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本気で家計消費を回復させるつもりなら、消費税の大型減税を脱デフレが実現するまで続けるほうがはるかに理にかなう

2021年12月28日 22時05分45秒 | 全般

以下は11月28日、産経新聞に掲載された田村秀男の定期連載コラム「日曜経済講座」からである。
見出し以外の文中強調は私。
円安にたじろぐな  
設備投資促進の好機に変えよ
石油価格高騰下での円安は家計や企業の負担を大幅に高める「悪者」扱いされているが、過度な悲観は禁物だ。
円安は本来、企業の国際競争力を高め、国内向け設備投資を促す。
岸田文雄政権は円安を脱新型コロナウイルス不況の好機に変えるべきなのだ。
私たちの懐具合を左右する国内総生産(GDP)は大きく分けると、家計などの消・費、企業設備など投資、さらに輸出の対輸入超過分で構成される。
中でも設備投資は資本主義のダイナミズムを担う。
現代経済学の巨頭、J・M・ケインズはリスクを冒して将来に向けて投資する企業家の「アニマルスピリッツ(血気)」を重視した。
日本の場合、企業設備投資は円の対ドル相場によって左右される。
円安で上向き、円高とともに萎縮する傾向が顕著なのだ。
グラフはアべノミクスの起点となった平成24年度を100とし、16年度から今年度(7~9月期の年率換算)までの期間をとって、家計消費(家賃とみなされる部分を除いた正味ベース)、企業設備 投資、輸出の3つの名目額をそれぞれ指数に置き換え、円ドル相場と対比させている。
実額は7~9月期で家計消費231.3兆円、企業設備投資85.8兆円、輸出は100.3兆円である。
3指標のうち、円相場との相性が最もよいのは企業設備投資である。
統計学でいう相関係数(最大値は1)は、企業設備投資は0.75と高い。
輸出0.54、家計消費0.5弱を凌駕する。
設備投資に対する輸出、家計消費の相関係数はそれぞれ0.81、0.76と密接に関連する。
円安局面の平成16~18年度、24~27年度は設備投資が回復し、家計消費もわずかながら上向いている。
逆に円高局面の20~23年度は設備投資が低水準のままだった。
20年9月はリーマン・ショツク、23年3月には東日本大震災を受けたが、日銀の白川方明総裁(当時)はカネを刷らない量的引き締め政策をとったために超円高とデフレ不況を招いた。
相関係数は因果関係を表すわけではないので補足すると、円安はグローバル化した企業の輸出競争力を高め、収益を伸ばす。
企業は輸出を増やそうとして設備投資や雇用に前向きになる。
円高は逆というわけだ。
他方で消費税増税や緊縮財政のように、政府が内需を押さえつけると、企業の血気に冷水を浴びせてしまう。
26年度の消費税の大型増税は家計消費の停滞を招き、28年度の設備投資は前年度と横ばいになった。
令和元年10月に消費税率が食料品などを除き10%に引き上げられると、やはり家計消費は減り、設備投資は頭打ちになった。
アベノミクスのもとの円安進行は平成26年度に止まり、円高に振れるようになったが、設備投資は円高が止まった29年度からは再び上昇し始め、家計消費も再び上向いた。
新型コロナ禍の令和2年度は家計消費が激減、円安に動いたが設備投資も大きく減った。
今年度は家計消費停滞のまま、円安が進んで輸出が大きく回復している。
設備投資はわずかだが回復の兆しがみえている。
企業にとってやはり、円安は吉、円高は凶なのだ。
総合すると、最近、専門家の間で特に目立つ「悪い円安」論には違和感を覚えざるを得ない。
円安傾向がはっきりしているなら、日本企業は前向きに対応できる柔軟性を持っていることが、本グラフからも読み取れるはずだ。
そこで重大な責任を負うのは政府である。
円安をてこに、企業の国内回帰を誘導する政策を打てばよい。
というと、投資減税などの奨励策を政治サイドは考えがちだが、円安自体が支援材料である。
要は、企業の投資をためらわせる国内のマイナス要因を取り除くことだ。
財政支出によって持続的に内需を拡大させ、成長分野への投資を促進させる基盤をつくる。
その点、過去最大規模とみられる岸田政権による経済対策はどうか。
現金給付などいわゆるバラマキが際立っている。
成長投資も含まれているが、規模は欧米に比べていかにも貧弱だ。
政府がヘリコプターを一度だけ飛ばして札束を頒布しても、家計はその大半を貯蓄に回す。
ヘリコプターマネー論を唱えたマネタリスト、M・フリードマン自身がそう論じている。
本気で家計消費を回復させるつもりなら、消費税の大型減税を脱デフレが実現するまで続けるほうがはるかに理にかなう。
一過性の大型補正予算よりも、本予算でデジタルインフラ、人材教育、医療、サイバー防衛など長期的な成長を支えるのが王道というものではないか。

 


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