菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

個人情報保護をめぐる昨今の課題

2015-01-05 00:00:00 | 情報法

1 ベネッセ事件の教訓
 個人情報保護法が全面施行されてから約10年が経過したが、新聞報道等により公になった個人情報漏えい件数は、引き続き増加傾向にある。
 特に2014(平成26)年夏に発覚したベネッセコーポレーションの顧客情報漏えい事件では、現行法の問題点もいくつか浮き彫りになってきた。

 ベネッセ事件で流出したのは、本来的に脆弱な立場にある子どもたちの個人データであった。これらが自由に流通すれば、未成年者の利益が不当に侵害される危険も高まる。子どもないし未成年者の個人情報をセンシティブ情報に準じて取り扱うなどの配慮が検討されなければならない。
 また、第三者提供の制限(法23条)と名簿業者との関係も課題である。個人信用情報を悪用する名簿業者に対しては、現行法の規制が十分に機能しているのかを検証しなければならない。さらには、委託先の監督(法22条)の実効性も大いに問題となった。

2 個人情報保護法改正の動向
 政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、2014(平成26)年6月24日、「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」を決定し、個人情報保護法の改正案を翌27年の通常国会に提出することを目指している。
 この改正の骨子には、個人情報の定義(法2条1項)の明確化(グレーゾーンへの対応)、本人の同意を必要としない利用のための新たな枠組み、第三者機関の設立のほか、利用目的の変更、オプトアウトや共同利用の取扱い、保存期間などの見直しが含まれている。
 最近のスマートフォンやSNSの普及により、ビッグデータのビジネス利用のプライバシー侵害や悪評などのリスクが顕在化しつつあるが、端末識別ID、位置情報、画像情報、SNSでの書き込みなど、他の情報と組み合わせて個人を特定できるグレーゾーン情報の増加には特に留意が必要であろう。こうした改正が実務に与える影響については注視していかなければならない。

 また、ベネッセ事件を受けて、昨2014(平成26)年12月、経済産業省の個人情報保護ガイドラインも改正された。企業の情報管理の強化を図るため、委託先による情報管理の再委託を原則禁止し、個人情報へのアクセスや取扱いを監視することなども求めている。

3 弁護士業務と個人情報
 こうした課題の一方で、個人情報漏えいを警戒するあまりの様々な「過剰対応」も依然として認められるところである。かかる「過剰反応」は、深刻な萎縮現象と混乱を社会全般にもたらすばかりでなく、行政の透明性を目的とした情報公開法制の趣旨に反する情報非開示の動きさえ助長するという弊害を生んでいる。
 こうした個人情報保護法の規定の拡大解釈や誤解が蔓延した結果、社会が共有すべき情報とプライバシーとが混同されるに至っている(最判平成15年9月12日判時1837号3頁は、自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくないと考えることが自然な個人情報が、プライバシーとして法的保護の対象となるとしている)。

 最近の状況を踏まえれば、従来型のプライバシーないし人格権侵害の事案のみならず、個人情報の保護が問題となる場面がますます増えていくものと思われる。したがって、弁護士としては、これらの救済申立てや交渉について適切に対応していく必要があろう。

                    (法曹親和会 2015年政策綱領「個人情報と人権」より一部抜粋・修正)

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