文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

中国側が…1985年に近海防衛戦略を打ち立てて以来、さらに執拗にこの問題に対処してきたのに対して、日本側が実に単純に「日中友好」外交に賭けてきた結果でもあった

2020年08月13日 10時46分31秒 | 全般

以下は、「日中国交正常化」は誤りだった、と題して、発売中の月刊誌Hanadaセレクションに掲載された、国際教養大学学長中嶋嶺雄の論文からである。【「WiLL](花田紀凱責任編集)2012年10月号】
日本国民のみならず世界中の人たちが必読の論文である。
日中関係にとっての尖閣
2010年9月7日、沖縄・尖閣諸島近海で起こった「中国漁船」によるわが国の海上保安庁巡視船への衝突事件は、日中関係の本質をはからずも浮き彫りにしたばかりか、中国当局の一連の出方や、その後の中国国内での反日デモの発生によって、中国側の当面の海洋戦略とその領土観が明らかになった。 
経済発展をテコに軍事力を増強してきた中国は、抑圧を続けるチベット、ウイグルの少数民族地域と台湾に加えて、最近では南シナ海を「核心的利益」の対象とし、西太平洋からインド洋、ソマリア沖、アフリカ沿岸にまで海軍力を拡大している。
その中国が、こと自己の内海とみなす東シナ海での尖閣問題で譲歩したり、日本側に理解を示したりする気配が一切ないことも明らかになった。 
それは、中国側が海軍出身ながら異例の党中央政治局常務委員になった劉華清海軍司令員の時代の1985年に近海防衛戦略を打ち立てて以来、さらに執拗にこの問題に対処してきたのに対して、日本側が実に単純に「日中友好」外交に賭けてきた結果でもあった。 
周知のように、1968年の国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の海洋調査で尖閣諸島海域の豊富な海底資源の存在が明らかになったのだが、それ以来、中国は領有権を唱え始めたのである。 
中国側は、日中国交樹立前年の1971年12月30付「釣魚島(尖閣列島)に関する中国淨交部声明」で、沖縄返還協定を激しく非難しつつ、「釣魚島などの島嶼は昔から中国の領土である」「釣魚島……などの島嶼は台湾付属島嶼である」「中国人民は必ず台湾を解放する! 中国人は必ず釣魚島など台湾に付属する島嶼を回復する」と明言していた。 
このような明確かつ公式な中国側の主張にもかかわらず、当時の日本政府・外務省もマスメディアも、翌年の日中国交樹立へと大きく流れ込んでゆく雰囲気のなかで中国側に厳重抗議することもせずに、日中国交の際の外交交渉でも尖閣問題は棚上げしたまま、ひたすら「日中友好」外交に賭けたのであった。 
この問題で日本国民に印象深いのは、中国が文化大革命の混乱から立ち直りつつあった1978年秋に鄧小平副首相(当時)が来日したとき、「尖閣諸島の問題は次の世代、またその次の世代に持ち越して解決すればよい」と語ったことであった。
覇権主義的な領土観 
さすが鄧小平氏は物分かりがいい、とわが国の政府もマスメディアも大歓迎したのだが、その鄧小平氏が華国鋒氏を失脚させ、「改革・開放」のための南巡講話を行って権力を強めつつあった1992年2月に中国側は、全国人民代表大会の常務委員会(7期24回)という目立たない内部の会議で、「中華人民共和国領海及び〇連(隣接)区法」(領海法)を制定し、尖閣諸島(中国名・釣魚島)は中国の領土だと決定してしまったのである。 
同法第二条は「中華人民共和国の領土は中華人共和国の大陸とその沿海の島嶼、台湾及びそこに含まれる釣魚島とその付属の各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島及びその他一切の中華人民共和国に属する島嶼を包括する」と規定している。 
尖閣諸島を含む台湾や澎湖諸島はもとより、ヴェトナムやフィリピンなどと係争中の南シナ海の西沙、南沙両諸島まで中国の領土だという一方的できわめて覇権主義的な領土観が、中国内部では法的根拠を持ってしまったのである。 
日本政府・外務省はこの時、即座に事態の重要性に気づき、中国側に厳重に抗議すべきだった。
当時はしかし、何らの外交行動に出なかったばかりか、2ヵ月後の江沢民中国共産党総書記の訪日、その年秋の天皇・皇后両陛下のご訪中という「日中友好」外交に専心した半面、尖閣諸島という日本の国益にかかわる問題にはほとんど意を用いなかったのである。
時の政権は宮澤首相、駐中国大使は橋本恕氏であった。 
このような「日中友好」外交の結果として、最近の中国国内における尖閣諸島をめぐる若者たちのデモには、単に尖閣諸島のみならず、かつての朝貢国・琉球を回収し、沖縄を解放せよとのスローガン(「収回琉球、解放沖縄)が掲げられていることにも、私たちは十全の注意を払わなければならなくなってきているのである。 
中国はこの秋の第18回中国共産党大会を前にして、大きな話題となった重慶市トップの薄煕来失脚問題にも見られるように、胡錦濤・温家宝ら共産主義青年団系と江沢民影響下のいわゆる太子党系との熾烈な権力闘争の渦中にあるだけに、こと尖閣諸島や南シナ海をめぐる問題ではきわめて好戦的になるであろうことは間違いない。
この稿続く。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。