「五島椿物産館」から40分ほどはしると、進行方向右手に玉之浦湾が見えてきました。
見えているのは玉之浦湾で最も奥の、笹海と呼ばれる場所のようです。
鏡のような水面に、まるで秘境の湖にでも来ているかような錯覚を覚えました。
4、5年前に九州の梅を巡ったときに訪ねた、天草下島の早浦もこんなだったことを思い出しました。
天草も五島も「伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録されましたが、地形的に共通するものがあるように思います。
笹海から10分ほどで井持浦協会に到着しました。
この辺りは、長崎の大村藩からのキリシタンが潜伏し、五島藩が塩造りの竈場で働せていた地区だそうです。
井持浦教会は1897年(明治)30年に創建されましたが、1899年に、五島列島司牧のペルー神父が信徒に呼びかけ、この教会に島内の奇岩・珍石を集め日本初のルルドを作り、その傍らに井戸を掘って、聖地ルルドの聖泉の水を混入したそうです。
この霊水は病を治すとされ、全国のクリスチャンの聖地となっているそうです。
ルルドとは、フランスのピレーネ山脈の麓にある村の名です。
1858年、ルルド村の14歳の少女が近くの洞窟で聖母マリアと出会い、聖母から示された泉を人々が飲むと、不治の病が治る奇跡が次々と起こり、ルルドはカトリック最大の聖地となったそうです。
井持浦協会の裏手へまわると、石を積み上げた場所にマリア像が飾られ、石を積んだ場所の横に水道の蛇口があって、それをひねると聖水が出てきました。
その横の説明文の末尾に、「このルルドにも本物のルルドの水を混入してあるので、マリア様への信仰をもってお飲みくださいと」記されていました。
井持浦協会を出て玉之浦のアコウに向かいました。
玉之浦のアコウは長崎県五島市 玉之浦町玉之浦小浦の大山祇神社の境内にあります。
アコウは中国南部から台湾、南西諸島、九州、四国、本州の団地に分布するクワ科の常緑高木で、このアコウは昭和27年に県の天然記念物に指定されています。
主根は目通し10.3m、その樹上の3.3mのところから周囲6mもある支柱根が地中に降ります。そして、その支柱根と主幹の股下を参道が通っています。
玉之浦のアコウは、見る者を驚かせる、複雑怪奇な樹形を見せていました。
ほぼ予定通りにスケジュールをこなし、のんびりと玉之浦湾沿いの道をはしっていると、小さな入り江の集落に、白い尖塔に十字架をかざした小さな教会に気付きました。
近づいて行くと、玉之浦教会の看板を掲げていました。
いつかテレビで、北欧の小さな漁村の光景を見た記憶がありますが、その時の光景に重なる、こんなにメルヘンチックな風景に日本で巡り合えるのは五島列島だけのことかもしれません。
そしてもう一つ、同じ集落の背後に小さな神社を見つけました。
昨日訪ねた久賀島では、島の人々の20%程度がクリスチャンだそうです。
多分この辺りも、全ての人がクリスチャンという訳ではないでしょう。
そんな小さな集落で、夫々の人々が肩寄せ合うように営む平和な暮らしを、玉之浦教会と玉之浦神社が静かに語っているような気がしました。