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懸念されるのは、ライス氏がオバマ前政権下で、米国と中国が地球規模の懸案の対処で国際社会を主導していくという「G2」構想の賛同者の一人であったことだ

2020年09月03日 15時28分38秒 | 全般

以下は、できたら危いバイデン米政権、と題して、月刊誌正論今月号に掲載されている、産経新聞ワシントン支局長黒瀬悦成の論文からである。
前文省略
対中国「融和」に回帰か 
さらに懸念されるのは、ライス氏がオバマ前政権下で、米国と中国が地球規模の懸案の対処で国際社会を主導していくという「G2」構想の賛同者の一人であったことだ。 
ライス氏は13年11月、「アジアにおける米国の将来」と題したアジア政策演説を行った際、当時の習近平体制がオバマ政権のG2構想に応える形で提案した「新型大国間関係」について「円滑に運用する方向で模索している」と述べ、日本や台湾などに衝撃を与えた。
バイデン陣営の外交・安全保障チームにはライス氏に加え、ケリー元国務長官、ブリンケン元国務副長官、サリバン元国務省政策企画本部長、キャンペル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)、フロノイ元国防次官など、オバマ前政権に仕えた人物が多数集結している。 
それだけに非常に心配なのが、バイデン政権になった場合、トランプ現政権下で軌道修正が進められている対中外交が、再びオバマ前政権のような「軟弱かつナイーブ」(米政府関係者)な融和路線に回帰してしまうことだ。 
オバマ前政権が中国に対していかに腰砕けだったかを象徴するエピソードは枚挙にいとまがないが、オバマ氏が15年9月24、25日に中国の習近平国家主席を国賓として米国に招き、ホワイトハウスで共同記者会見を行ったときのことを代表的事例として紹介しよう。
中国による南シナ海の人工島造成などの覇権的行動や、中国共産党系のハッカーによる米企業を標的とした産業スパイや知的財産窃取は、当時から深刻な問題となっていた。
これに関し習氏は共同記者会見の席上、「南シナ海を軍事化しない」と表明。
また、ホワイトハウスによれば両首脳は、サイバー攻撃による互いの知的財産やビジネス情報を窃取しないことで合意した。 
当時のオバマ政権高官は、これらを「大きな成果だ」と強調。
しかし、それが口約束に過ぎなかったことは、中国がその後、人工島に軍用滑走路を整備し、軍部隊を常駐させ、対空ミサイルを配備して南シナ海を「中国の海」にしようとしているのを見れば明白だ。
また、中国による大規模かつ組織的な米知的財産窃取が米中首脳による合意などなかったかのように活発に展開されていたことは、最近の米南部ヒューストン総領事館を拠点とした工作活動からも分かるように、改めて指摘するまでもない。 
問題の米中首脳会談にみられるようなオバマ前政権の対中姿勢は、1938年9月のミュンヘン会談で、ナチス・ドイツのヒトラー総統の要求を全面的に受け入れてドイツを増長させ、第二次世界大戦勃発の一因をつくった当時のチェンバレン英首相の宥和政策と大差ない。
中国が「領有権」を主張する南シナ海の人工島の周辺を米海軍の艦船が意図的に通航し、中国の訴えには根拠がないことを行動で示す「航行の自由」作戦にしても、オバマ前政権は中国の反発を恐れて数えるほどしか実施しなかった。 
筆者が以前、読売新聞のワシントン特派員として一期目のオバマ政権を取材していた当時のことで思い出すのが、ごく一部の米メディアが「米海軍が航行の自由作戦を実施した」とのニュースを報じても、国防総省報道官は公式に確認するのを拒否し、いつも裏付け取材に少々手間取ったことだ。
米軍関係者は「軍としては積極的に広報してもいいと考えているが、ホワイトハウスの指示で発表できない」と明かした。
中国への政治的配慮が慟いていたのは疑いの余地がない。 
これに対し、トランプ政権は航行の自由作戦を頻繁に実施し、報道陣に概要を逐一公表しているのに加え、最近は南シナ海で原子力空母二隻による演習を比較的長期にわたって実施するなど、中国の海洋覇権を阻止する姿勢を鮮明にしている。
トランプ政権は、ハイテクや軍事、貿易、香港や台湾、ウイグルの人権問題など、中国をめぐるあらゆる懸案に関して中国に厳然とした対応をとる姿勢を明確に打ち出し、長年の間に蓄積された対中政策の歪みの是正に取り組んでいる。 
だからこそ中国は「トランプ氏が大統領選で再選されるのを阻止するため、米国内で世論工作や情報工作を展開している」(8月7日付の米国家情報長官室声明)のだ。
もちろん、トランプ氏にも問題は多い。
ただ、こと対中政策に関して言えば、オバマ氏がチェンバレンだとした場合、トランプ氏はナチスとの徹底抗戦の陣頭に立ったチャーチル元英首相だと評したら、泉下のチャーチルに笑われるだろうか。
民主党の反中は付け焼刃? 
一方で、公正を期すために指摘しておく必要があるのは、民主党の対中姿勢もこの約1年間で劇的に厳しくなっていることだ。 
キャンベル氏やスタインバーグ元国務副長官などオバマ前政権下の国務省高官を含む民主党有力者約100人は昨年7月、「中国は敵ではない」とした公開書簡を連名で発表し、トランプ氏の対中政策を批判した。
書簡は、中国による近年の行動には「困惑させられる」としつつ、中国は経済的な敵国でもないし、米国の存亡に関わる安全保障上の脅威ではないと主張していた。 
しかし、民主党系の元高官や学者ら約百人が連名で出した新型コロナウイルス対策に関する声明では、中国はウイルス発生時の隠蔽工作に関し「きちんと説明すべきだ」と訴え、「米国は、米中によるウイルス対策協力に際し、国益や価値観で譲歩し、中国の(誤った)ウイルス対応を見逃す必要はない」と強調し、中国に厳しい目を向けた。
こうした態度の変化は、米中の貿易摩擦や新型コロナ危機で米有権者の対中認識が一気に厳しくなっていることを受けたものだ。 
また、トランプ陣営がバイデン氏による過去の「中国は競争相手ではない」などとした、中国の脅威を過小評価する発言を格好の攻撃材料にしていることも、民主党が態度を改める要因となった。
しかし問題なのは、一連の姿勢転換は、自党の立場を不利にしないよう、外部要因によって触発されたに過ぎず、民主党の対中強硬姿勢が今後も持続する保証がないことだ。 
バイデン政権では、「軍事費削減」を唱える急進左派勢力の影響力拡大が必至とみられている。
卜ランプ政権が進める、中国やロシアなどの「戦略的競争相手」に対処するための米軍再建路線は真っ先に見直しの対象となる公算が大きい。 
また、今の民主党が急進左派の主導で「地球環境保護」に極端に傾斜しているのも懸念材料だ。
米中はオバマ前政権下、気候変動対策に関する「パリ協定」の締結に向け積極的に連携した。
バイデン政権になれば、トランプ氏が離脱を表明した同協定への復帰を宣言し、気候変動問題で再び中国との協力強化を模索していくのは確実だ。
しかし、それと引き換えに米国が中国への配慮を再び強め、南シナ海や台湾、ウイグル問題で中国への批判を手控える恐れは極めて高い。中国も「環境カード」をちらつかせて米国を揺さぶるのは必定だ。 バイデン氏は、トランプ氏の「米国第一」のスローガンに対抗する形で「国際協調主義」を訴える。
地球環境保護も国際主義も、それ自体に異を唱える者は少ないだろう。
しかし、それがオバマ前政権の対中外交の「悪夢」の再来を意味するのだとすれば話は別だ。
日本としては民主党に対し、中国に対する強硬姿勢を維持し、中国の覇権に対抗していくための日米同盟の強化の重要性について、今から訴えかけていく必要がありそうだ。


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