読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

DVD版・真田太平記

2009年12月01日 | 歴史小説
 前12巻、TSUTAYAで借りて一気に観てしまいました。権謀術策家にして戦の天才、女好きだが恐妻家(ここだけは共感できる)の真田昌幸役の丹波哲郎が、彼以外に考えられないほどのはまり役。他にも中村梅之助(家康役、これもピタリ)、范文雀など懐かしい顔ぶれが目白押し。最高に格好いいのが、真田の忍びの長役の夏八木勲。
 それにしても、24年前なのに、渡瀬恒彦(真田信之役)だけは変わってないんだよね。髪の毛フサフサの角野卓三には、娘が大爆笑していたのに。あと、私の大好きなキャラ、滝川三九郎の妻・お菊をやっていたのが、なんと岡田有紀子!
 真田家を守り抜いた信之のラストには、カミさんが拍手していました。

天の川の太陽

2009年02月06日 | 歴史小説
                    黒岩 重吾    中公文庫
 すごく面白かった。いわば「小説・壬申の乱」。
 主人公の大海皇子の人格・器量の大きさがいい。人情味があるのに決断力もある、火のように激しいのに自分を押さえて芝居ができるってのがすごいね。
 敵方の大友皇子も憎み切れないキャラ。年季が入ってれば強敵だったろうに。
あと中臣鎌足の底知れなさ、息子の死にも冷静に対処するところ、権謀家でも一味違う。中大兄皇子はずいぶん器が小さく描かれてるけど、秀吉みたいに権力握って性格変わったってことかな。
 蘇我赤兄、大伴吹負(こいつが案外使えなかった。負けてれば敗因)など、敵味方のセコキャラも満載。そして女性陣、讃良妃もいいけど、額田王の艶っぽさももっと見たかったな。
 大海皇子の吉野へのわびしい道のり、その後の脱出行と、反転してからの山野を埋める東国の兵馬のど迫力の対比が素晴らしい。終盤が最高です。

楽毅

2008年08月06日 | 歴史小説
                   宮城谷昌光      新潮文庫

 愚劣な王の傲慢な外交のせいで滅亡に瀕した小国・中山を支え続け(結局滅亡するんだけど)、「先ず隗より始めよ」のエピソードで燕の昭王にスカウトされて大飛躍する名将の物語。楽毅も昭王(復讐の鬼)も、名称・名君だけど決して聖人ではないのがいい。敵味方の脇役(趙与がとくに渋い)がいい。
 昭王の次の王がまた愚王で(名称を愚王のコンビは中国史の定番だ)、楽毅が最後に亡命するのは当然なんだけど、それでも著者は、中山のみにつくした龍元と対比させて「楽毅、これでいいのか?」と問うている感じ。いいに決まってるじゃん!
 でも私が好きなのは、楽毅の宿敵、主父こと武霊王である。軍政を改革して最強騎馬隊を作り、外交と戦術の限りを尽くして中山国を追い詰め、人材を愛し、敗将となった楽毅の才気を認めて招こうとする。情もある。滅亡に瀕した中山国を守ろうとする六百人の兵士を前に、息子の恵山王とともに涙するところは名場面である。それだけに、敵味方に分かれるこの親子の最期は悲しい。
 当時の人々や楽毅が武霊王を嫌う部分は、①中華の伝統を破った故服騎射 ②武力制圧主義 ③国外に人材を求めないこと だろうが、②や③は武霊王に限ったことではない。馬鹿が鉄砲を持ったような斉のびん王などより百倍ましだろう。①については、中華思想のいやらしい面を見ている日本人からすれば、嫌う理由にならないですわ。

『武田信玄』より「江馬党十騎」

2007年08月10日 | 歴史小説
                         新田次郎     新潮文庫

 大作『武田信玄』については語りつくされた感があるし、川中島や三方ヶ原の合戦描写も素晴らしいのだが、私が好きなのは、ところどころに折り込まれる「安部金山査収」や、この「江馬党十騎」などの小さな挿話である。
 奥飛騨地方の領主・江馬時盛は武田信玄に忠誠を誓っているが、越中新川地方を治める長男の輝盛は野心家で、秘かに上杉謙信に通じて独立をもくろんでいる。その動きをつかんだ武田方は、配下の木曾衆に軍監・曽根匠をつけて奥飛騨に派遣する。
 息子の裏切りを知っている時盛の立場は苦しい。「3日待って下されば、必ずや輝盛を呼び戻しまする。」「ならばその間に高原郷の鉱山をお見せ願いたい」。秘中の秘であった鉱山だが、見せるしかない。苦悩の時盛。
 期日を過ぎても輝盛は戻らず、鉱山調査の金山衆に僅かの護衛を残して、場合によっては輝盛と一戦交えるべく越中へ向かう時盛、曽根、木曾衆。そこへ、隣国の三木自綱が平湯金山を襲撃したとの知らせが。もはや腹の探りあいをしている時ではない。江馬党の選りすぐりの十騎が難所を越えて敵の背後を突き、木曾衆・高原衆の奮戦でかろうじて平湯の危機を救う。三木自綱の行動の背後には、やはり高原鉱山を狙う織田信長の意向があったのだ。曽根は最後に言う。「長居は無用。平湯の一戦は、江馬党十騎の決死的な働きによって勝利を得た。江馬時盛が武田に寄せている忠誠心が立証された。輝盛も冷や汗をかいたことであろう」
 戦国武将の駆け引きの冷徹さ・残酷さ、そこで肉親の確執を持つことの苦しさ、一方で貫かれる信義・男気がいい。平湯や新川郡なんてなじみの地名が出てくるのも嬉しい。後に十騎の一人が使者として訪れ、持参した栃餅で信玄が体調を回復し、西上の軍を起こすことになる。

黄土の群星

2007年05月12日 | 歴史小説
                  陳舜臣選・日本ペンクラブ編  光文社文庫

 陳舜臣さんが選んだ、中国各時代を舞台にした短編集。それほど出回ってる本じゃないみたいなので、各作者それぞれの短編集で出会う人の方が多いだろう。

豊饒の門(西周、宮城谷昌光)
 自らは傾きつつある王朝の愚劣な王に殉じながら、自分や王を見事な軍略で葬ることになるライバル・申公の実力を認め、息子には申公に屈することを命じて国の再起を託した鄭公・友。息子の掘突は苦渋の決断で父の策を受け入れ、鄭国の基礎を築くが、したり顔で父の策を自分に伝えた家臣が許せない。宮城谷さんの短編の中でも一番好きである。

盈虚(春秋、中島敦)
 継母を暗殺しようとして逃亡の憂き目に会った坊ちゃん太子。不遇な亡命生活の中でひねくれた中年になった彼は、待望の権力獲得の後、闘鶏の享楽と陰湿な復讐に明け暮れる。息子達との確執に悩むと…、やっぱり放蕩に溺れる(^^;。案の定権力の座を追われた彼は、かつて気まぐれで迫害した貧民夫婦の家に逃げ込んで殺されることになる。春秋特有のセコい権力争いの人物群がなんともいえない。

漆胡尊(漢、井上靖)
 巨大な牛の角のような皮製・漆塗り・革紐でつながれた、正倉院の謎の器物、漆胡尊。
 考古学者の想像の中で、それは西域オアシス国家の若者、匈奴から脱出を図る漢人兵士、辺境の老婆、器物を横流しする小役人、酷吏だった夫の罪滅ぼしに布施をする未亡人、唐土に残った遣唐使、その日本の知人…、千数百年の時を経て正倉院にたどり着く。
 どうやら西域の産で液体を入れる、としかわからない器物から広がるイメージがさすが。

潮音(五代十国、田中芳樹)
 五代十国時代の小国・呉越に出現した早逝の名君・銭弘佐。激情家の弘倧、温厚な弘俶の二人の異母弟の協力を得て、時に苛烈に時に柔軟に、綱紀を粛正し、産業を起こし、外交に工夫をこらし、呉越を豊かな国にしていく。そして、柄にも無く覇王を気取った隣国・南唐の李(ホントに柄にもないんだ、こいつが)の領土拡大の野望を果断な出兵で阻止する。
 五代十国時代はほとんど小説にされていないが、同じく田中氏が描いた楚の茶王(楚の覇王・項羽に比して呼ばれたらしい)こと馬殷(「茶王一代記」中公文庫『チャイナ・イリュージョン』所収)など、ネタは豊富そう。

 他に、始皇帝の死後、末子・胡亥と宦官・趙高の陰謀で生きながら墓に赴く公子を静かに描いた「驪山の夢」(秦、桐谷正)、曹操の後継者・曹否の、父の死を前にした心象風景「曹操の死」(三国、藤水名子)、皇帝の妻になったかに見えた美貌の愛妾の行方をめぐるサスペンス「五台山清涼寺」(清、陳舜臣)など、各作家の本が読みたくなってしょうがなくなる最高のアンソロジーである。

コンスタンティノープルの陥落

2007年01月14日 | 歴史小説
                      塩野七生        新潮文庫

 いわゆる3部作の「ロードス島戦記」「レパントの海戦」も素晴らしいが、一つ選ぶとすればこれ。歴史的な攻城線を、両君主はじめ、ヴェネチアの医学生、ジェノヴァの商人、ギリシャの宗教家、トルコ占領下のセルビアから駆り出された兵士、スルタンの小姓など様々な人の目から描いている。
 何といっても魅力的なのが両国の君主。トルコの若きスルタン・マホメット2世は、巨大な軍事力は祖先から受け継いだものの、強力な意思と頭脳で覇業を完成させるのは秦の始皇帝を思わせる。そして初老のビザンツ皇帝・コンスタンティヌス11世、この人が格好いいんだ。利害が錯綜しまくっているギリシャ・ヴェネチア・ジェノヴァの3勢力が曲がりなりにも協力できたのは、この人の潔い人格のせいだろう。両者が城壁を挟んでお互いを確認する場面は、名シーンだと思う。
 「ウルバンの巨砲の咆哮」や「艦隊の山越え」といった歴史的名場面も十分に堪能できる。

薩南示現流

2006年11月22日 | 歴史小説
                           津本陽    文春文庫

 学生時代に後輩から薦められて読んで、実戦の描写に衝撃を受けた本。幕末に猛威を振るった薩摩の超実戦剣法・示現流の創始者、東郷重位が主人公。重位自身は安土桃山~江戸初期の人である。
 剣道有段者であり、試し切り等の経験もある津本氏の小説は、他にない剣戟シーンのリアルさが魅力である。実戦で使いにくい細かな技や駆け引きを省き、シンプルな打ち込みと踏み込み・胆力を鍛えまくる示現流の凄みが伝わってくる。大兵の男を肩から腰骨まで両断したり(ヒエ~!)、木刀で真剣を持つ相手の指を破壊したりと、すさまじいシーンが続くが、重位その人は温厚な性格である。
 上方で重位に示現流を伝えた善吉和尚は6つ年下、重位の一番弟子・長谷部四郎次郎は6つ年上と、学ぶのに年は関係ないことを教えてくれる。本書には幕末~明治期に材をとった、4編の短編も収録されている。
 余談だが、『週間ポスト』連載中の小池一夫氏の「新・子連れ狼」では、重位はなんと大五郎を連れて旅をしている。大五郎も水鴎流から示現流に転向 (^.^;

立花宗茂

2006年10月21日 | 歴史小説
                            八尋舜右  PHP文庫
 私が一番好きな戦国大名は尼子経久、そして武将ではこの立花宗茂なのです。さてこの本は、宗茂ひとりを描いたのではなく、宗茂の養父にして落雷で半身不随になりつつも数々の合戦を指揮した鬼道雪こと立花道雪、岩屋城の壮絶な討ち死にで有名な実父の高橋紹運、そして宗茂の3者が主人公といっていい。
 とりわけ高橋紹運がわずか8百人足らずで島津4万の大軍を2週間も支えて全滅した岩屋城の戦いは、主人公を差し置いて本書のクライマックスといえる(この時間稼ぎのおかげで秀吉の援軍が間に合い、島津の九州統一は頓挫する)。これほどの人材群をいかせずに家を滅ぼした大友は、わが出身地の大名ながら罪は重い。秀吉から「お前の所には、代えがたい宝(人材)がいるではないか」といわれるシーンが重い。島津軍が引き上げると、宗茂は秀吉軍の到来を待たずに追撃して戦果をあげる。
 宗茂が九州の陣で本多忠勝と引き合わされ、秀吉から「皆の衆、これが東西の勇将じゃ」といわれて顔を赤らめるシーンや、宿敵だった島津義久と出会う「昨日の敵は今日の友」的なシーンはたまらない。
 関が原で西軍につき、貧乏浪人となった宗茂だが、本多忠勝の仲立ちで大名に復帰する。関が原や大阪の陣で徳川につきながらも没落した大名が多かったことを考えると破格の人望だったのだろう。

重耳

2006年09月28日 | 歴史小説
                      宮城谷昌光     講談社文庫

 宮城谷作品では「天空の舟」と、これが好きである。氏の作品は、時として主人公が道徳的に立派過ぎてついていけないことがあるが、女好きで安きに流れやすく、復讐を忘れない重耳は実に人間くさい。
 重耳といえば亡命生活が有名なので、そのはるか前から始まったときはもどかしかったが、たちまち引き込まれた。上中下読み通した後も、上巻が一番面白いと重う。曲沃軍が雪の下に沈むかと思える翼攻め、がらあきの曲沃を襲うかく軍、未熟ながら果断な重耳の行動、弧突の水際立った戦略、全く飽きさせない。
 登場人物としては、重耳の祖父、武王・称が魅力的である。冷徹さと情感を併せ持つスケールは圧巻。どこかとぼけた郭偃もいい。畢万なんて文字の語感だけで印象に残る。中巻は、申生の行動がもどかしすぎでやり切れない。下巻は放浪と帰還、そしてしっかり復讐。郭偃との再会がぐっとくる。
 宮城谷作品の復讐物語としては『青雲はるかに』もあるが、あれは放っといても強い秦を助けてのものだけにイマイチ。

真田騒動

2006年09月16日 | 歴史小説
                           池波正太郎   新潮文庫

 信州真田藩を舞台にした、いわゆる「真田もの」短編集。

「信濃大名記」
小野のお通の仲立ちで、大阪の陣の合間に弟・幸村との対面を果たした真田信幸。お通への恋情と、おのれの信条から徳川についたものの、胸の奥に燃える武将の血…。
「碁盤の首」
真田藩に潜入し、脱出した隠密が、囲碁で負け越した同僚に再戦を挑みに来るという話。

 そう、この2編は『真田太平記』に組み込まれて、話にふくらみを持たせているのです。

「錯乱」
真田藩に潜入した隠密をめぐっての、老中・酒井と真田信幸との息づまる謀略戦。ううん、池波さんは(私と同じく)信幸が好きなんですね。
「真田騒動ー恩田木工」
 若き日は治水工事の断行で名をあげながら、次第に殿様に享楽を提供することで出世する原八郎五郎、原の失脚後に殿様が思いつきで採用した自称節約名人(実際は無策かつ酷薄)の田村半右衛門の後を受けて、絶望的な真田藩の財政再建に挑む恩田木工。痛みを伴う改革の成功は、木工の人格・覚悟・頭脳もさることながら、「前のふたりがひどすぎたから」っていうのは、社会人として実感ですね。
「この父その子」
 超節約生活を余儀なくされた殿様の、50過ぎてのロマンスとその後。田村半右衛門はここにも登場して、しょうもない節約術を披露してある男(書くとネタばれ)に張り倒される。