一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『オー・ルーシー!』 ……寺島しのぶの演技が秀逸な平柳敦子監督作品……

2018年08月14日 | 映画


今年(2018年)の4月28日に公開された映画『オー・ルーシー!』。
主演が寺島しのぶで、
共演者に私の好きな忽那汐里、役所広司の名があったので、
〈見たい!〉
と思っていた。
だが、佐賀での上映館はなく、
いつものように、
〈福岡まで見に行かなければならないか……〉
と思っていたら、
佐賀のシアターシエマで、7月末から上映されることを知り、
先日、やっと見ることができたのだった。



“43歳、独り身”で、楽しみもなく憂鬱な毎日を送る節子(寺島しのぶ)。


姪の美花(忽那汐里)に頼まれて、


英会話講師・ジョン(ジョシュ・ハートネット)がいる一風変わった英会話教室に通い始める。
節子は、その教室で“ルーシー”というアメリカンネームと金髪のウィッグを与えられ、
ジョンにつづいて「ハーイ!」と発声練習を繰り返し、


同じくトムと名付けられた会社員・小森(役所広司)と、
ネイティブ・アメリカンな挨拶を交わす。


最初は戸惑いつつも、
ジョンの親密な“ハグ”によって、
自分の中に眠っていた感情を呼び起こされ、


節子はやがてジョンに恋をしてしまう。


だが、直後、ジョンはアメリカへ帰ってしまい、
実は美花とジョンは付き合っており、
美花もジョンと一緒にアメリカへ行ったことを知る。
ジョンが忘れられない節子は二人を追って、
姉の綾子(南果歩)とともにカリフォルニアへ向かう。


ジョンとの真夜中の“秘密”のドライブ。


姪の美花と“女の対決”


人生に不器用なあまり、暴走する節子の旅の結末とは……




予告編でもポスターでも、
「人間の可能性に気づかされる、希望の物語……」
と謳っていたので、
希望が感じられる軽めのラブ・コメディかと思っていたら、
まったく違っていて、戸惑った。
笑える場面もあるにはあるのだが、
笑えないシーンも多く、
軽い気分で見ていたら、
なんだか重苦しい気分にさせられた。
一番の理由は、
やはり主人公である節子の性格だ。
ストーカー気質というか、
周囲のことに気遣いをすることがなく、
自分の思ったこと(思い込んだこと)のみで突っ走るのだ。


節子と、会社の同僚、


節子と、姉の綾子、


節子と、美花など、


人間関係が常にギクシャクしており、
陰鬱にさせられる。
節子を演じた寺島しのぶも、

生きていくのが難しそうな人ですよね。身近にいたら絶対嫌でしょ。でも、その中でもここは可愛いなとか、愛らしいな、という部分が人間それぞれありますよね。どこかに救いがあるというか。脚本を読んでる限りは相当に痛々しい女性なんだけど、読んでいて「えー、こんなのないよ」とは思いませんでした。こういうのもありかなって。一貫性はあんまり考えてなかったかもしれない。こういう一面もあっていいんじゃない?という感じでやっていた気はします。

と語っていたが、
寺島しのぶが演じたことで、
“嫌な女”なのだけれども、そこに可愛さや愛らしさがあり、
救われた部分があったような気がする。


この映画では、
節子が務める会社も、節子の自宅も、ジョンが住む家も猥雑で暗く、
〈これが日本?〉
〈これがアメリカ?〉
と思う人も多いことだろう。

「カンヌ国際映画祭を始め、海外の観客の反応はどうだったんでしょうか?」
と訊かれた平栁敦子監督が、

こういう日本は見たことない、と驚く人が多いですね。どこまでが本当なのか?みたいな。日本人って、もっときれいな生活してるんじゃないの?とか。部屋に花一輪、それが日本のカルチャーだと思ってる人も結構いるので。

そういうジャポネスクに憧れている人たちから見たら「なんだこの日本?」。あるいは、なんでもっときれいなロサンゼルスを撮ってくれなかったんだ、みたいなことも言われました(笑)。でも、それはわざと。裏の面というか、絵ハガキに出てくるような場所じゃないところで撮ったんです。


と語っていたが、
これは、是枝裕和監督の『万引き家族』に対する一部の人たちの反応に似たものがある。
「日本はあんなに暗く悲惨な国ではない」
というような……

平栁敦子監督は、
登場人物にしろ、
登場人物が生活している場所にしろ、
“表の面”ではなく“裏の面”を描くことで、
真実を見つけようとしていた……という気がする。
“裏の面”を描けば、自ずと明るい物語にはならない。

そんな作品を創った平栁敦子監督とは、いかなる人物なのか……


【平栁敦子】
長野県生まれ、千葉県育ち。
高校2年生の時に渡米し、ロサンゼルスの高校を卒業後、
サンフランシスコ州立大学にて演劇の学位を取得。
ニューヨーク大学大学院映画制作学科シンガポール校卒業。
同大学院専門分野において1名に支給される3年間の Cathay Scholarship初の奨学金受給者である。
在学中に制作された短編映画は、
クレルモンフェラン国際短編映画祭を始めとした数多くの国際映画際に入選。
2年生制作の『もう一回』は 、
ショートショート・フィルムフェスティバル&アジアにて、
グランプリ、ジャパン部門最優秀賞、ジャパン部門オーディエンスアワードを受賞した。
桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編『Oh Lucy!』(2014年)も、
カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン(学生映画部門)第2位、
トロント国際映画祭などをはじめ各国で35を超える賞を受賞。
『Oh Lucy!』の長編バージョンである本作『オー・ルーシー!』は、
2016年、脚本の段階でサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞し、
同賞のサポートを受けて制作された。
プライベートでは、2児の母で、極真空手黒帯初段の保持者である。


本作の元になったのは、
桃井かおりを主演に迎えた21分48秒の短編『Oh Lucy!』(2014年)で、


カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン(学生映画部門)第2位、(コチラを参照)
トロント国際映画祭などをはじめ各国で35を超える賞を受賞している。


その後、テレビ放送用に73分に再編集され、
NHK総合にて、2017年9月16日にドラマ版が放送されている。


桃井かおり主演の短編映画を、寺島しのぶを主演にして長編作品として再映画化したのが、
本作『オー・ルーシー!』であるのだ。


映画を見終わって感じたのは、
(極私的には)あまり好みの物語ではなかったということ。
だから、レビューは書かずにおこうか思ったが、
主演の寺島しのぶを始め、


小森(トム) を演じた役所広司、


美花を演じた忽那汐里、


綾子を演じた南果歩の演技が素晴らしく、


それに、
『パール・ハーバー』『ブラックホーク・ダウン』のジョシュ・ハートネットも出演しているので、
スルーするには惜しい作品だと思った。


平栁敦子監督は、(古いしきたりの)日本式の助監督を経て監督になった女性ではないので、
今後、私たちが見たことのない新しい作品を生み出す可能性がある。
そういう意味でも、レビューを書いておくべきだと思った。
まだ上映している映画館もあるし、
これから上映を予定している映画館もあるので、
機会がありましたら、ぜひぜひ。


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