以下は月刊誌Hanada今月号に「香港デモとトランプの思惑」と題して掲載された長谷川幸洋氏の論文からである。
前文省略。
日本メディアのピンぼけ
米中の応酬が激しさを増しているなか、日本はどうするのか。
指摘したいのは、先にも少し触れたメディアのピンぼけぶりだ。
多くの日本メディアは、米中対決を相変わらず「ゼニ・カネ問題」として報じている。
たとえば為替操作国指定について、朝日新聞は「米中、通貨でも対立」という見出しで、「(米中対立は)通貨安競争の様相を呈して……経済の先行き不透明感が高まった」と報じた(八月七日付一面)。
読売新聞も「米申摩擦 為替に波及」という解説で、「世界経済を激しく揺さぶっている」(同三面)と書いた。
事実として、これらは間違っていない。
だが、事の本質を報じているかといえば、そうは言えない。
トランプ氏自身が米中対立を経済問題に留めていたとしても、この連載で何度も指摘してきたように、他の政権幹部や国防総省を含めた政権全体は中国の独裁抑圧体制を問題にしている。
中国は人権抑圧はもちろん、南シナ海や尖閣諸島への領土・領海的野心も隠していない。
中心にあるのは中国共産党である。
そんな構図を抜きにして、世界経済への悪影響を語っても、全体の情勢を見誤るだけだ。
日本のメディアは日本経済への悪影響をひたすら心配している。
それは、朝日の「貿易と金融 日本にも打撃」(同三面)や読売の「日本企業にも影」(同)といった記事に表れている。
日本の「平和ボケ」や「カネ儲け至上主義」は、メディアにも大きな責任がある。
安倍晋三政権はどうするのか。
日本は中国について、「経済」と「安全保障」の股裂き状態になっている。
民間企業は中国との貿易投資でウィンウィン関係を築きたい。
だが、日本国としては、安全保障問題で中国に気を許すわけにはいかない。
尖閣諸島には、いまも中国の公船が押し寄せている。
潜在的には脅威なのだ。
安倍政権は「安全保障で中国と戦う米国に歩調を揃えつつ、経済では果実を求める」という相反する課題に向き合っている。
だがここへきて、事情が少し変わりつつあるようだ。
中国事業の撤退・移転を考える企業が増えているのだ。
中国人社員の賃金が上昇してきたのに加えて、事業を取り巻く環境が一段と不透明になってきたからだ。
たとえば、ある企業の社長は「撤退を検討し始めたら、すぐ公安がやってきて脅された」と私に語った。
「撤退なんてできると思っているのか。お前たち日本人がこの国で何をしているか、オレたちは全部知っているんだぞ」というのだ。
多くの日本人が事実上、ハニートラップにかかってしまっている。
米中関係が緊迫すればするほど、中国にとって日本との関係は重要になる。
だからこそ、いったん来た日本企業を手放さないために、さまざまなトラップを仕掛けている。
かつては政治家や官僚が狙われたが、いまや、日本企業の関係者が主要な夕―ゲットになった。
中国に進出している企業、これから進出や事業拡大を考える企業は、目に見えない「非公式リスク」に注意すべきである。中国をとり巻く全体状況とリスクを考えれば、これから中国事業を拡大する選択肢は、私には考えられないが……。
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