このライブの売りは、以前にも書いたのだが、ライブ料金+αで、当日のライブ盤が送付されてくるというシステム。これは、音楽好き、オーディオ好きには堪らないやり方で、ライブ料金と実際に手にするCDの値段を足し算すると驚くほど「超格安」なのである。
こういうコンセプトでライブ盤を手にするのは、色々な意味でお楽しみが多い。実際のライブと出来上がった盤との演奏や音の違いが楽しめるのだから、本当にいいシステムだと思う。
さて、では実際どうなのかなのだが、まずは大きく期待を上回る出来であると断言してしまおう。正直に言えば、そんなに期待していなかったことも事実だ。演奏自体は素晴らしかった。しかし会場で聴いた音は、お世辞にも「最高」ではなかったのだ。ゆえに演奏の良さもこのCDに収録されているものの8割ぐらいにしか感じ取れなかった。
ところがである。これがとてもいいのだ。4曲目から7曲目の日本の四季4部作の出来がライブ以上にとてもいい。リハーモナイズ、あるいは編曲の勝利といっていいもので、クリスチャンのミュージシャンとしてのクレバーな部分が開花している仕上がりだ。通常この手の日本の曲をアレンジすると、なぜか中国的なニュアンスが大溢するのが、ここでの編曲は、原曲の持つ滋味深い旋律を殺さないで新たな高みに昇華しているところが、まさに聴き手(日本人)の心を打つ。この4曲はメンバー間で事前に相当揉んで来たと思われる。
さて、1曲目のこのバンドの十八番である<トゥー・クロース・フォー・コンフォート>からこのトリオは快調だ。この仕掛けタップリのこの曲を何事もないかのように演奏しきること自体が驚異だが、聴き手の僕らを驚かせる1曲でもある。ピアノ・ソロでもある8曲目の<ステート・オブ・マインド>は、限りなく美しいクリスチャンのピアノをじっくり堪能出来るし11曲目のボーナス曲である<マディーズ・スカイズ>まで、緊張感とリラクゼーションの狭間で聴き手をトランス状態にしてくれる力作だ。うーん、素晴らしい。それにしてもクリスチャンのピアノ奏者としての力量は凄い。超絶技巧であるプレイをしているんだけれど、こうすんなりプレイされるとその技巧に全く気がつかないです。ハイ。
さて、音だ。録音は常磐さんで、あの機器(失礼)から録られた音とは思えない素晴らしさ。特にあの“ヤマハ”のピアノからこの音が聴けるとは思いもよらなかったので、これはこの作品の大きなアドバンテージだ。ベースもドラムスもライブで聴いた時の音そのもので、たぶんライブを聴いた方なら十二分にこの音に納得のいくものかと思う。どちらのマイクもその楽器以外の音をやや拾っているのだが・・・。
実はマスタリングを米国やるよ!と言っていた意味もこの辺にあると僕は思っている。ミキシングを担当したのは横倉裕である。昔からの(80年代以降のフュージョン好きの)ファンなら、「え?もしかしてあのキーボード、アレンジャーの?」というはず。そのとおりである。近年はミキシング・エンジニアとしての方が忙しい。クリスチャンとの付き合いは、たぶんフローラ・プリム・バンド時代からだと思う。なおクリスチャンの『スタイン&マイン』でも彼が担当していたような記憶がある。いずれにしてもエンジニア、ミュージシャン、ミキシング、マスタリングの勝利と言うべき作品として、広くジャズ・ファンの方にオススメしたいピアノ・トリオの秀作だ。