読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

楽毅

2008年08月06日 | 歴史小説
                   宮城谷昌光      新潮文庫

 愚劣な王の傲慢な外交のせいで滅亡に瀕した小国・中山を支え続け(結局滅亡するんだけど)、「先ず隗より始めよ」のエピソードで燕の昭王にスカウトされて大飛躍する名将の物語。楽毅も昭王(復讐の鬼)も、名称・名君だけど決して聖人ではないのがいい。敵味方の脇役(趙与がとくに渋い)がいい。
 昭王の次の王がまた愚王で(名称を愚王のコンビは中国史の定番だ)、楽毅が最後に亡命するのは当然なんだけど、それでも著者は、中山のみにつくした龍元と対比させて「楽毅、これでいいのか?」と問うている感じ。いいに決まってるじゃん!
 でも私が好きなのは、楽毅の宿敵、主父こと武霊王である。軍政を改革して最強騎馬隊を作り、外交と戦術の限りを尽くして中山国を追い詰め、人材を愛し、敗将となった楽毅の才気を認めて招こうとする。情もある。滅亡に瀕した中山国を守ろうとする六百人の兵士を前に、息子の恵山王とともに涙するところは名場面である。それだけに、敵味方に分かれるこの親子の最期は悲しい。
 当時の人々や楽毅が武霊王を嫌う部分は、①中華の伝統を破った故服騎射 ②武力制圧主義 ③国外に人材を求めないこと だろうが、②や③は武霊王に限ったことではない。馬鹿が鉄砲を持ったような斉のびん王などより百倍ましだろう。①については、中華思想のいやらしい面を見ている日本人からすれば、嫌う理由にならないですわ。