“ママノリア日記

ママノリアの独り言

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2006年03月24日 | アリノママノリアの日々
しばらく待った。
天井から聞き覚えのある音楽に感覚が耳を澄ました。

「何かを信じて生きて行こう・・・この冬が終わるまで…」

自分の信じてるもの。

自分が信じてるもの。

自分が信じてるもの。

「一体俺は何を信じてんだか・・・・」

そんなことを唱えているとさゆりからメールが届いた。





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2006年03月22日 | アリノママノリアの日々
パソコンはすでに起動されていた。
この店専用のインターネットのトップページには様々なアダルトコンテンツがあった。少し早くなる鼓動を制御するように二、三回深呼吸した後、満から送られてきた出会い系サイトにアクセスした。



完全無料[割り切りの出会い]



そう書かれた、文字の外側を踊る女たち。
男の欲求を駆り立てるような、淫乱さ。

まるで計算された罠にはまるかのように無料入り口から登録を済ませる。
全身の血液が一ヶ所に、なだれ込む感覚を確かに感じていた。

「冷静になれ・・・たけし、冷静に・・・・」

自分に言い聞かすように何度も何度も呟き、東京都の登録女性をクリックする。

顔写真はほとんどが、おおよそ一般的レベルを超えている美女。中には自分を縄で縛っている女や、むき出しに自分の胸をアピールしている女がいる。

どれでもいいのだが、なんとなしに[さゆり22歳]に目がいった。
明らかに他とは違う、完璧な目鼻立ち。
少し栗色な髪の毛は、画面からも艶が伝わってきて、いやらしさよりも、品の良さのほうが勝っている。



自己PR
毎日不安です。眠れません。怖くて仕方がありません。もう一人ぼっちは嫌です。優しい方私を慰めてください。私も精一杯癒しますので・・・・。




他の女性とは違った文脈にさらに興味をそそった。
[さゆり22歳]に決めて、メールを送ることにした。


さゆりさん、はじめまして☆
凄い綺麗な女性でびっくりしてます、あなたの不安を僕が癒してあげたいです。
眠れないほどの恐怖とは何ですか?そんなの僕が吹っ飛ばしてやります!!!
お会いしませんか?


そう書き込むと[送信]ボタンを押して返事を待った。











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2006年03月21日 | アリノママノリアの日々
「もしもし…」
「あー、俺だ。仕事だ。一発かますぞ」
「はい…」
「最近とある出会い系サイトがな、純粋無垢なぼっちゃん達から金を巻き上げてるらしい」
「はい…」
「なんせ、待ち合わせ場所にヤバい奴らがいてよ、女とつるんで金巻き上げるらしいんだ」

「・・・はい…」

「…お前話し聞いてるんだろうな、あっ?」
「聞いてます、聞いてます…それでどうすればいいですか?」
「まずお前にそのサイト教えっから、女と会うんだ。いいか?」
「は…い」
「そのアドレスを今からメールで送るぞ」
「はい…」
「お前パソコンねーんだよな?」
「はい・・・」
「じゃあ、近くの満喫でも行ってネットにアクセスしろや」
「お金が…」
「あっ?金?そのぐらいテメーでなんとかしろや。んなもんバックレて逃げりゃいいんだよ、とにかく女と3日後に会う約束しろ。ほんじゃな」

ガチャッ という音とともに電話は切れた。
鳴り響く鼓動はなかなか止まらなかった。



夜7時。

「俺、死ね!!俺なんか死んでしまえ!!!死んでしまえ!!!」
叫びながら、最後にはケラケラ笑いながら横断歩道を渡る。
タクシーの運転手は、窓を開けてたけしを眺めて、まるで獣を見るように過ぎ去った後もバックミラーで見ている。たけしはそれに気づくと少し恥ずかしくなったようで下を向いた。

星を眺めようとすると顔を上げると、漫画喫茶の看板を見つけた。手前の信号左。パソコン40台有り。

信号を左に渡った。理容室の隣のビルにそれはあった。

エレベーター付近には、防犯対策のポスターが張ってある。
お金のことが気になった。
「逃げるか・・・」
そうつぶやいて、なんとなしにエレベーターではなく階段を使い、漫画喫茶の扉を開いた。

「いらっしゃいませ」
無愛想な店員がめんどくさそうに対応する。タバコのにおいがあたりに充満していて、少し気持ちが悪い。
「お客様、パックをご利用になりますか?3時間パックと5時間パックがありますが」

「・・・・・」

「通常ですと一時間300円になります。」
たけしは財布を出そうとしたが店員は面倒くさそうに言った。
「通常料金だと後払いになりますが」
財布を確認すると、360円入っていた。

通常料金で入ることを決めると、暗い室内の個室に案内された。


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2006年03月07日 | アリノママノリアの日々
電車を降りて、家まで五分ほどの道を歩く。
ケチャップのような夕焼け。

狂ったように叫ぶ。

「魔・世ネーズ!・・・・魔・世ネーズ!!」
正面から歩いてくる人の群れは、とおりの向こう側の歩道に渡る。

野良犬が、たけしに近づいて、迷わずたけしに吠えついた。
カラスはただ状況を見守っている。



たけしは、野良犬に吠える。

「魔・世ネーズ・・・」
「魔・世ネーズ・・・」
「魔・世ネーズ・・・」
「魔・世ネーズ・・・」

「魔・世ネーズ!!!!!!」



犬は、萎縮した。
カラスは驚いたように、住処へ戻っていった・・・。




水道局員は、電話の後すぐに現れた。
6059円を払い、明細書をもらう。

30過ぎの、少し色気の増して来た時期であろうその水道局員はたけしを挑発するかのように、又は当たり前かのように、髪を何度もかきあげる。そのたびシャンプーの甘い香りが辺りにこだまして、たけしの精神安定剤となった。

「気をつけてくださいね、水道は生きてく一番大事なものですから。だからできるだけ停まらないようになっていますので・・・」

「すいません。」





ドアを閉め、テレビをつけた。
ニュース速報でアナウンサーが神妙な面持ちで、人の不幸を伝えている。CMに切り替わるその瞬間、携帯電話のバイブ音が体に伝わる。

田川 満。
少し迷って、6回目のコールで電話に出た。





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2006年03月03日 | アリノママノリアの日々
どこかで見たことのある金の時計、いかにも高そうな黒のスーツ。短髪をムースか何かで固めて、高級な香水の匂いを周辺に散りばめている。
くわえたタバコを灰皿に置いて満はスーツの内ポケットから財布を取り出した。

「6000円だな、ほれ」
「ありがとうございます」
「これで2000万と6000円の借金だな」
「は、はい・・・」
「ほんじゃ、利子付けて5075万だよな、たけし」
そう言うと満は、高々と室内にこだまする声で笑った。
たけしが恥ずかしそうにしていると満はそれにきづいた様子で、次の話題を切り出した。

「次の仕事だ、最近アホな政治家がいてな・・・・。あいつら金の使い方がよ、テメーのことしか考えてねぇんだよ、まぁここじゃなんだから、また連絡する。」
そして思い出したように続けて言葉を吐いた。
「借りた金はきちんと返せや。わかってんだろうな、たけし。テメーの心臓ぐらいいつでもえぐったるからな。」

「・・・・・・・・・・・」

満は少し苛ついた面持ちで、灰皿の吸いかけのタバコを力強く吸って次の瞬間たけしの手の甲に押し付けた。

「わかってます・・・」