していく。不時着した地球人が出会う「原始車輪」「運搬車輪」「飛行車輪」(立体交差でジャンプしているうちに進化した)など様々な車輪生物が楽しい。
 この本には他に、競馬の血統評論家として名高い山野浩一さんの「X電車で行こう」、おいおい主人公どこに行くって感じのラストの「幹線水路2061年」(光瀬龍)、SFというより一級ホラーの「渡り廊下」(豊田有恒)、編者の筒井さんのユーモアSF「色眼鏡の狂想曲」など好短編多数あり。