ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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急増する〝児童虐待〟防止シンポでの『実践的提言』とは?

2012年03月26日 | Weblog

 児童虐待がやまない。育児放棄(ネグレクト)、暴行といった陰惨な事件は後を絶たない。しかも虐待急増を示す数字もある。厚労省によると、昨年度の全国の児童相談所の「児童虐待相談の対応件数」は、55,154件(前年比プラス10,943件)と初の5万件超えとなった。

 そうした中、「子ども虐待防止に向けた取組の現状と課題」と題するシンポジウムが1月28日、都内であった。主催は、特定非営利活動法人児童虐待防止全国ネットワークと財団法人こども未来財団。現地へ向かった。

 会場は大学生や社会人とみられる男女約100人が参加した。年代は20、30代が中心。

 シンポジウムでは、4人の識者が話した。なかでもわかりやすかったのは次の2人の話だ。まず、国立保健医療科学院生涯健康研究部の中板育美・主任研究官の話。中板氏は「子どもを虐待するのは、両親や祖父母、恋人、里親を含む養父母などが多いです」といい、虐待対策についてこう語った。

 「『予防に勝る戦略はない』。そのために地域の支えが必要です。住民は“見守り人”として支える必要があります。具体的には、住民自らができることをやる『自助』。周囲と協力し合ってできることをする『共助』。行政や専門家が果たすべきことをする『公助』。こうした“切れ目のない子育て支援”が必要」と訴えた。

 中板氏は最後にこう話した。「虐待されるために生まれてきた子どもなど、この世に一人もいません。心のままに笑い、泣き、甘える。そんな気持ちの表現さえ奪われ、心も体も傷ついている子どもたちが、この瞬間もいます。子どもたちの声なき声に耳を傾けてください。虐待から救っていけるのは、親であり、私たち社会です」。

 次に、東京都福祉保健局の西尾寿一・次世代育成支援担当課長の話。西尾氏は、いくつかの自治体の取り組みを紹介した。なかでも“切れ目のない支援”を体現しているのは東京都多摩市という。同市は、満6歳の就学前までの子育てサービスを緻密に行っている。

 例えば、妊娠5カ月で「つわりで大変なとき」は、家事手伝いをする「子ども家庭サポーター派遣」(2時間1,000円)。妊娠10カ月で「出産のため入院し、上の子どもを預かってれないかしら」というときは、身の回りの世話をする「子どもショートステイ」(子ども一人につき一泊3,000円)。生後1カ月で、「誰も助けてくれる人がいない」というときや、生後3カ月で「首がすわるかな。離乳は?? どうしたらいいの~??」というときには、「子育てスタート支援事業」「赤ちゃん訪問事業」といった支援もあるという。

 また、生後1年ほどで「病院に行きたくて、ちょっと預かってもらえるところはないかしら?」といったときなどは、「リフレッシュ一時保育事業」(1時間当たり700円)。さらに、満2歳位になり、「『イヤイヤ!』ばっかり言うので、うまくかかわれなくて、ついつい大声で叱っちゃうんです」というときには、「子育て相談センターの相談事業」などがある。

 また東京都豊島区では、「ウエルカム赤ちゃん」という事業があるという。これは初めて出産を迎える家庭同士が交流し、絵本のプレゼントなどの支援をするというもの。参加者からは「先輩ママや赤ちゃんとのふれあいを通じて、子育てについて具体的なイメージを持つことができた」といった感想が寄せられているという。

 また、「1歳のバースデイ訪問相談」といって、誕生日に合わせて訪問し、絵本をプレゼントする事業も行っている。ちょうど1歳頃からはじまる「いやいや期」で、子育てが難しくなるこの時期に、訪問相談員が一緒になって考えていくことで、親子の孤立化、児童虐待を防ぐことが期待されているという。

 さらに東京都港区では、「あい・ぽーと子育てサポート事業」という、派遣型一時保育を行っている。料金は1時間当たり通常900円。(21時~24時1600円)。宿泊は一泊5000円。

 これが「使い勝手がいい」と好評で、利用者は約1300人に上るという。しかも、驚いたことに支援スタッフは500人もいる。西尾氏は語る。「すごいのは、支援会員のスキル、モチベーション。ここの代表理事兼施設長は、恵泉女学園大学・大学院教授の大日向雅美氏。支援スタッフは、ここで65時間の講義、27時間の実習を、しっかりこなさなければならない。大変なので支援スタッフは、そんなにいないのでは、と思っていたら、なんと『このスキルアップが非常に励みになる』ということで、支援スタッフは年々増えている。これはすごいことです。そして、スキルに応じてレベル(級)がアップするので、支援スタッフのやる気がますます上がる。そうした工夫により、住民のパワーを引き出しながら、きめ細かなサービスをしている。これは素晴らしいと思う」。

 こうした地域の実情に応じた様々な支援サービスの充実が、結果的に、児童虐待の未然防止、早期発見につながっている。

 最後に西尾氏はこう語った。「根幹は、『とにかく自分の市、区の子どもたちを、自分たちで守るんだ』という意識。それと、近所の人としっかり挨拶できる関係をきずくこと。それが虐待防止の第一歩となる」。

 未来の宝である子どもを虐待から護るのは、もはや親の責任であるだけではなく、社会の責務といないだろうか。両氏の話は参考になりそうだ。


 

 2011年2月5日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「急増する〝児童虐待〟防止シンポでの『実践的提言』とは?」
 
を企画、取材、執筆しました。 


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