“ママノリア日記

ママノリアの独り言

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2006年03月02日 | アリノママノリアの日々
たけしはほっとため息をつき、囁くように言う。「6000円です」
「おまえ、そんな金ももねーのか」
「はい・・」
「いつでもとりにこい、今俺は渋谷のセルリアンタワーだ」
「今から、急いで向かいます」
そう言って電話を切ったたけしは、ジャケットを拾い上げ駅に向かった。

午後4時30分。
渋谷駅に着くと、駅前をストリートミュージシャンが占拠している。聞くに堪えない彼らの演奏に「俺なんか死んじまえ!!」と怒鳴り散らし、歩いていく。
たけしの声に、そして素振りに周囲の人々は、首をかしげ、異常者を見るように、しかし淡々とそれぞれの道を歩いて行く、何も係わり合いを持ちたくないかのように。

五分ぐらい歩くとセルリアンタワーに到着した。
待ち合わせの33階のレストランで少し遅めの昼食を口にしている満をみつけた。
「満さん、急にすいませんでした」たけしはそう言って丁寧に頭を下げた。
「早いな・・」そういうと満は眼鏡をはずしギョロっとした目でたけしの顔を見上げた。
「おめーの心臓持ってきたんだろうな」
にやりと笑みを浮かべた満は困ったたけしを見て言葉を棒のように投げる。
「なんなら、ここでえぐってやってもいいぞ」
「勘弁してください、それだけは・・」
「お前俺にいくら借りてるか覚えてるか?」
「は、はい」
「いくらだ、言ってみろ」
「2000万です」
「利子は?利子つけて言ってみいや」
「・・・・」

「まあいい、座れ」

緊張の糸がほどけて、たけしは寄りかかるように椅子に座った。

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2006年03月01日 | アリノママノリアの日々
第一話
(少年の卑下)

「俺なんて死んじまえ!!」
たけしは風呂の中で叫び続けた。己を抑制する理性を心のどこかで持ちながら、ただひたすら水しぶきを散りばめ叫び続ける。

「ピンポーン・ピンポーン」
「水道局のものですが、どのたかいらっしゃいませんか」
「ピンポーン・・・」

たけしは、慌てて風呂場から出てバスタオルを下半身に巻きつけ玄関に向かった。
水道局員のその女性は、少年の姿を見て少し呆れ顔で明細書を渡す。
「今日お支払いただけなければ・・・」
「すいません、二時間ほど待っていただけないでしょうか?」たけしは同情を渡すように言葉を投げかけた。

 午後4時、慌てて携帯電話の電話帳を眺める。すでに金融機関からの借受は出来ない状態だ。たけしは少し考えつつ、当然のように、あるいは思いついたかのように一人の人物に電話をかけた。

田川 満30歳。都内に勤める普通のサラリーマンであると同時に、悪徳行者の弱みを握り金を巻き上げるねずみ小僧だ。

「あ、もしもし満さんですか?」「おう、たけしか」
「満さんすいません、少しお金を貸していただけないでしょうか?」
「ふざけんじゃねー!このやろう!どの面下げて金貸してくれだ?てめえの心臓もってこい!まぁ、いくらの金にもならんがな」そういうと満は高らかに笑い最後に聞いた。「いくらだ?」






第二話続く