引き続き、「地域猫」の「創始者」である、横浜市保健所職員で獣医師の黒澤泰氏は、こう語った。
地域猫活動の役割分担。誰がやるのか。やるのは住んでいる「住民」です。そこがどうも勘違いされて、「ボランティアさんがやるんじゃないの?」とか、「好きな人が集まってやりゃあ、いいんだよ」という声が結構あるんですよ。そうじゃない。
今、自分が住んでいる町、地域が、猫で困っている、大変なことになっている、じゃあ、何とかしましょうよ、という動きなんです。住民が中心となって動かなきゃ。
動いた中で、役割分担、何をするか。エサをあげる人もいる、掃除する人もいる、広報活動していく人もいる、手術をする、お金を集める。色々な人が、それぞれ、できることをやっていきましょうよ。
決して一人や二人でできる問題ではないんです。それをやっていきましょう。
じゃあ、「行政」は何をやるのか。行政には、得意分野というのがある。それは調整能力であり、広報活動。
調整っていうのは、住民間のもめ事ありますよね、あるいは、ボランティアを上手く調整していく。いわゆる「コーディネーター役」です。それから広報活動。これは、地域猫活動は、ノラ猫問題を、ひとつの地域活動として捉えて解決していく一つの方法ですよ、とアピールする。これは行政の仕事です。
私が最初、絶対できないな、と思っていたのは、「不妊去勢手術の助成」。当時は金出さない、と思ったんだけど、今ほとんど出していますね。どれだけノラ猫を増やさないか。そのために不妊去勢手術がどれだけ大事か、というのは、わかってきた。だから補助をする。しかし、全額負担してあげたいのだけども、なかなかそこまではいかないのが、現状です。
それから「ボランティア」さん。この人たちというのは、猫について非常に知識があります。それから行動力もある。非常に大事にしたい。ただ、あまりにも行動が進み過ぎちゃって、地域住民に入り込んでしまう。全部やり過ぎちゃうと、住民がみんな手を引いちゃう。最近、ちょっとそういうボランティアが増えているなあ、と思うんですけども、ボランティアさんはそこまでやらなくてもいい。困った住民たちにまず、やり方を教えてあげる。それから、不妊手術のための捕獲の手伝いをしてあげる。あるいは、「こういうふうにやったらどうですか」と教えてあげる。そういうアドバイザーです。そういう位置づけでいくと、非常にいいんですけど、どうも入っちゃって、自分がエサあげちゃっている、そこまでいっちゃう。それで、どんどんエリアが増えていき、自分で首を締めちゃっている人が多いんで、もうちょっと楽にやっていいと思うんですね。気楽にできる。
それから、「動物病院」。とにかく、増やさない、というのが大前提ですから、不妊去勢手術、これには欠かせません。
磯子で始めたときもそうですけども、ノラ猫だろうが、飼い猫だろうが、手術は同じなんです。やり方だっておんなじですよ。料金は同じです。きまってますよね。当時、当たり前に、「三万円位、とります」と言われました。
でも、ノラ猫に三万円出す人、いませんよね。それは違うだろ、ということで、色々話をしていくなかで、「ノラ猫嫌われたら、先生だって商売にならないだろうし、まず自分の住んでいる病院のある町からやってくれませんか」ということを色々とお願いして、今ではかなり料金的にも協力してくれる先生、増えてきています。それはここ二、三年の話だと思うんです。十七年前は、とにかく三万は三万でした。
(続く)
写真は、講演で使用した資料。