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スティーブン・イッサーリスのサン=サーンス集で決まり

2009年08月20日 | Music

そもそもサン=サーンスが好きということもあって、この盤は愛聴盤の一つ。特に1曲目の<チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33>は、マイケル・ティルソン・トーマス指揮のロンドン交響楽団という、これまた僕がご贔屓にしている指揮者とオケをバックにイッサーリスが弾いているというだけで、つい嬉しくなって購入してしまった盤。
またこの盤のこの1曲目について言えば、オーディオ的に素晴らしいということもある。チェロ自体の音という点では、「シューマン集」や「リスト集」の方が僕は好きなのだが、このオケの音の鮮やかさ、粒立ち、音場感(左右、奥行きともに秀逸)といったオーディオ的快感度がとても高い仕上がりにノックアウトされたわけだ。
実際、この盤を我が家&試聴会でかけてみると「いいねぇ、これ!」と言った人は多数に及ぶ。何人もの方にお勧めした。そして好評である。ましてや現在HMVで購入しても、1000円強であり、実にコストパフォーマンスのいい盤なのだ。
さて演奏なのだが、1曲目から絶好調の盤も2曲目の<チェロ協奏曲第2番ニ短調 作品119>になるとオケが北ドイツ放送交響楽団に変わり、指揮者もエッシェンバッハとなって、録音エンジニアも変わって、全く別と言って良いほど音質(響き)に違いがある。演奏は素晴らしい。もちろんこれも悪い音ではない。いや、相当いい部類の音なのだが、1曲目が良すぎる(凄すぎる)ので、どうも、音楽自体にのめり込めないというのが正直なところか。
3曲目はバイオリン、チェロと管弦楽の為の作品である<ミューズと詩人たち>。このところ他流試合が多いバイオリニスト(新しいところではリー・リトナー&デイブ・グルーシンの新作などに参加)のジョシュア・ベルとの競演だ。硬質なトーンで攻めまくるジョシュアと温もりのあるイッサーリスとの一騎打ち。とは言え、もちろん共演でもあるので、花火が散るというスタンスではない。ジョシュアのセンター左の定位とイッサーリスのセンター右の定位という常道録音だが、バックのオケの音がやや被り気味なのが、残念。もう少しソリスト2人の音が、ヌケてくれるともっと良くなる(鳴る)はずなのだが。
初CD化曲というオマケまである4曲目の<チェロと管弦楽の為の組曲>もなかなか凝った作りの曲で、サン=サーンスらしさが横溢した名曲。NDRオケのドイツ的響きがしっかり聴き取れるのも嬉しい限り。
最後はオルガン奏者フランシス・グリエールとのデュオで<祈り>。
そもそもサン=サーンスはオルガン奏者でもあるので、かゆいところに手が届くといった風情で作った作品。粛々と進行する(派手な所のない)曲だが、聴いている分には判らないのだがオルガン譜には隠れ技が多数あって、いわゆるプロ好きのする1曲。もう少し重低音が出る大型のオルガンで聴いてみたかったと言ってしまうと身も蓋もない話になるのだが・・・。


スティーブン・イッサーリスのリスト集を引き続き

2009年08月19日 | Music
基本的に全てピアノとチェロの為の演奏がズラリと並ぶ。その中にグリーグとルビンスタインの曲を挟んで仕上げた、いわゆるリスト曲集となっている。まぁ、リストの父親はチェロ奏者(アマチュア)だったという繋がりもあったりするのだが・・。
イッサーリスのアルバムというのは、基本的に○○集という作りになっているものが多いのはよく知られていて、私的には好感度大の作品作りである。
まず1曲目は、リストの<忘れられたロマンス>。アルバム・タイトルも同じだ。ピアノとチェロの為のと書いたが、実際にリストによって附された曲名は、”バイオリンとピアノの為の”と書かれている(括弧付きで「あるいはチェロとの」とも書かれている。なお、今回のリスト曲はすべてバイオリン絡みの曲だ)。3曲目と4曲目の<エレジー1番>と<同2番>ともに、かなりの哀愁感が横溢した名曲。さすがにリストだけあって、チェロは普通なのだが、ピアノは伴奏に回るところとピアノが前面に出てくるところがあって、各々聴き所が多い。それ以上にリストの変態チックなメロディー・ラインがかなり秀逸だ。
2曲目は<チェロ・ソナタ イ短調 Op.36>。これはグリーグが作った2曲あるチェロ・ソナタの2作目の方。チェロ奏者だった(アマチュア)兄に献呈されている曲。これはなかなかの名曲。グリーグというと「ペール・ギュント」や「ピアノ協奏曲」しか知らない僕には、なかなか刺激的かつ大胆な曲に聴こえた。
5曲目はあまりお馴染みでないロシアのピアニスト・作曲家であるアントン・ルビンスタインが作った<チェロ・ソナタ第1番 ニ長調 op.18>。2曲目のグリーグと甲乙付けがたい名曲・名演に仕上がっている。イッサーリスの選曲の勝利という感じ。
6曲目の<尼僧院の僧房>と7曲目の<悲しみのゴンドラ>は、小品として聴きやすく、かつ憂いを帯びたその旋律は、ピアノ曲しか知らない小生にとって、新たな驚きが随所にあった。
さて、肝心の音について最後に述べておこう。いわゆるチェロとピアノのデュオ作品群ゆえに「帯域が広い」という作りにはなっていない。中域重視の録音作品と言っても良いだろう。シューマン集との大きな違いは定位的にチェロを包み込む(とは言ってもピアノは後方にしっかりと定位)ように配置してあること。包み込むという音場は、実はスタジオでのマイク・セッティングと大いに関係がありそうだ。というのも今回はEMIスタジオ(ロンドン・アビーロード)で、天井は高そうだが、そんなにだだっ広いスタジオという感じには聴こえない。ピアノの直接音と間接音(壁からの反射エコー)の比率が間接音を重視している録音に仕上げられているので、余計に包み込んだ感じがするのだろう。実際、今回の収録曲は短調揃いゆえにこういうセッティングにしたのかも、と思わぬ詮索もしてしまうぐらいだ。全体も非常にシンプルかつ柔らかいトーンで統一されている。けして悪い録音ではないがオーディオ的快感が感じられるようなキレとコクがある作りにはなっていない。いわゆるナチュラルである。ピアノはスタインウェイなのだが、ECMレーベル的な透徹したピアノ音で、かつもう少し直接音を多めに仕上げてあれば、オーディオ的にも面白い録音になったかも・・・。ちなみにイッサーリスの銘器ストラディヴァリウス+ガット弦の音は、涙、涙の美音の連続で、文句の付けようがありません。ハイ。

スティーブン・イッサーリスのシューマン集から聴いて行こう

2009年08月18日 | Music
1曲目は<チェロ協奏曲 イ短調 op.129>。ロベルト・シューマンの1850年の作品。なかなかの名曲。4トラックに分かれているものの、本来は全1曲という形で演奏されるのが普通とモノの本には書かれてはいる。ハイドンのチェロ協奏曲に、とても似ているように感じたのは私だけなのだろうか。
バックのオケはドイツ・カンマーフィルハーモニー。1987年からプロとして活動し始めたオケだが、正直可もなく不可もなしというところ。指揮はクリストフ・エッシェンバッハ。後述の曲ではお得意のピアノもしっかりと演奏してくれている。
さて、このチェロ協奏曲だが、オーディオ的にはどうなんでしょうという感じだ。この曲に限ってだが、左右の音場が狭く響く。楽団員同士が肩を寄せ合って演奏しているように聴こえてしまう。イッサリースのガット弦の響きのように中域の浸透力のある録音は素晴らしく、嫌いではないのだが(いかにもRCAレッドシール的な音かと思う)、それにしても音を聴いているだけで、こちらの肩身も狭くなるという感じが拭えない。
一転して2曲目はドイツの作曲家でクララ・シューマンの異父弟であるヴォルデマル・バルギール(Woldemar Bargiel)が作曲したチェロと管弦楽のための<アダージョ ト長調>を取り上げている。そんなシューマン繋がりのある曲だが、これが美しくかつ名曲だと思う。ただし僕にはどうしてもサン=サーンスの<序奏とロンド・カプリチオーソ>がちらつく。ほぼ同じ時代の作品だけに果たしてどちらかがパクリであるのか、偶然なのか。しかしこのトラックの音は素晴らしい。1曲目と同じ時の収録なのだが、別物の素晴らしさがある。
3曲目は、<幻想小曲集 op.73(クラリネットとピアノの為の)>、4曲目は<アダージョとアレグロ op.70(ホルンとピアノの為の)>、5曲目は<チェロとピアノのための民謡風の5つの小品 op.102>で、いずれもエッシェンバッハがピアノ伴奏。これは別項でも書くつもりのピアノのスティーヴン・ハフとの「リスト、グリーグ集」と似た音質の仕上げで、演奏的にもエッシェンバッハとハフと比べたら可哀想というのが結論(ハフの巧さを実感、エッシェンバッハも若い時は・・・)。この3曲での楽器間定位は良く、やや大きめのピアノがセンターから右の奥に定位し、その前でイッサーリスが弾くという構図は、よくあるものだが、音像の安定度が抜群だ。また極端にチェロの音像が大きくならないのは、スピーカーのセッティングが上手く行っている左証で、このトラックを聴いてチェロがベース並の音像になってしまったら、セッティングを追い込んでいったほうがいいかもしれない。
6曲目の<ミサ曲 ハ短調 作品147>は、シューマンが作曲したミサ曲の中のオッフェルトリウム(Offertorium)からのアダプテーション。このトラックは、オルガンとチェロのソロの先導でソプラノ独唱が「尊く美しき御身のマリア……」と歌い始めるマリア賛歌でもあるのだが、オルガンの左手のラインとチェロのラインが同じ音階(ユニゾン)で弾いているところが非常に多いので、別にチェロが無くても良いじゃんという部分もある。なお、ここでのオルガンの収音は、ある意味ステレオのチェックには好適。曲が始まる前のオルガンの空気ノイズが聴こえるか、重低音が入っていないように聴こえて実は入っているのが聴こえるとか、そしてソプラノ歌手の声が天井から聴こえてくるかと、チェック・ネタには事欠かない。これら全てに「OK、素晴らしい」と聴こえれば、貴方のセッティングはパーフェクト。というのも、これをやって詰めた後に1曲目を聴くと、拙宅では全く別物に聴こえました・・・。全トラックがデジタル録音なのだが、非常に暖かいアナログ的録音であることも好印象。
なお、17トラック目(7曲目)は、なんとサイレント・トラック。3分間全くの無音トラック(?)。信じられないです。また最後の8曲目は1曲目のカデンツァとエンディングが違うものを収録している。うーーん、正直大きな違いが一聴して判る方は、クラシック通でしょうねぇ。私、全くわかりません。ハイ。