この頃は暑いし疲れるし修論は進まないし苛々するしで、日々何だかずっと薄暗い気分で暮らしているのであるが、昨日はその中にとつぜん非日常の時間が入り込んできて、めったに出来ない経験をいろいろすることになった。
事件としては、要するに弟の婚礼が開かれたのである。某ホテルで、両家の親族だけを招いて小規模な式であったが、それなりに盛大ではあった。式と披露の二部構成のうち、特に前半の式に私としては個人的な感慨があった。ホテル付属の聖堂で、神父が主宰して基督教式で行われたのであるが、私じしん、中学・高校と切支丹の学校に通っていたものだから、久しぶりにこういう所に入って大変懐かしかった。宗教というものは深遠かつ難解な教義はさておいて、こういう儀式としての壮麗な仕掛けが、人の心情に強く訴えかけるように出来ている。基督教の中でもさすがにカトリックはその辺に長年の鍛えが入っていると思わざるを得ない。
そんなわけで思わず感動しつつも、それにしても、こんなのは平民のやる事ではないんじゃないかという気もした。花嫁さんは裾の長い純白のドレスなど着て、なんだかウェストミンスター寺院でのダイアナ皇太子妃の結婚式みたいであった。
式の後は二人でホテルの二階の階段から出て来て、参列者がその両側からバラの花びらをまきちらすという、いわゆるフラワーシャワーなるものまで行われた。ちょうど表通りの街路に面した階段で、二人が出て来るとガランガランと福引のような鐘が鳴る。このホテルの前を通るたびに時々目撃していた光景であるが、自分がその中の一人になるとは思わなかった。
披露はホテル最上階のレストランを借り切って行われた。まあ無事に済んだと言ってよいのであろう。私は非社交的な人間だから元来こういう宴会の席は好きではなく、ただ自分の前のものを綺麗に食べるだけである。向うの一族にも酒も注ぎに行かず、かえって色々な人から丁重なご挨拶を受けて恐縮した。
五時前にお開きとなり、私は一人学校へ出かけた。だいたい弟はここ数日休みを取っているからいいけれど、私は何事もなく仕事が続く。今日は本来授業であるところを年休を取って、作文の課題を出してきた。例によって添削して例文をタイプして、金曜日の授業で返却するにはぼやぼやしてはいられない。かねての心積もりでは、水・木のどちらか、別の学校での仕事が終わってからでも取りに行こうかと思っていたが、交通費もよけいに掛かるし面倒でもあるので、今日のうちに済ませられればその方がよい。
幸い元気も残っていたので出かけたが、この日のために新調した革靴を初めて履いてきたせいで、両足のかかとに靴擦れができて往生した。やはりユニクロの靴屋で五分で選んだ四千円の靴は駄目である。別に私じしんは、ふだん履いている革靴で問題ないつもりでいた。靴を買う金があれば本を買った方がいい。しかしみすぼらしいから新しいのを買えと父母がしきりに勧めるので、気もないままに適当に買ったからこうなるのである。
事件としては、要するに弟の婚礼が開かれたのである。某ホテルで、両家の親族だけを招いて小規模な式であったが、それなりに盛大ではあった。式と披露の二部構成のうち、特に前半の式に私としては個人的な感慨があった。ホテル付属の聖堂で、神父が主宰して基督教式で行われたのであるが、私じしん、中学・高校と切支丹の学校に通っていたものだから、久しぶりにこういう所に入って大変懐かしかった。宗教というものは深遠かつ難解な教義はさておいて、こういう儀式としての壮麗な仕掛けが、人の心情に強く訴えかけるように出来ている。基督教の中でもさすがにカトリックはその辺に長年の鍛えが入っていると思わざるを得ない。
そんなわけで思わず感動しつつも、それにしても、こんなのは平民のやる事ではないんじゃないかという気もした。花嫁さんは裾の長い純白のドレスなど着て、なんだかウェストミンスター寺院でのダイアナ皇太子妃の結婚式みたいであった。
式の後は二人でホテルの二階の階段から出て来て、参列者がその両側からバラの花びらをまきちらすという、いわゆるフラワーシャワーなるものまで行われた。ちょうど表通りの街路に面した階段で、二人が出て来るとガランガランと福引のような鐘が鳴る。このホテルの前を通るたびに時々目撃していた光景であるが、自分がその中の一人になるとは思わなかった。
披露はホテル最上階のレストランを借り切って行われた。まあ無事に済んだと言ってよいのであろう。私は非社交的な人間だから元来こういう宴会の席は好きではなく、ただ自分の前のものを綺麗に食べるだけである。向うの一族にも酒も注ぎに行かず、かえって色々な人から丁重なご挨拶を受けて恐縮した。
五時前にお開きとなり、私は一人学校へ出かけた。だいたい弟はここ数日休みを取っているからいいけれど、私は何事もなく仕事が続く。今日は本来授業であるところを年休を取って、作文の課題を出してきた。例によって添削して例文をタイプして、金曜日の授業で返却するにはぼやぼやしてはいられない。かねての心積もりでは、水・木のどちらか、別の学校での仕事が終わってからでも取りに行こうかと思っていたが、交通費もよけいに掛かるし面倒でもあるので、今日のうちに済ませられればその方がよい。
幸い元気も残っていたので出かけたが、この日のために新調した革靴を初めて履いてきたせいで、両足のかかとに靴擦れができて往生した。やはりユニクロの靴屋で五分で選んだ四千円の靴は駄目である。別に私じしんは、ふだん履いている革靴で問題ないつもりでいた。靴を買う金があれば本を買った方がいい。しかしみすぼらしいから新しいのを買えと父母がしきりに勧めるので、気もないままに適当に買ったからこうなるのである。