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中国側は図らずも弱点をさらけ出した…習政権の泣き所は金融にある…しかし、バイデン政権側は気に留めていないようだ

2021年04月29日 20時04分03秒 | 全般

以下は発売中の月刊誌Hanadaの巻頭を飾る田村秀男の連載コラムからである。
彼は数少ない本物の経済評論家である。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読の論文である。
バイデン対中制裁は「張り子の虎」
東西冷戦時代に毛沢東が米国に向けて放った言葉を借用すると、米バイデン政権による対中包囲外交は「張り子の虎」だ。
習近平政権を破壊できる金融制裁に背を向けるからである。
新彊ウイグル自治区での凄まじい人権侵害については欧州連合(EU)、英国なども対中制裁に同調したが、自治区の公安トップヘの資産凍結が主である。
同自治区での強制労働による製品が流通しないよう監視を強めているのは、トランプ前政権による綿製品の輸入禁止措置に基づいているだけなのだ。
3月12日、バイデン氏の呼びかけによる日米、オーストラリアとインドの4ヵ国(クアッド)のオンライン会合では「インド太平洋での自由な航行」を謳ったが、中国や南シナ海の名指しは避けた。
名よりも実を重視する中国人にズシンと響くはずはない。
北京外交部の反応は「クアッドは無意味な話し合いの組織」だ。
続いて18日には、アラスカで米中外交当局トップの初会合が開かれ、ブリンケン米国務長官が「中国の行動は、世界の安定を維持するためのルールに基づく秩序を脅かしている」と非難すると、楊潔錺共産党政治局員が「軍事力や金融覇権を利用して、国家安全保障の範囲を過剰に拡大している」と反撃したが、中国側は図らずも弱点をさらけ出したと筆者は見る。
習政権の泣き所は金融にあるからだ。
しかし、バイデン政権側は気に留めていないようだ。
中国特有のドル本位の通貨・金融システムは極めて硬直的である。
党が支配する中国人民銀行は流入するドルに応じて、経済成長の原資の人民元資金を発行する。
貿易収支黒字や外国企業の対中投資が増えて外貨準備が拡大しているときは、金融の量的拡大が可能になり、高度成長を容易にするが、外準が増えないと人民元を追加発行できなくなり、経済の成長率が下がる。
外準は2017年以来、ほとんど増えていない。巨額の資本逃避のためだ。
人民銀行資金発行に対する外準の比率は、習氏が党総書記に就任する12年秋まではその比率は100%を超えていたが、この2月では65%台まで落ち込んだ。
これ以上ドルの裏付けが弱くなると、中国内外からの人民元への信用が危うくなりかねないので、習政権はカネを刷りたくても刷れない。
人民銀行資金の発行の伸び率は、2018年が前年比マイナス2%、コロナ不況の昨年は同2%増に過ぎず、いずれも名目GDP成長率を大きく下回る。
成長資金を十分に供給していないという意味で、習政権は不況下で金融を引き締めている。
窮地に立った習政権が強行してきたのが、国際金融センター香港の完全支配である。
中国経済が必要とする外貨の大半の決済が集中する香港金融市場の要は、米ドルと自由に交換できる香港ドルである。
人民元は、香港では無制限に香港ドルに両替できる。即ち人民元は香港で容易に米ドルに置き換えられる。
習政権は19年夏以来、香港の民主化デモの弾圧と「高度な自治」の剥奪に乗り出し、20年6月30日にはその総仕上げである香港国家安全維持法(国安法)を施行した。
その間に、香港株式市場には中国企業をどんどん新規上場させ、この2月には香港市場での中国企業の時価総額を前年比で2兆米ドル膨らませ、売買シェアを9割に高めた。習政権は香港市場を乗っ取り、そこに西側金融資本を呼び込み、ドルをつぎ込ませる。
その外貨は最終的には中国人民銀行が吸い上げ、経済拡大と対外膨張を可能にする。
この意図をトランプ前政権は見抜いていたのだろう。
19年11月には「香港人権民主法」を成立させ、香港ドルと米ドルの交換を禁止できる条項を盛り込んだ。
さらに習政権の国安法に対抗して、トランプ氏は20年7月14日に「香港自治法」を施行、中国の大手銀行への金融制裁への道を付けた。
1月、トランプ氏は退場した。
習政権は3月30日、香港の選挙制度を改めさせ、香港の民主主義と自治を消滅させた。
バイデン政権はこれに対し、金融制裁で対抗しようとしない。
習政権は、バイデン政権が口では非難しても、実効ある行動はしないオバマ政権時代の再来だと見ているに違いない。
習氏の思惑どおり、香港にはウォール街をはじめ、西側の金融資本が殺到している。
コロナ禍のなか、世界的な金融の量的緩和とともに膨らみ続ける余剰資金は、香港経由で中国本土に流れ込み、海外からの昨年の対中投資は直接投資、金融関連投資合わせて前年比で過去最大の1兆ドル規模で増えた。
外貨は軍拡を支える。
沖縄県尖閣諸島、台湾への侵攻と、中国の脅威の増大は加速するばかりである。

 


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