「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

根室訪問報告(8月15日~17日)

2007-11-11 22:49:25 | 【連載】 日本の誇り復活 その戦ひと精神
【連載】「日本の誇り」復活―その戦ひと精神(二十四)

洞爺湖サミットへ向けて国際世論喚起を

盛田氏一周忌に納沙布岬に立ちて思ふ

 八月十六日午前四時、降りしきる雨の中で私達三人は、根室市内の神社に向かつて歩いてゐた。丁度一年前の同時刻にロシア国境警備隊から第三十一吉進丸が銃撃を受けて、盛田光弘さんが殺害され、拿捕されたのである。この時間、既に薄ら明るくなつてゐた(日の出は四時二十三分)。盛田さんは、真暗闇の中で銃撃されたのではなく、明らかに照準を合はせて狙ひ撃ちされたのだ。私達は神社のご神前で大祓詞を奏上し、黙祷を捧げた。更に午前中に納沙布岬迄足を伸ばし、貝殻島や水晶島を始めとする北方領土を視察した。貝殻島まではわづか3・7キロメートル。丁度中間線の所に、貝殻島昆布漁の為の漁船待機場所を示す赤いブイが浮かんでいた。この場所の付近で第三十一吉進丸は銃撃を受け、盛田さんは殺害されたのだ。そのあまりもの間近さに愕然とした。日本国は眼前で生業を営む漁民の生命さえ守れないのである。

 吾々が、盛田氏ご遺族に対する弔慰金募金の呼びかけを始めたのは今年の二月だつた。日本会議熊本や友好団体の各種会合で募金の趣旨を訴え、この日迄に263名、約57万円の弔慰金が寄せられた。この真心のお金をご遺族にお渡しすべく、日本会議熊本理事長の私と、諸熊理事、片岡事務局長の三人で八月十五日から十七日にかけて根室市を訪れてゐた(諸熊氏は五月に続く二度目の訪問)。

 十五日夕方に盛田家を弔問し仏壇に手を合わせ、さとみ未亡人に弔慰金をお渡しした。十六日には親族中心の一周忌法要に特別に参列させて戴き、開始前に拿捕された第三十一吉進丸の坂下船長のお話をお聞きする事が出来た。坂下船長は、中間線を超えてゐたなら責任は負ふ、しかし、何の武装もしてゐない漁船をいきなり銃撃して来る事は絶対に許せない、と熱く語られた。前の漁協組合長も腿に銃撃を受けてゐるし、ここに参列してゐる中にも耳の横を銃弾がかすめた者もゐる、と語られた。ロシアが主張する「国境」侵犯とは言へ、非武装の漁船を銃撃して漁民を殺害する行為は、明らかに国際法違反である。

 根室海上保安部を訪れた際、海上保安部は今回の事件で殺害を行つたロシア兵を氏名不詳のまま「殺人」又は「業務上過失致死」で送検の用意をしたさうである。だが、日本政府を通じてロシア政府に照会しても全く返答が無く、証拠物件たる第三十一吉進丸が没収されてゐる現在、如何する事も出来ないとの事だつた。根室湾中部漁協の番匠参事も「真相を明らかにしたい」と語られた。ロシア側が第三十一吉進丸の船体検証について拒否するならば、国連に提訴して第三国の調査団でも派遣出来ないのか。このまま事件を有耶無耶にしてしまへば、日本側の泣き寝入り構造は半永久的に続く。ロシアでは、銃撃した兵士を英雄扱いしてゐると聞く。非武装漁民をなぶり殺しして何の英雄か。大湊に基地を置く海上自衛隊は、北方領土海域には入つて来ない。一方、ロシアの国境警備隊は軍艦を配備して日本漁船を威嚇してゐる。「日本国は吾々をを取り締まつても、吾々を守つてくれる事は無い」といふのが根室の漁民達の悲しい本音である。

 根室市では、長谷川市長や元島民の方々のお話を伺つた。長谷川市長は「国は本気で北方領土を取り戻さうと思つてゐるのかを問ひたい」と訴えられた。北方領土元島民が多数住んでいる根室市は、北方領土の母都市である。だが、元島民の平均年齢は七十四歳を超え、返還運動の将来は極めて厳しい。昨年二月に北方領土隣接地域振興対策根室管内市・町連絡協議会(会長 根室市長)は、「北方領土問題の解決に向けた取り組み再構築提言書」(根室市ホームページ掲載)をまとめ、「未来に希望が持てる取り組み」を訴えた。その中には「北方領土返還運動戦略会議の設置」が提言されてゐる。

 確かに国家的な規模での北方領土返還運動の戦略は見えない。内閣特命担当大臣の高市早苗氏は「私は内閣府の北方領土担当大臣でもありますが、領土の帰属に関する交渉は外務省の仕事であり、内閣府の仕事は『国民世論の啓発』と『旧島民・漁業権者等の支援』です。」と記してゐる。今回の盛田氏殺害事件を見るならば、事件解決に当るべき海上保安庁は国土交通省管轄であり、一体誰が、盛田さんの悲劇に最終的に責任を執るのかあいまいなのだ。盛田氏の一周忌には、北海道や政府関係者からは弔問も花輪も皆無であつた。北方領土海域で起きた悲劇は北方領土返還運動とは関係ないと言ふのか。根室市だけは八月五日に開催した「北方領土返還要求根室市民大会」の大会決議の中で銃撃殺害事件への憤りを表明したが、その思ひは札幌にも東京にも全国にも伝はつてゐない。領土問題に対する感性の枯渇現象が北方領土返還運動関係者の中に生じてはゐないのか。北方領土対策協会のホームページを見ても、行事は様々組まれてはゐるが、第三十一吉進丸事件や次々と起こる拿捕事件の事など全く触れられず、運動の熱気は伝はつて来ない。現実に生じている問題を受け止めずに、国民世論の喚起など出来るはずが無い。

 経済的に上向きのロシアは、昨年から択捉島や国後島に資本と設備の投資を始めてをり、ドイツ資本迄が入つて来てゐると言ふ。返還運動は長期戦に備えざるを得ない。「愛国心」が銘記され目標達成型になつた新教育基本法に基づき「北方領土教育」を強力に推し進め、学校現場を検証すべきではないのか。又、根室には「返せ!北方領土」との看板が多数建てられてゐたが、日本語だけで主張するのではなく、ロシア語・英語の標記を併設し、ロシア人が来る所には必ず、「返せ!北方領土」「漁民銃撃・殺害糾弾」とロシア語で訴えるべきであらう。

 明年七月七日から九日にかけて「北海道洞爺湖サミット」が開催される。北方領土問題を国際社会に訴える好期である。既に、イギリス政府関係者が北方領土問題の視察に根室を訪れてゐると言ふ。これからの一年、北方領土返還運動はその真価が問はれる。国民運動を担ふ吾々にも情念と戦ひの意志と行動が求められる。
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