読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

山荘奇譚

2006年08月21日 | ホラー
                シャーリイ・ジャクスン   ハヤカワ文庫

 今回は思い出話を。30年以上前、九州のある県に住む小学生だった私は、祖父母の部屋で、土曜深夜のロードショーを見るのを楽しみにしていた。その中で、「たたり」という邦題の、化け物は姿を見せず派手さはないが静かに静かに怖いホラー映画が妙に記憶に残っていた。
 20数年がたち、北陸のある町のデパートの古本市で、『山荘奇譚』という本を手にとって背表紙のあらすじを見たところ…、「たたり」の原作ではないか!さらに10数年後、ブログを検索していた私は、「たたり」がDVD化されているのを発見、アマゾンで入手して、記憶の通りの映画をみることができたのである。
 心霊実験のために古い因縁のある屋敷に泊まり込んだ一行のうち、主人公の女性が徐々に屋敷にシンクロして取り込まれていくという話。怪異は音ばかりで姿をみせないんだけれど、例えば、何故か夜中に外に出た男たちが、「犬(そんなものは屋敷にいない)の気配を追っていたんだ」なんて言うところが怖い。映画と原作とどっちが良かったかていうと、断然映画だと思う。原作はヒロインがおバカすぎて魅力がない。

さよならダイナサウルス

2006年08月17日 | SF
                    ロバート・ソウヤー  ハヤカワ文庫

 タイムトラベル、恐竜絶滅の謎、○○生命体(ネタバレになるんで、伏字にします)と、使い古されたテーマばかりを組み合わせて、よくぞこれだけ面白い話にしたものである。ハヤカワの『SFハンドブック』で狙いをつけて買った本の中でも、「当たり!」って感じ。
 『星を継ぐもの』と同じような(ほめ過ぎか?)、壮大な惑星間興亡史の謎解きミステリーになっているんだな。中でも、火星生物「ハンド」の悲劇は胸を打つ。そしてやっぱり、小惑星帯がキーになってるんだ。なんて言ってたら、新聞に「太陽系の惑星が12個に」ってニュースが…。メディアも、「暗記する星の名前が増える」なんていう、頭の悪い受験生みたいな反応はやめて欲しいな。
 それにしても、作中に登場する「密集星団をつくった連中」は、どうなったんだろう?

ガストン・ルルーの恐怖夜話

2006年08月12日 | ホラー
                     ガストン・ルルー  創元推理文庫

 『オペラ座の怪人』で知られるガストン・ルルーの短編集。幽霊や妖怪の出てこない(微妙なのもあるが)ホラーの傑作のひとつだと思う。中にはもろネタばれでつまんない作品もあるが。
 面白かったのは、まず“夫は殺人鬼では、と疑う妻”という聞き飽きたような謎だが、結末がルルーらしい「金の斧」。惨劇の跡の描写が鮮やかな「ビロードの首飾り」。エグさ、不気味さではNo1だがユーモラスでもある「胸像たちの晩餐」(胴体人間たちはどうやって見咎められずに途中の道を動いたか?肩の筋肉だけで鉤が動かせるのか?そもそもなぜ元気なのか?など疑問も満載)。
 一番傑作だと思うのが「ノトランプ」。結婚相手が次々と変死をとげる美女、犯人は美女か召使か…ていうミステリーだが、結末は意表をつかれた。結婚相手の職業にも必然性があったのか。

小説・十八史略

2006年08月05日 | 歴史小説
                       陳舜臣   講談社文庫

 ミステリーに歴史小説に大活躍の陳さんだが、一つあげればこれであろう。歴史大好き…、でも史記や十八史略そのものを読む根性はないという、私のような者にぴったりの本。あまり映画や小説ではとりあげられない、五胡十六国、南北朝、五代十国、隋末動乱あたりを丁寧にフォローしているのが嬉しい。歴史に忠実でいて、陳さんの自由な解釈が楽しい。
 とくに私が好きなのが、王莽の乱→前漢滅亡→緑林VS赤眉→後漢光武帝即位に至る経緯である。「皇帝になんかなりたくなかった、命を惜しんでたら皇帝になってしまった」という、「愚図だけどやるときはやる」光武帝が、人間的に一番好きである。光武帝編の最後に、倭の奴国がちらりと登場するのもいい(「奴」って字はやだけどね)。
 宋の滅亡でもって終了なのが残念(だから元寇も1回目だけなのね)。同感な人には、同じく陳さんの、平凡社『中国の歴史―明から清へ』がおすすめ。ちなみに陳さんのミステリーでは「枯草の根」「神獣の爪」が好き。