2011年9月23日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「朝刊ピックアップ」で記事
「新聞が報じない『台風直撃で帰宅難民』の裏側」
を企画、取材、執筆しました。
キーワードは「メディアリテラシー」…。
台風15号が首都圏を直撃した9月22日の各紙朝刊は、都心に「帰宅難民」が溢れかえっていたと報じている。見出しは、新宿や渋谷の駅で電車を待つ人々の写真入りで、「『3・11』ほうふつ交通網ストップ 都心また〝帰宅難民〟」(産経新聞)、「駅に足止め/急きょホテルへ『仕方ない』ため息」(日本経済新聞)、「『帰れない』ぐったり」(東京新聞)、「鉄道 夕方に相次ぎ運休 帰宅難民あふれ」(毎日新聞)、「駅に人あふれる 台風15号 徒歩で帰宅の人も」(読売新聞)、「豪雨 動けぬ首都圏、帰宅者、駅で立ち往生」(朝日新聞)といった具合だ。
記事本文によると、台風15号の影響で、首都圏全域の鉄道が夕方から夜にかけて全面的にストップ。混乱の中、駅で待つ人の声をこんなふうに記している。
「『すべて運転見合わせでどうしようもない。とんだ誕生日です』とがっくり」(45歳、男性、八王子市の会社員、東京新聞)、「3月11日に、歩いて帰宅したのを思い出した。今回は雨も風もひどいので、我慢して待ちます」(57歳、女性、世田谷区の会社員、読売新聞)、「1時間以上も待っているけど、列車が全く動かない。タクシーでの帰宅も考えたけど、順番待ちの列が長くて諦めた」(34歳、男性、中野区の会社員、朝日新聞)、「八重洲口などのタクシー乗り場には、電車をあらめた人々の長蛇の列が。仕事を終えて千葉県浦安市に帰る途中だった同市の30代の男性会社員は『あと何時間かかるのか。天災なので仕方ないとはいえ、うんざり』と疲れ切った様子だった」(毎日新聞)など。
このように台風通過中は、首都圏の交通網は完全に麻痺していた。
だが、台風が過ぎ去った後、どうなったのだろうか?
新聞にはそのことがほとんど報じられていない。
そこで、台風が関東を通過した翌22日、都内に路線を持つ各私鉄の広報担当者に「台風通過後の運行状況はどうだったのか」を聞いた。
まず、東京メトロ(営団地下鉄)は「22時には全線で運転再開しました」と回答。都営地下鉄は「地下鉄4路線と都電、舎人ライナーを含め、21時40分には全線運転再開しました」。
東武鉄道は「普通電車は、全線、風が強い時は止まり、風が弱まると再開の繰り返しで、運休はありませんでした。帰宅困難者もなく、終電を迎えました」という。
西武鉄道は「山口線は線路の倒木の影響で、西武有楽町線は台風の影響で池袋線のダイヤが乱れたため、それぞれ終日運休となりました。その他の路線は、遅くとも23時34分には、運転再開しました」と語る。
ほかの私鉄も、京成電鉄が21時、京王電鉄が20時15分頃、小田急、東急電鉄が21時45分には全線運転再開していたという。
そして、東日本大震災直後、早々と運休を決定して批難を浴びたJR東日本はこう語る。「首都圏の路線は、青梅線の青梅から奥多摩間が終日運休。それと、烏山線が終日運休しました。それ以外は随時再開しました。例えば、京浜東北は19時51分、埼京線は21時5分、総武線は21時45分には再開しました。ダイヤの乱れで通常の終電時間以後も運転しました」。
このように都内の鉄道各社は、台風通過直後、迅速に対応して、人々を帰宅の途につけていたという。もし他国の首都で同じような災害に直面した場合、ここまで整然と復旧できなかったのではないか。ひいきの引き倒しはよくないが、今回の鉄道各社の台風対応は、誇りに思っていいかもしれない。
それを、新聞は一言も書かず、あたかも深夜まで電車が動かず帰宅できなかったように書いていた。こういう報道を平気でしていることを知ることが、メディアリテラシーといえよう。