読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

タイムシップ

2010年09月14日 | SF
             スティーヴン・バクスター    ハヤカワ文庫

 H.G.ウェルズの名作「タイムマシン」の、遺族の了解付き続編。「タイムマシン」で野蛮なモーロック族の中に置き去りにしてしまったエロイ族の少女を救うべく、主人公が再び未来への時間旅行に旅立つところから話は始まる。そして、前回とは打って変わって知性的に進化したモーロック族に出会う。
 この本のレビューは、タイムパラドックスがらみが多いんだけど、それ以上に印象が強かったのは、タイムマシンからの車窓風景。「タイムマシン」終盤でも、記述は短いながら、巨大化した太陽と原野にうごめく蟹という風景描写が素晴らしかった。本書でも、「タイムマシン」から数えて2回目の未来への旅で、スタートとともにビルがぼやけ、太陽が次第に動きを止め、やがて闇に閉ざされる(新生モーロック族が地球の自転や太陽を制御したのだ)。
 中盤では、「タイムマシン」終盤でみた風景を、モーロック族の友人ネボジプフェルに詳しくに語って聞かせる。そこではエロイ族は空に逃げて醜い人間の声で鳴く蝶に、モーロック族は人間の目をした蟹に、知性の無い進化を遂げていた。リアルに気持ち悪い。
 その後、いったん19世紀に戻って若き日の自分に出会って戦争に巻き込まれたりするんだけど、いろいろあって6千万年前の暁新世へ。 暁新世に逃れてきたイギリス人とともにファースト・ロンドンという村を築いて、ネボジプフェルとともに出発点の1891年を目指す。そこでの車窓風景がまた秀逸。しばらくして森が開けて、ファースト・ロンドンが巨大都市に成長、月が緑に覆われ、天空に衛星都市が築かれ、宇宙エレベーターが建設される。そうか、6千万年前のイギリスに、村規模とはいえ現代文明が移植されたんで、とてつもなく文明が進んでいる訳ね。
 その後、氷に覆われていく地球で「普遍建設者」なるすごい存在に出会って、時空の果ての旅へ。ここで、タイムパラドックスにそれなりに筋の通った説明がつけられる。時空の究極だけに、主人公がどんどん悟りきったような感じになってつまらない…、と思ったら、ラストでは当初の目的を思い出して、エロイ族の少女を救う旅に。なんかホッとしました。