読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

第三の影武者

2006年07月25日 | 歴史小説
                       南條範夫    旺文社文庫

 一連の「戦国残酷物語」シリーズの短編を集めた本。経済学者でもある筆者は、リアルで残酷、陰湿で、どこか物悲しい戦国の一面を描く。
 主人が片腕を失えば腕を切られ、目を失えば目をえぐられる影武者の悲哀を描く表題作。冒頭の秀吉軍との邂逅は、飛騨の片隅で延々続いてきた泥沼の争いが外界の光にさらされた時、そのスケールの小ささがユーモラスでさえある。女の巧妙な復習が怖い(それもかなり逆恨みっぽい)「時姫の微笑」もなかなか。
 私が一番気に入っているのが、どこかエロチックな「飛騨の鬼姫」。妖艶さを武器に男を操って権力(っていっても奥飛騨と越中山岳部だけど)を手に入れ、復讐(逆恨みではないが、1000倍返しくらい(^◇^;) )を達成する鬼姫。兵たちに追われたとき、若い愛人を文字通り矢の盾にして蹴落として逃げるところがいい。
 同じ作者の短編集「おのれ筑前、我敗れたり」(文春文庫)も秀逸。最後に飛騨の皆さん、飛騨は私もよく遊びに行く大好きな土地です。

反・関が原

2006年07月03日 | 歴史小説
                       工藤章興      学研

 いわゆる歴史シミュレーション小説である。類似のものと比べて不自然さがなく、すっきり読める。それもそのはず。歴史シュミレーションは歴史のイフをどこに設定するかが難しいのだが、これは、戦いの流れを決定付けた小早川の東軍参戦が逆だったらという、明快なイフがあるからである。ビデオ戦争で、「松下がベータを出してたら」みたいな感じかな。
 ここでは、小早川の西軍参加とともに、歴史とは逆のなだれ現象がおき、現実には東軍に味方した大名や、戦いを傍観した毛利や長宗我部までが西軍に回り、東軍惨敗となる。そこで家康が戦死して話が終わっても良かったのだが、関が原を脱出した家康は、体勢を立て直して全国を舞台にした合戦を繰り広げる。真田や上杉の活躍も見られるのでよしとしよう。
 ただ、シミュレーションはどうしても作者の好みというか評価がストーリーに反映する(作者が好きな武将が活躍する)。この本を読むと、作者が上杉景勝と直江兼続のコンビが大好きなのがよくわかる(私もわりと好きなので抵抗は無い)。当然納得できない部分もある。個人的には、黒田如水が加藤清正に負ける訳はないと思うのだが…。