文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

金融政策が雇用をつくる…政治家で金融政策を一番理解していたのは、安倍さんだった…その内容を安倍さんに見せたところ、納得していた。

2023年01月23日 17時53分41秒 | 全般

以下は月刊誌WiLL2月号に、増税?防衛国債をなぜ出さない!と題して掲載されている高橋洋一氏と上念司氏の対談特集からである。

日本の防衛力増強にかかわる国債であれば買いたい人は多いはず
円安のお陰で高度経済成長

上念 
「悪い円安」が2022年流行語大賞トップテンにも選ばれました。 
ところが、上場企業の2022年9月中間決算では、円安の恩恵で過去最高という見通しです。
さらに財務省が9月1日に発表した法人企業統計(4~6月期)をみても、全産業の経常利益は、これもなんと過去最大、企業の内部留保も初の五百兆円超えを記録しています。
円安を否定的にとらえる日経は、どういうつもりなのか。
高橋 
日経は”悪い円安論”が花盛り。
いつもネタを提供してくれるからありかたい(笑)。
“悪い円安”なんてバカげています。
安倍晋三元首相は生前、私の『戦後経済史は嘘ばかり』(PHP新書)を読み、いたく面白がってくれました。
講演会などで、事あるごとに紹介してくれたので、版を重ねることができた。
本の内容は日本の高度経済成長は円安のお陰だというもの。
上念 
ニクソンショック以降、1970年代から80年代半ばにかけて、日本政府は意図的に円安誘導していたんでしょう。
高橋 
もちろんー円安になると法人収益が上昇し、法人税収と所得税収が上がります。
当時、大蔵省内でも自明の理だった。
OECD(経済協力開発機構)の経済モデルでは、10%の円安であれば1~3年以内にGDPは0.4~1.2%増加することもわかっていた。
しかも、これは日本だけの話に限りません。
世界各国共通です。

自国通貨安はプラス要因

上念 
自国通貨安になれば、国内のGDPが伸び、周辺国はマイナスになる。
高橋 
そう、それがいわゆる「近隣窮乏化政策」です。
経済学者はさもわかったふりをして「貿易構造に依存する」と言いますけど、それは違う。
どこの国もみな同じ現象がみられるんです。
通貨安は輸出主導の国内のエクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業に不利となります。
ただ、全体としてはプラスになるので、輸出依存度などにかかわらず、どのような国でも自国通貨安はGDPプラス要因になる。
上念 
貿易構造は関係ないのですね。
反対に自国通貨高になれば「自国窮乏化政策」を実行することになる。 
経済学者の浜田宏一氏は、全世界が通貨安競争を始めたらどうなるか、ということをゲーム理論で解説しています。
結論は参加しない国が大損して終わるだけ。
実際に日本がそうだったのです。
リーマン・ショックで国際的な通貨安競争が始まりましたが、日本は当時の日銀総裁、白川方明氏が政府の言うことに耳を傾けず、金融緩和を頑なに拒否した。
そのため、日本は通貨安競争の参加に乗り遅れ、リーマン・ショックの震源地でもないのに、一番ダメージを受け、回復もどこの国よりも遅れた。
アべノミクスによって、ようやく参加する形になりましたけど、白川氏の大罪は許し難い。

バカ言うんじゃない!

高橋 
日経がどんなに「悪い円安論」をぶっても気にする必要はありません。
あらゆる理論とデータを示して、円安による国内経済の恩恵を説明することができます。
上念
2022年から米国が利上げを開始して、円安が進行しました。
6月になると1ドル=130円合に到達。
そこで日経は「このままでは150円になる」と、どんどん煽り記事を書いた。
ところが案の定というか、確かに150円ワンタッチだけして、130円台までドル下落した。
日経が騒ぎ出すと、相場の最終局面であることは以前からよくあります。
日経は「円安は構造的な問題だ」「日本の生産性が低いから円安になっている」などと言いますが、簡単に円高基調になったことについては、どう説明するのでしょうか。
日本の生産性があっという間に高まったのか。バカ言うんじゃない!(笑)
高橋 
完全に予測を見誤っていますね。
私は3月ごろ、講演会などで「2つの交換比率は、一定の条件では2つのモノの比に理論的に収束します。日本は700兆円、米国は5兆ドルのマネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)と予測されます。これを割ると140円ですから、円相場はそのあたりで動くでしょう」と話していますけど、均衡値としては間違っていない。
上念 
ジョージ・ソロスが考案した「ソロスチャート」と言われる分析法を駆使された結果ですね。
高橋 
「ソロスチャート」とは、二つのものの交換比率があったときに、日米の通貨供給量の比率と米ドル・円の値動きの相関に着目した図・グラフのことです。
分析の際には役立ちます。
上念 
円安の恩恵を一番受けているのはどこでしょう。
高橋 
日本政府=財務省ですよ。
GDPが増えれば法人税収・所得税収が増える。
さらに外国為替資金特別会計(外為特会)が180兆円ほどあり、ほとんどがドル建ての外国債券。
1ドル・百円のときに買ったもので、今は1ドル・134円ですから、含み益が40兆円ほど出ています。
上念 
米国からは文句を言われませんか。
高橋 
以前は円安になると米国からブーブー言われましたけど、今は国際情勢が複雑化していますから黙らざるを得ない。
むしろバイデン大統領は「ドル高を懸念していない」と言っていますから、このチャンスを逃す手はありません。

衝撃のオチ

上念 
国際通貨基金(IMF)が10月11日に公表した世界経済の見通しでも、日本は先進国の中でもっとも高い成長率を予測しています。 
そのようにして儲けている財務省なのに、頑なに円安基調を認めようとしません。
高橋 
為替介入の”威厳”がなくなるからです。
財務官がズル賢いのは、外為特会の介入と言いつつ、ドル債を円で買っているだけ。
ドル債は有期債で、たとえば3年債なら3年後に償還され、その際に外貨は円貨に替わる。
これはどこの国でも行われる通常の行為ですが、財務省は償還していません。
上念 
つまり、借り換えている。
高橋 
そうです。
再び米国債購入(ロールオーバー)を実施、そうやってドル債を貯め込んでいるわけです。
ドル債の保有を「外貨準備高」と言いますが、日本はGDP比で28%もある。
上念 
日経は、米国債を売れない理由として、そんなことをすれば米国債が暴落するからだと言いますけど。
高橋 
財務省が米財務省と内密理に談合し、「売れるとは言わないでください」とウラで”握っている”からです。
上念 
1997年、当時の橋本龍太郎首相が米コロンビア大学での講演のあと、質疑応答で「米国債を売りたい衝動に駆られることがある」とジョーク交じりにコメントしたところ、米国側は激怒した。
日本が米国債を売れば暴落するから、米国としてはそれをしてほしくない。
そういう力関係が今まで続いていました。
高橋 
市中に売却しなくても、日銀や他の特別会計など、広義の政府内に売却する方法があります。
そのテクニックを使えば、米国の怒りを買わず、含み益を取り出すこともできます。
上念 
ところが、今回の為替介入では、財務省が米国債を売っていたという“衝撃のオチ”を日経が報じています。
高橋 
9月、急速な円安を抑止するため為替介入を実施しました。
円買い・ドル売り介入は1998年6月以来、24年3ヵ月ぶりのことですが、米国債の売却で費用を捻出したと言われています。
上念 
そうなると、日経は財務省に裹切られたわけだ(笑)。
高橋 
鈴木俊一財務相の会見の際、米国債を売ったのかどうか、記者が質問をすればいいのに誰もしない。
上念 
SNS上では財務省による今回の外為特会を利用した為替介入は天才的だと言われています。
というのも、為替介入をしたのが、円安がピークだった150円のとき。
しかも、ドル債は1ドル100円前後のときに買ったものですから。
高橋 
政治家やマスコミの中でも、為替介入と米国債の売却がリンクしていることを理解している人が少ない。
180兆円あると言われる米国債を売れば、140兆円は国債の償還に回し、評価益だけを残すことができます。
つまり、国債の残高を減らすことができる。
上念 
財務省にとっていい話じゃありませんか。
高橋 
そうですよ。でも、いつもダンマリです。
上念 
均衡財政主義の財務省としては、財政破綻を言い続けたいので、国債の残高をあまり減らしたくはないのでしょう(笑)。

ゼロ金利政策で限界に

高橋 
私は安倍さんに「円安になったらすごく楽ですよ」と何度も言ったことがあります。
円安は国力が衰退したからだと言いますが、国力とは無関係―まったくの正反対です。
上念 
為替の話ですからね。
高橋 
為替は交換比率ですから、取引に何ら規制をかけなければ、マネタリーベースで、勝負は決まります。
日本は1973年に変動相場制に移行していますが、実際には猛烈な為替介入が続いていました。
「ダーティ・フロート」という裏の介入が続いていたのです。
もちろん国民の目には触れないやり方です。
上念 
そのようにして円安に誘導していた。
高橋 
ところが1985年のプラザ合意以降は「クリーン・フロート」にして為替介入をやめたのです。
上念 
私が留学した1987年、1ドル・140円で安定していました。
不自然だと思っていましたけど、高橋さんの政府の介入があったとの指摘を知り、「なるほど」と納得しました。
ところが、1995年になると、1ドル・80円台の円高基調になる。
その原因の一つが日銀による「金融引き締め」の開始。
高橋 
バブル崩壊以降の失われた30年は、日銀による金融引き締めから誘引された円高状況が大きかった。
上念 
さらに為替の自由化が促進され、結果的に円高になった。
高橋 
政府がいくら介入しても影響を受けない変動相場制が市場で根づいたとも言えます。
今の為替市場は一日で150兆円ほどの収引が行われています。
そんな状況で政府が多少介入したところで、影響力は微々たるものです。
上念 
ところが、日経などの経済系メディアは、政府が介入することに意味があるように書き立てる。
1995年の阪神・淡路大震災の影響で、日銀は金融緩和に転じたところ、円安基調に戻ってくるわけですが、2000年のITバブルが崩壊する直前に、ゼロ金利政策(短期金利をゼロ%に固定することで、金利を操作して金融調節を行う通常の金融政策を実行不可能にする)を解除してしまった。
それによって金融引き締め効果で、再び円高に戻ることに。
アベノミクスまで金融政策をずっとなおざりにされてきたのです。
その理由は財務省と、財務省が発表する内容を検証もせず、そのまま受け入れるマスコミのせい。

金融政策が雇用をつくる

高橋 
為替の仕組みをわかっていないのです。
日経は財務省の情報を鵜呑みにしているだけ。
介入には一定の効果があるというのが、財務省の前提ですから。 
政治家で金融政策を一番理解していたのは、安倍さんだった。
後年、ゼロ金利解除政策について、安倍さんは「あの政策は正しかったのですか」と聞いてきたので、「正しくありません」と答えました。 
ゼロ金利解除の時、私はプリンストン大学にいましたが、同僚で後にノーベル経済学賞(2008年)を受賞したポール・クルグーマン教授から「これは絶対失敗する」というメールを受けていました。その内容を安倍さんに見せたところ、納得していた。
それ以来、「金融政策が雇用をつくる」という話をする機会も増えましたが、この構造を理解している政治家はほとんどいません。
上念 
米国の経済学者、ベン・バーナンキもそうでしょう。
高橋 
安倍さんに「この人は将来、ノーベル賞を取るかもしれません」と言っていたら、2022年、本当に受賞してしまった(笑)。
上念
バーナンキは安倍さんには会っていない?
高橋 
残念ですけどね、米国大統領経済諮問委員会(cEA)の委員長やFRB議長をしていましたから難しかった。
私は米国の経済学者、ジョセフ・E・スティグリッツ(2001年、ノーベル経済学賞を受賞)とも交流がありましたが、彼は「日本銀行の持っている国債資産は政府の国債負債と相殺される」という論文を発表しています。
ところが、この話は日経では一切掲載されていません。
上念 
では、日経はどういう記事を書いているのか。
「保有国債の時価評価が簿価を下回り、含み損に転じている。日銀が債務超過に陥るかもしれない」(12月5日)などと煽っている。
この記事を受け、私は(すでに債務超過になってるオーストラリア中央銀行に取材に行ってこいって。何も起こってないから》とツイートしましたけど、実際に豪州の中央銀行では何も起こっていない。
中央銀行が債務超過に陥るわけがありませんから。
高橋 
当然です。
一つの例をあげると、日本銀行が保有している国債は、統合政府の資産に入ります。
それが600兆円ほどで、負債は1600兆円ほど。
仮に1兆円の評価損となると、600兆円から599兆円になる。
それと同時に1600兆円も1兆円の評価損となるから、1599兆円になる。
結局、同じ額のままです。
上念 
連結決算の仕組みを知っていれば常識です。
たとえば、セブンイレブンが出している手形を、イトーヨーカドーが保有しているとして、その手形の価値が下がったとします。
それと同時にセブンイレブンが回収できる金額も下がりますから、すべて連結すれば、結果的にプラスマイナスゼロです。
何も問題ありません。
高橋 
バーナンキが25年前、「国債発行しなくても市場に出ている国債を購入してカネを刷れば同じ。こんなことを心配するバカがいるのか」とハッキリ言っていました。
さらに「高橋さんは財務省でしょう。財務省と日本銀行の間で、損失補填契約を結べばいい」とも言っていました。
日本銀行は損をしていますが、財務省は負債額が減り、得をしているから同じなのです。
そういう理屈を日経は理解すべきです。


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