ジャズ・ファンたるもの『サキソフォン・コロッサス』を聴かずしてジャズを語るなかれというのが通説でしょうか。まぁ、これを聴いたいたことがないなんていうジャズ・ファンもいないはずですしね。
え? 私ですか? もちろん長い年月ジャズ・ファンをしておりますので、間違いなく何十回に達するほど聴いております。たぶん・・・ですが。
で、なにが言いたいかというと、我々の世代にとってのこの盤は、A面1曲目が<セント・トーマス>。2曲目が<ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ>と来てA面が終了。同様にB面1曲目が<ストロード・ロード>、<モリタート>、<ブルー・セブン>と続く構成と認識しています。何を今更とのご指摘ごもっともです。まぁ、そのくらいにジャズファンにとってのマスターピースがこの盤ではありますが、実はこの盤に纏わる幾つかの経験をしておりますのでご紹介方いたしましょう。
■その1■
はっつぁん:ご隠居、ご隠居てーへんだ! てーへんだぁ。
ご隠居:なんだい、素っ頓狂な声をだして。
はっつぁん:大変なんですよ、もう本当に大変。
ご隠居:なにがそんなに大変なんだい。
はっつぁん:ねぇ、ご隠居、『サキコロ』って知っていやすか?
ご隠居:当たり前じゃないか。名盤だろうが。
はっつぁん:ですよね、その『サキコロ』がステレオだって知っています?
ご隠居:なんだい、藪から棒に。モノラルだよ、モノラル。56年だからねぇ。
はっつぁん:いや、それがステレオなんでさ。あっちは、ジャズ喫茶で間違いなく聴いてきやしたから。
ご隠居:ははぁん、おまえも引っかかったんだね。こっち岸にあるジャズ喫茶じゃないのかい?
はっつぁん:ええ、まぁそうでさ。それがなにか?
ご隠居:それはなぁ、昔々、ステレオがまだ珍しい時代に疑似ステレオってやつが流行ってな。それで作られたレコードだよ、そりゃ。お前みたいにそそっかしいやつが大体毎年1人くらいは出る。それも春先になぁ。
はっつぁん:えぇ?じゃぁ、騙されたってわけですかねぇ?
ご隠居:騙した訳じゃないだろう。そういう時代ってのがあったんだ。単にお前さんが一人で騒いだだけだろうよ。なぁ、まあ楽しかったんだろ? ならいいじゃないか。音楽ってのは「音を楽しむ」って書くんだからな。 お後がよろしいようで。♪~
というわけで、はっつぁんが聴いたのが、ステレオの『サキコロ』というわけ。まぁ、56年6月22日録音ということで、ステレオがあってもおかしくない時期ですので、ジャズ・ファンの中には“騙されて”しまったファンの方がいてもおかしくないという一席。
■その2■
上述の様に我々ジャズ・ファンはその盤の固有の認識というものを“曲順”というフラッグで聴いているわけです。つまり「刷り込み」ってやつです。
で、ここにロリンズの『コンプリート・プレスティッジ・レコーディングス』があるんですが、この6月22日のセッションは、DISC6の1曲から5曲目に収録されています。
ところが曲順がクロノロジカルに納められているので順番が<ユー・ドント><セント・トーマス><ストロード・ロード><ブルー・セブン><モリタート>と並んでいるわけです。私、このCDを聴いて物凄い違和感を感じました。
違和感といえば、いいんですが、まるで「名盤」(世紀の名盤)に聞こえなかったわけです。もっと重要なのは聴いても楽しくなかったわけなんですねぇ。
というわけで、この盤『サキコロ』のオリジナル曲順を決めたプロデューサー、ボブ・ワインストックに脱帽というお話。
■その3■
上述のようにこの大名盤『サキコロ』ですが、私が幼少の頃(うそ、うそ、大学時代ですね)、ジャズ喫茶でこの盤を大音量で聴いた原体験が抜けないせいか、自宅で聴く(大方のジャズ喫茶で聴いてもそうですが・・・)この盤の凄み(あくまでも音質的にです)が体験できなくて悶々としておりました。(ほんまかいな?)
実はこの3日ばかり、一ノ関の『Royce』というジャズ喫茶に入り浸り、タンノイ・ロイヤルの音を体験して参りました。知らない方にはここを。
ここのマスターはおもむろに、3枚(CDを入れると4枚)だして来まして、この盤をB面からかけ始めました。いやー、凄いのなんのって。正直、こんな凄い音の『サキコロ』は、吉祥寺の有名店群でも、どこのジャズ喫茶でも聴いたことのない様な凄まじい音で鳴らしておられました。図太く厚いロリンズのサックス(飲み込まれちゃうかとおもいましたねぇ)、マッシブでギリギリとうなるダグ・ワトキンスのベース。切れのある音速スティックワークが味わえるローチのドラミング。もう本当に「す・ご・い」としか言いようのないものでした。後の3枚ですか? チンケな(プアーな)音の盤でした。というわけで、マスター一流の“仕込み”だったわけです。
物凄く程度のいいアナログ盤が『Royce』にはあるんですね。もちろんオーディオ装置は選びに選んだマランツ7に、玉のパワーアンプ、そしてオルトフォンSPUという組合せですから、ジャズ・ファンの涙腺を刺激するラインアップには違いがありません。もしかすると生涯一度の『サキコロ』体験になったような気がしています。
ちなみに「ペラペラの薄盤なんですが、聴きます?」とのまくらがあって聴かされた『ヘビー・サウンド/エルビン・ジョーンズ』(Impulse)もとんでも無いくらいに恐ろしい音がしておりましたので必聴です。
このお店が出来た時にもお邪魔していますが、その時とは「月とスッポン」の違いがあります。ダテに4年間の歳月が流れたわけでなかったのが、しっかり確認できました。『Royce』のマスター、本当にいい体験をさせていただきました。ありがとうございました。
なお、この『サキソフォン・コロッサス』は今年6月で生誕50周年。
Prestige RVG Remasters Seriesとして再発されますので、こうご期待
Rudy Van Gelder Remasters series on Prestigeとのことなので、とても
楽しみです。
Today, Van Gelder says of these ten Prestige albums: "I remember
the sessions well, I remember how the musicians wanted to sound,
and I remember their reactions to the playbacks. Today, I feel
strongly that I am their messenger."
いい話ですねぇ。ここを2月27日付ニュースを参照してください。
PS
某氏のご自宅にお邪魔しました。そのご自宅も実はタンノイの型番知らずのちょっと変わった(直輸入品純正)スピーカー(奥行きが長い)で聴かせていただくチャンスをいただいたのですが、これまた天上の音楽を奏でておられました。ちなみにここで、オルトフォンの新しいカートリッジMC☆20Wをじっくり聴かせていただきました。SPU系の素晴らしい音質(ジャズ・ファン垂涎の音)にスピード感が加わった(たぶんトラッカビリティも秀逸と聴きました)素晴らしい作品を拝ませていただきました。本当に綺麗なカートリッジで、持つ喜びを実感させてくれる一品だと思います。アナログ全盛期の1970年代にオルトフォンMC20を使っていた私にとっては見ては(聴いては)いけない物を聴いたような気がしています。(閑話休題)
ご隠居「で、どうだったい」
くまさん「千葉から偉い人が来たってえんで、生涯いっぺんしか出さない音を出しちまって、タンノイが焼き切れちまったそうで、音が出てませんぜ。」
ご隠居「ばかだねえ。あそこはこーひー注文しないと音を出さないんだよ」
今回、同じページに紹介しているRGVマスタリングのCDなんですが、相当いいみたいです。
値段も手頃ですし、僕も騙されたと思って購入しようかと思っています。
この夏には第2弾もリリースとのことなので、期待しているところです。ゲルダー先生にはもう少し長生きしていただいて、決定版をリリースしていただきたいものです。