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Tabi-taroの言葉の旅

何かいい物語があって、語る相手がいる限り、人生捨てたもんじゃない

フランツ・ヨーゼフ皇帝が失ったもの

2010年10月23日 | オーストリア
  

1914年発行フランツ・ヨーゼフ皇帝のコイン(Tabi-taro所有)

フランツ・ヨーゼフ皇帝(マリア・テレジアの孫)はハプスブルク王朝最後の皇帝でした。1848年、若干18歳でオーストリア皇帝に即位したフランツ・ヨーゼフは、自身が「この世ではあらゆるものが私から奪われてゆく」と嘆いたように、実に68年もの長き在位の間にたくさんのものを失いました。身内の不幸だけを数えても、列記しきれないほどです。

メキシコ皇帝マクシミリアンの銃殺死(皇帝の弟という「遅く生まれてきた者」の旅路の果て)、かのノイシュバンシュタイン城を作ったルードヴィッヒⅡ世の溺死(神々の黄昏)、最愛の一人息子ルドルフの謎の心中(マイヤーリンクの悲劇)、皇后の妹ゾフィーの焼死・・・・皇后エリザベートは虚ろな目で呟きました。「呪いの勢いがますます強くなる」と。
そう言って嘆いた19世紀随一の美貌と謳われた皇后エリザベートさえもテロリストの刃に倒れてしまいます。皇帝は、己の死のその日まで、繰り返し言い続けたといいます。「私がシシをどれほど愛したかは、誰にもわからないだろう・・・」と。ハンガリーでは政変はありましたが、エリザベトの思い出は今も生きていて、ドナウ川に架かる橋は、今もエリザベト橋です。歯車はなお呪いをかけるかのように回り続け、皇帝の甥フランツ・フェルディナンド大公夫妻がサラエボで銃弾に倒れます。1914年6月28日、第一次世界大戦の幕開けの一発です。

ここに一枚のオーストリアコインがあります。表にはフランツ・ヨーゼフ皇帝の横顔と、その周りに、「オーストリア皇帝にして神の恩寵によるフランツ・ヨーゼフⅠ世」の文字が刻まれています。そして、最も貴重なのは裏面に刻まれたこのコインの年代です。1914年、まさに第一次世界大戦勃発の年に鋳造された歴史的な硬貨です。皇帝はこの年、84歳でした。そして、大戦の最中の1916年11月21日、86歳の長寿を全うしました。息子も、家族も、最愛の妻も、そして自分の帝国さえも・・・人はこんなにも次から次へと大切なものを失っても、尚、生きてゆけるものなのでしょうか?!

1918年、第一次世界大戦が終わった時、かつて神聖ローマ帝国より続いた欧州第一の名門オーストリアは三流国に転落しました。オーストリア=ハンガリー帝国には12にのぼる民族が含まれていました。ドイツ人、ハンガリー人、チェコ人の他にも、クロアチア人、スロヴェニア人、ルーマニア人などが、それぞれの民族意識と母国語に従って生活しつつも、二重帝国の枠内で皇帝を絆として統一されていました。そして、1918年の終戦とともに、これらの民族は次々に独立していったのです。

私はこのコインを、もしかしたらフランツ・ヨーゼフ皇帝その人が握ったかもしれないこのコインを眺めながら、次から次へと大切なものを失いながらも、尚、毅然として自分の帝国を守りぬいたこの皇帝の人生に思いを馳せる度に・・・もっと頑張らなくては!と勇気が湧いてくるのです。

皇后エリザベートが死の前日に泊ったホテルの部屋