文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

習氏が権力基盤の浮沈をかけて台湾攻略に出てこようとするのに対し、抑止を確実にするには日米台の覚悟が必要で、日本は日本の国益のためにこそ、

2023年01月09日 15時46分14秒 | 全般

以下は今日の産経新聞に掲載されている櫻井よしこさんの定期連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝であることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。

危機の日本 首相奮起を

令和5年は尋常ならざる危機の年だ。
戦争を大前提にして準備しなければ取り返しのつかない事態に陥る。
戦争回避には強い軍事力と経済力が必要で、抑止力を飛躍的に高めずして、私たちが享受する平穏な生活は守れない。 
だが、わが国は準備不足だ。
第一に継戦能力がない。
軍事力増強を支える経済力は財務省主導の財政・金融政策で弱体化されつつある。
憲法と法律は自衛隊の手足を縛り続ける。
日本国と日本人全体の危機意識が薄いのだ。 
かつて、わが国は列強の脅威にさらされ、開国し、富国強兵政策を実行した。
発足時には独自の軍隊さえなかった明治政府と、軍事的に中国に圧倒されている現在の日本の姿が重なる。 
日清戦争前夜の明治26(1893)年、山県有朋は国民に軍備増強で重い負担をかける心苦しさを語り、「国家の安全と人民の福利を購ふの資本だ」と説いた。
彼は清国の向こうにロシア、フランスの野望を見てとり、10年もしない内に「東洋の禍機」が暴発すると考えた。
弱肉強食のこの時代、わが国が他のアジア諸国のように植民地にされなかったのは、わが国に先を見通す戦略とそれを支える死に物狂いの戦術、富国強兵政策があったからだ。 
かつて清国の脅威の先に列強諸国の野望があったように、いま、ウクライナと台湾の先に中露による冷徹かつ壮大な世界秩序の書き換えの野望がある。
昨秋の中国共産党大会で、習近平国家主席は中国主導の「人類運命共同体」が世界の前途だと語った。
中国は、米国は衰退期にあり、西側の民主主義は機能停止に陥ったと信じ、中華の価値観とルールが世界秩序の基盤をなすべきだと考えている。 
この異形の大国を受けいれるわけにはいかない。
彼らの価値観に太古からあらがってきたまれなる国がわが国だ。
604年の「十七条の憲法」も明治元(1868)年の 「五箇条の御誓文」も、一人 一人を大事にする精神に貫かれている。
明治期、軍事に特化した印象を与える山県も、「(身分の)上下を平均し人権を斉一にする道」を説いた。
人権は万人に平等だとする日本の考え方は、第一次世界大戦後の国際連盟創設時に人種差別撤廃条項創設の提唱に発展した。
実に開明的な日本の主張はウィルソン米大統領が不条理に葬り去った。 
だが今、世界がかつての日本の主張に追いついた。
中国のウイグル人に対する弾圧非難が一例だ。
それなのに、日本に輝きを添えてきた大事な価値観を、肝心のわが国が忘れ去っている。
日本にこそ中国政府を非難する資格がある。
ロシアに領土を不法に奪われている日本こそウクライナを積極的に支援すべき立場にある。
日本国の歴史やその歩みを支えた価値観を忘れてしまってどうするのだ。
迫り来る中国の脅威の前で、わが国はいま、米国との軍事協力強化に取り組んでいる。
この努力が単なる軍事協力に終われば、日本は精神的に米国に追従するだけの国になる。
中国も日本を侮り、からめとり戦術に出るだろう。 
だが日本が日本らしさを発揮するとき、状況は劇的に変わるだろう。
中国は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などを盛り込んだ日本の新たな「安保3文書」に激しく反応した。
わが国への恐れゆえであろう。日清、日露以降、世界戦争を戦った日本人に対する記憶がそうさせるのだ。 
人間にとっても国家にとっても当然のことなのだが、気概を持つことの大事さを再確認したい。
気概は力の強化と揺るぎない自信につながる。
私たちが強い精神を取り戻すことが、中国に対しては日本国の抑止力を大いに高め、同盟国の米国に対しては信頼を深めることになる。 
本紙8日付の朝刊における台湾の李喜明元参謀総長の指摘は冷静だった。
米台間には共通の指揮・通信体制も作戦計画もなく、台湾有事で米台が共同作戦を行うことは難しい。
「日本が台湾を助けてくれるとは思わない」が、「事前に台湾の防衛戦略を知り、準備することが日本の国益になる」との内容だ。 
ウクライナでロシアのプーチン大統領に勝利を与えてはならないように、台湾で中国の習近平国家主席に勝利を与えてはならないのは明らかだ。
そのための唯一の道は日米台の協力体制を築くことだ。
米国がウクライナ問題でアジアに軸足を移しかねているいま、わが国こそ、米国に働きかけなければならない。
対中国で日本は生まれかわる決意で抑止力を高めると説き、具体策を示すのだ。 
たとえば、中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域や南シナ海で、少しずつ看実に、継続的に状況を有利にする「サラミ戦術」を展開し、影響圈を拡大してきた。
いま、私たちが「逆サラミ戦術」を展開する場面ではないか。
日米台で情報を共有し、有事対応についてシミュレーションを繰り返すのだ。
回数を重ねれば、事実上の日米台同盟につながり、中国の台湾攻略を防ぐ一手となる。
習氏が権力基盤の浮沈をかけて台湾攻略に出てこようとするのに対し、抑止を確実にするには日米台の覚悟が必要で、日本は日本の国益のためにこそ、その覚悟を促す立場に立つのがよい。 
世界史大転換の今、国政に携わる政治家、とりわけ岸田文雄首相は幸運である。
怠惰な眠りの中で長く・自立しなかった日本を鮮やかな目醒めに導き、新たな国家像を打ち立てることができる。
国の形を大きく変えた明治維新では多くの人材が日本国の未来に命をささげた。
いま、政治家たる人々は、その政治生命を賭けて日本のために働くことができる。
これ以上望めない幸運な巡り合わせではないか。



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