アジアを駆ける
第7部 新・新興国の熱風
安い生産コストや将来の成長を見込み、関西企業がアジアの後発途上国で事業を拡大し始めた。1人当たり国内総生産(GDP)が千ドルに満たないバングラデシュやラオスには、日用品や繊維メーカー、物流会社などが相次ぎ進出している。
中国やインドに続く新・新興国を目指す各社に共通するキーワードは「先手必勝」と「面としてのアジア」だ。
バングラに脚光
大阪市に本社を置くロート製薬は8月中にもバングラデシュで男性用洗顔料の販売を始める。
昨年9月、首都・ダッカに販売拠点となる現地法人を設立。リップクリームの発売に続き、中間層の成長を見込んで、本格的な市場開拓に乗り出す。
ロートは1990年代半ばいち早くベトナムで製造・販売拠点を設立。当時は1人当たりGDPが500ドルに満たない貧国だったが「こんなほこりっぽいなら目薬が売れる」 (斉藤雅也取締役)と判断、現在は目薬のシェアでトップだ。
「参入コストを考えると、1人当たりGDPが千ドルを切る水準での進出が望ましい」と斉藤取締役は話す。バングラデシュでも「先手必勝」で、販売網拡充を急ぐ。
バングラデシュに進出する日本企業は今年4月で107社。半年で10社増えた。人口が1億4千万人を超え、消費市場として注目も高まる。
成長をけん引するのが縫製産業。米ウォルマートやスウェーデンのヘネス・アンド・モーリッツ (H&M)が多くの生産委託先を持ち、4千~5千社の縫製会社を抱える「世界の縫製工場」だ。
関西からはタイとラオスに工場を持つワイシャツ大手の山喜(大阪市)がバングラデシュでも委託生産を拡大。繊維商社のヤギ(大阪市)も同国で合弁会社を設立し、衣料生産に乗り出した。
「繊維部門の取扱高を2年以内に倍にしろ」。4月に赴任した伊藤忠商事の鈴木琢也ダッカ事務所長は所員にこう号令をかける。繊維部門の年間売上高は現在、5千万米ドル(約40億円)程度で、年商1億ドルを目指す。
縫製に関わる周辺産業の進出も目立ち始めた。
外国企業や大使館が並ぶダッカ中心部のグルシャン地区。企業向け物流を手掛ける鴻池運輸(大阪市)は2009年、現地の物流会社と合弁で鴻池ユーロ・ロジスティクスを設立。荷主に代わり運送業者を手配するフォワーダー(貨物利用運送事業者)として日本企業で初の進出だ。
主に衣料品や繊維製品を扱い、10年度の売上高は約1億2千万円。11年度は前年度比2倍強を見込む。09年7月~10年6月の輸出総額に占める日本向けの割合は2%だが、金額は3億3千万ドルと前年度比で6割強増えた。
鴻池ユーロのオスマン・ガニ取締役は「日本向けビジネスはまだまだ伸びる」と期待する。
賃金は上昇傾向
運輸会社や商社が狙うのが「チャイナプラスワン」で生産拠点を中国以外に移す動きだ。労働集約型の縫製産業にとり中国の人件費高騰は悩みの種。そこで人件費が安く縫製産業が発展する同国に目が向き始めた。
もっとも賃金はバングラデシュでも上昇傾向にある。10年秋には縫製産業の最低賃金が2倍近くに引き上げられた。さらに「地元の縫製工場への生産委託は納期や品質面で課題が残る」(日本貿易振興機構=ジェトロ=ダッカ事務所の鈴木隆史所長)。一気に拠点を移すにはリスクが高い。
「アジアは点ではなく面として見るべきだ」。鴻池運輸で海外部門を担当する上野山和希執行役員はそう強調する。同社はアパレル企業の動きを受けて、ミャンマーやカンボジアでも衣料品や繊維製品を中心に物流事業を拡大。
今年6月にはラオスで現地企業と代理店契約を結んだ。一つの国・地域に偏らない多面展開を手掛ける。1980年代に中国で生産拠点を設けたパナソニックに象徴されるように、関西企業はアジア展開で先んじてきた。
様々なリスクと利点が混在するアジア。どこで作って、どこで売るか、より高度な戦略が求められる。
第7部 新・新興国の熱風
安い生産コストや将来の成長を見込み、関西企業がアジアの後発途上国で事業を拡大し始めた。1人当たり国内総生産(GDP)が千ドルに満たないバングラデシュやラオスには、日用品や繊維メーカー、物流会社などが相次ぎ進出している。
中国やインドに続く新・新興国を目指す各社に共通するキーワードは「先手必勝」と「面としてのアジア」だ。
バングラに脚光
大阪市に本社を置くロート製薬は8月中にもバングラデシュで男性用洗顔料の販売を始める。
昨年9月、首都・ダッカに販売拠点となる現地法人を設立。リップクリームの発売に続き、中間層の成長を見込んで、本格的な市場開拓に乗り出す。
ロートは1990年代半ばいち早くベトナムで製造・販売拠点を設立。当時は1人当たりGDPが500ドルに満たない貧国だったが「こんなほこりっぽいなら目薬が売れる」 (斉藤雅也取締役)と判断、現在は目薬のシェアでトップだ。
「参入コストを考えると、1人当たりGDPが千ドルを切る水準での進出が望ましい」と斉藤取締役は話す。バングラデシュでも「先手必勝」で、販売網拡充を急ぐ。
バングラデシュに進出する日本企業は今年4月で107社。半年で10社増えた。人口が1億4千万人を超え、消費市場として注目も高まる。
成長をけん引するのが縫製産業。米ウォルマートやスウェーデンのヘネス・アンド・モーリッツ (H&M)が多くの生産委託先を持ち、4千~5千社の縫製会社を抱える「世界の縫製工場」だ。
関西からはタイとラオスに工場を持つワイシャツ大手の山喜(大阪市)がバングラデシュでも委託生産を拡大。繊維商社のヤギ(大阪市)も同国で合弁会社を設立し、衣料生産に乗り出した。
「繊維部門の取扱高を2年以内に倍にしろ」。4月に赴任した伊藤忠商事の鈴木琢也ダッカ事務所長は所員にこう号令をかける。繊維部門の年間売上高は現在、5千万米ドル(約40億円)程度で、年商1億ドルを目指す。
縫製に関わる周辺産業の進出も目立ち始めた。
外国企業や大使館が並ぶダッカ中心部のグルシャン地区。企業向け物流を手掛ける鴻池運輸(大阪市)は2009年、現地の物流会社と合弁で鴻池ユーロ・ロジスティクスを設立。荷主に代わり運送業者を手配するフォワーダー(貨物利用運送事業者)として日本企業で初の進出だ。
主に衣料品や繊維製品を扱い、10年度の売上高は約1億2千万円。11年度は前年度比2倍強を見込む。09年7月~10年6月の輸出総額に占める日本向けの割合は2%だが、金額は3億3千万ドルと前年度比で6割強増えた。
鴻池ユーロのオスマン・ガニ取締役は「日本向けビジネスはまだまだ伸びる」と期待する。
賃金は上昇傾向
運輸会社や商社が狙うのが「チャイナプラスワン」で生産拠点を中国以外に移す動きだ。労働集約型の縫製産業にとり中国の人件費高騰は悩みの種。そこで人件費が安く縫製産業が発展する同国に目が向き始めた。
もっとも賃金はバングラデシュでも上昇傾向にある。10年秋には縫製産業の最低賃金が2倍近くに引き上げられた。さらに「地元の縫製工場への生産委託は納期や品質面で課題が残る」(日本貿易振興機構=ジェトロ=ダッカ事務所の鈴木隆史所長)。一気に拠点を移すにはリスクが高い。
「アジアは点ではなく面として見るべきだ」。鴻池運輸で海外部門を担当する上野山和希執行役員はそう強調する。同社はアパレル企業の動きを受けて、ミャンマーやカンボジアでも衣料品や繊維製品を中心に物流事業を拡大。
今年6月にはラオスで現地企業と代理店契約を結んだ。一つの国・地域に偏らない多面展開を手掛ける。1980年代に中国で生産拠点を設けたパナソニックに象徴されるように、関西企業はアジア展開で先んじてきた。
様々なリスクと利点が混在するアジア。どこで作って、どこで売るか、より高度な戦略が求められる。