菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録:会社とは(1) ~企業と会社

2010-12-01 00:00:00 | 会社法学への誘い
 最近「会社とは何か」とか、「会社は誰のものか」などといった議論をよく耳にします。広く世間の注目を集めるような会社関連の事件が増え、日本経済新聞にも『会社とは何か』と題する人気記事が連載されていました。そこで、これから『会社法学への誘(いざな)い』と題して、「会社とは何か」、さらには、株式会社の基本構造ということについて連載させていただきます。

 第1回の話題は、「企業と会社」です。
 会社とは、企業形態のひとつですが、厳密にいえば、会社=企業ではありません。企業とは、営利を目的として活動する組織のことをいいます。たとえば、ある商品を安く仕入れて高く売るなど、継続的・計画的な経済活動を行い、利潤を追求する組織が企業です。

 利潤の追求のための企業活動は、いつでも誰でも起こすことができます。たとえば、駅前の魚屋さんや八百屋さんには、店主が一人で経営しているところも少なくありません。このように個人が継続的・計画的な経済活動を行うことも可能でありまして、これが個人企業というものです。要するに、企業は必ずしも会社であるとは限らないのです。

 個人企業の場合、その主体である営業主は、仕入れた商品など、事業のための財産を自ら所有しています。また、経営に関する事項は営業主が一人で決定し、獲得した利益もすべて営業主が自らの手中に収めます。その反面、事業に失敗し、損失が発生すれば、これも営業主が一人で負担しなければなりません。また、事業を拡大しようと思えば、一人ですから、資金的にも労力的にも限界があるでしょう。

 たとえば、一人の個人が100万円を出資して起業するよりも、100人が集まり、各々100万円を拠出したほうが、合計1億円の資本を結集できるわけですから、その分だけ大規模な事業を展開することも可能となります。また、有限責任の原則が適用される場合には、個人の負担や危険も100万円に限定できます。

 ここでいう有限責任とは、出資した企業が借金まみれで倒産したとしても、出資者は出資した金額だけをあきらめれば、それ以上の追加負担を求められる責任はないものです。出資金額までの責任しか負わないことから、これを有限責任と呼んでいます。

 有限責任の話はさておき、一人で起業し、事業を行うことには限界があります。そこで、次には、事業の拡大や負担の分散のために、複数が共同で企業経営にあたることを検討するようになるでしょう。こうして、共同企業形態では、利益追求という目的のもとに出資者が集います。たとえば、AがBを出資者として誘い、共同事業を営むことを合意すれば、A・B間に「組合」契約が成立し(民法667条1項)、A・Bともにその組合の構成員、すなわ「組合員」となります。ここでは、各組合員がお互いに契約によって結びつき、一種の団体を形成します。しかし、組合という共同経営形態では、単なる組合員相互の契約関係があるにすぎませんから、結局のところ、組合の活動=組合員自身の活動ということになります。

(次回に続く)