以下は前章の続きである。
切羽詰まった英韓
藤井
ところで、トランプ政権では、ボルトン大統領補佐官が辞任しました。
イラン問題で強硬策ばかり主張するので、戦争をしたくないトランプが事実上クビにしたのです。
トランプは慎重です。
また、少し気になる動きがあります。
GSOMIA破棄を決定したのが、八月二十二日。
その2日前の20日、ハリー・ハリス駐韓米大使が14の財閥代表を集めて、非公開で懇談会を開催しました。
表向きはGSOMIAが破棄されないよう理解を求めるものでした。
ここからは私の推測ですが、おそらく「アメリカに来ないか」と伝えたのではないでしょうか。
古田
その推論は鋭いかもしれない。
妥当ならば事実が後追いしてきます。
藤井
大工場をアメリカに持ってくれば生き残ることができるぞと。
文政権の国有化から逃げろと言うわけです。
アメリカに行けば、日本の輸出規制だってまったく関係ありません。
アメリカとしても、ゆくゆくは北朝鮮の勢力圏に入るような国で、メモリーチップだけでも72%のシェアを任せることはできないでしょう。
アメリカとしては、なるべく内製化を推進したいのです。製造業界には「ファウンドリー」という概念があります。研究開発をせず、製造だけに特化した工場のことですが、これをアメリカにつくれと促したのではないでしょうか。
古田
文政権は北の下僕ですから、国有化された企業を北にプレゼントしたいんでしょうね。
土地の国有化まで企てているらしい。
藤井
その通りだと思います。
実はイギリスも危ない。
ボリス・ジョンソンが新首相に就任しましたが、万が一総選挙で労働党が勝利を収めたらどうなるのか。
党首のジェレミー・コービンは19世紀型の古い社会主義者ですから。
古田
空想社会主義者でしょう。
藤井
問違いなく銀行や鉄道、エネルギーの再国有化を進める。
古田
これでは時代が回帰してしまいます(笑)。
藤井
イギリスは世界中で悪いことをしてきましたから、その祟りです(笑)。
実は、GSOMIA破棄通告の前日、イギリスは自由貿易協定を結びました。
どの国と手を結んだか。
古田
韓国ですね。
藤井
そうです。
両国にとって貿易総額の1%ほどの依存度でしかないのに、なぜ結んだのか。
古田
うーん、どうしてだろうか。
藤井
両国とも切羽詰まっての、やけのやんぱちだったと思っています(笑)。
協定を結ばないよりはいいだろうと。
現在のイギリスは反米国家ですから、反米で手を結んだ英韓同盟が結成されたようなものです。
古田
イギリスは確かにそういうところがあります。
ファーウェイだって、イギリスが最初に裏切ってしまったでしょう。
藤井
英韓両国は政治中枢が麻痺した状態です。
そもそもイギリスは北朝鮮と公式的な外交関係を結び、脱税や麻薬など、北の悪行を見て見ぬふりをしてきました。つまり、汚いイギリスがそこにはありました。
古田
要するに「二重帳簿」のイギリスだ。
藤井
スエズ運河危機で大きな利権を喪失した頃、何とか新しく稼ぐ方法を編み出そうとした。
そこで、イングランド銀行は外国から入って外国に出ていく金は、国内の帳簿に入れず、別建てでいいとしたのです。
つまり、規制がかからないお金を良しとしてしまった。
そのお陰でシティ(ロンドン金融の中心)は繁栄できたのです。
古田
グローバル資本主義の流れに乗れなくて、後退してしまったわけですね。
イングランド銀行についてマックス・ウェーバーが「札束で相手の頬を叩くような銀行だ」と書いていました(笑)。
たしか「一般社会経済史要論』だったと思いますが、手元になくて引けません、ごめんなさい。
米露冷戦の夢よもう一度
藤井
イギリスでは製造業が退潮して、金融で食べていかざるを得なくなった。
それが今のイギリスの惨状です。
北朝鮮もある意味でタックスヘイブン(租税回避地)です。
独立国で主権国家だから、ニセ札をつくろうが、麻薬に手を染めようが、他国は介入できない。
そういう北朝鮮を、さまざまな国がうまく利用してきたのでしょう。
イギリスのシティは確実にそうだったと思います。
古田
香港もそうだった。
藤井
ええ。
中華人民共和国が独立したとき、最初に承認した国がイギリスでした。
古田
実に速かった。
藤井
米ソの冷戦時代、その狭間で一番稼いだのがイギリスです。
かつて「ユーロダラー」という言葉がありました。
つまりヨーロッパにあるドルという意味で、一度、アメリカから流出してしまったドルです。
古田
国際化したドルということでしょう。
藤井
そう、だから日本に流れてきても「ユーロダラー」と言われていました。
ソ連は金や材木を売ってドルを稼いでいたのです。
貴重なドルですから、西側から買わなければいけないものを、それで購入していた。
でも、ドルをアメリカに置いていたら、冷戦時代下、いつ資産凍結されてもおかしくない。
じゃあ、ドルをどこに置くのが一番安全か。
古田
ロンドンですね。
藤井
それでロンドンを中心にソ連がお金の運用を始めたのです。
これが「ユーロダラー」の始まりです。
金融家は国際的なドル資金がロンドンのシティに滞留しているから、株券や債券を発行し始めたのです。
シティが漁夫の利を得て、他国も真似するようになった。一九七三年、七四年のオイルショツクのあと、アラブの連中はオイル・マネーをロンドンに置くようになりました。米ソの冷戦時代は、イギリスにとっていい時代だったのです。
古田
米中新冷戦時代はどうでしょうね。
藤井
もうイギリスの足腰はよれよれですから、今回ばかりはうまくいかないんじゃないですか(笑)。
英中が裏でつるんでいるのは事実ですが、シティのタックスヘイブンとしての機能はもう大きく制限されています。
ロシアゲートでトランプとロシアが協力体制にあったという証拠の文書を捏造したのが、クリストファー・スティールという元M16(イギリスの諜報機関)のロシア担当デスクです。
米露が再び冷戦状態になれば、シティが儲かるという目算があっての工作ではなかったのかと疑っています。
古田
やることが賊っぽい(笑)。
藤井
スティールが捏造したのが「トランプ調書」と言われていますが、その実態はヒラリー・クリントンがお金を出して、スティールに「トランプのゴシップを探してこい」と頼んだに過ぎません。
実際にロシアに行って探したわけでもなく、CNNの落書き掲示板に書いてあったウソ情報を羅列したのです。
スティール自身も名誉棄損でイギリスで訴えられて、裁判のとき「何の根拠もありません」と告白しています。
*私は、watch9の有馬が真顔で、この件が真実であり大問題であるかのように報道していた事を思い出して、一層、彼らを軽蔑せざるを得ない*
古田
米露冷戦の夢よもう一度、だったんだ。
ひどい話だな。
イギリスはけっこう野蛮な国ですね。
藤井
そうです。
だから、アングロ・サクソンは天下を取れたんです(一同爆笑)。
古田
もともと海賊だしね。
カエサルが『ガリア戦記』で言っているんだけれど、イングランドの兵は、体中ミドリ色にぬって森から飛び出してくるんだって。
ものすごく怖いと、軍人らしく誉めていました。
よく言えば、奇知に富んでいる。
藤井
それとアングロ・サクソンは謀略が好きなんですよ(一同爆笑)。
「ロシアゲート」は実に安っぽい謀略だったけど。