砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

くるり「THE WORLD IS MINE」

2018-03-31 10:45:14 | 日本の音楽

年度末、どさくさに紛れて更新します。
今日は仕事が終わったあとに勉強会があって、それから花見が待っています。
今年の桜は思っていたよりもあっという間に開花しました。
来週にも花見やるんだけどこのぶんだと木を眺めるだけになりそう。
それも悪くないか、普段木を見ながら酒を飲むこともないので。



さて今日は春に聞きたいアルバム、くるりの4枚目『THE WORLD IS MINE』です。
地味だけど好きなんだよな、このアルバムが。
というわけでパパっと紹介いたします、花見が待ってる!

~今作までのあらすじ!!~
前作『TEAM ROCK』を制作するなかで、メンバー間の軋轢が顕著になったくるり!!
特にフロントマンの岸田とドラムの森の関係はひえひえに…。
その打開に、岸田はみんなの大学の先輩である大村達身(Gt)をバンドに誘い調和を目論む。
大村が加入して、なんとくるりは4人組になったのである!!
関係はわずかに修復されたが、根本的な問題解決には至っていない…。
果たして、この状態がどこまで続くのか~!?
次回!「森、脱退ッ!!!」乞うご期待!!


このアルバムについて。
好きなんだけど、とても難しいんです。何が難しいかって、このアルバムの良さを言葉にするのがです。今週ずっと聴いていたんだけど、それでもこの作品の魅力を伝えられる自信がない。まずそれはどうしてかっていうところから、考えてみましょう。

①ぼわぼわしている
なんじゃそりゃ、って感じもしますが。
要するに曲の輪郭があいまいなものが多いのです。2nd『図鑑』はもちろんのこと、3rd『TEAM ROCK』もそれなりに尖った曲がありました(図鑑は尖りすぎていた気もする)。一方今作は曲のイントロ、アウトロのインパクトは薄めだし、アルバムの終わり方も歌が終わって、波の音が聞こえてきて、あれ、終わった...?って感じなんで。だからなかなか思いだせない曲とかもあります、でもアルバム全体のバランスはよく仕上がっている。煮込みすぎて肉の溶けたスープ、みたいな感じでしょうか。肉そのものがうまい!とは言えないけど、あれなんか、何入っているかよくわかんない、けど巡り巡ってうまい...みたいな感じです。自分でも何言っているかよくわかりませんが。

②モノトーンで冷たい曲が多い
#1「GUILTY」や#3「GO BACK TO CHINA」では盛り上がるし、途中いきなりバグパイプが聞こえる曲もあるけど、「静かの海」とか「ARMY」「アマデウス」とか、あいだに入る曲によってかなりトーンダウンします。後半「水中モーター」「THANK YOU MY GIRL」でもテンション上がりますが、それも最後の「PEARL RIVER」で沈められていく。狙って作ったんじゃないかというくらいに、聞き手をダウンさせるベクトルに向ける曲が多い。それから歌詞も、全体的に意味が良くわからない、断片的な言葉の使い方をしています(「MIND THE GAP」とか特に)。情感を伴っているのは「男の子と女の子」「THANK YOU MY GIRL」くらいではないでしょうか。そういったこともあって、いわゆるメッセージ性みたいなのを聴き手が感じ取ることが難しい。あえて聴き手との距離をとっているようでもある。

そういった特徴が、この作品の理解を難しく、そして面白くもしているのかなと思います。
わけのわからないエネルギーやリビドーが爆発した『図鑑』も大好きですが、浮足立ってしまう春先には、これくらいぼわぼわしたアルバムが心地よいのです。


好きな曲紹介。
#1「GUILTY」
罪悪感、というタイトル。なんか始まってはすぐ制止がかかり、後ろからポッポッポッポッ...という木魚のような電子音が聞こえてきます。ギターが聞こえてきたかと思うと「いっそ悪いことやって 捕まってしまおうかな」と後ろ向きで投げやりな歌詞。途中で急に盛り上がるものの、やがて再びトーンダウンし、何事もなかったかのように元に戻ります。浮き沈みが激しく、春の嵐を想起させる曲。


#3「GO BACK TO CHINE」
とてもノリのよい曲、絡み合うギターに、絡み合うリズム隊。ハイハットのアクセントの位置が気持ちいいですね。岸田のギターの音も、かすんでいるようであり良く抜けているようでもあり。映像はライブ盤。ライブ盤だとクリストファーのドラムが前に出すぎて違和感。

.Go back to China .Quruli



#4「WORLD'S END SUPERNOVA」
地味なシングル曲。でもよくよく聴いているとくせになるというか、飽きのこないスルメ曲。Cメロが好き。

いつまでも このままでいい
それは嘘 間違ってる


この辺は岸田の本音のような気もする。あと「重なる夢 重ねる嘘 重なる愛 重なるリズム(リィーズームー)」の部分も好き。こちらもライブの映像。

くるり - ワールズエンド・スーパーノヴァ <武道館2004>


#10「男の子と女の子」
名曲。サビのコーラスが不思議、浮遊感がある。

女の子はわがままだ よくわからない生き物だ
でも優しくしてしまう 何も返ってこないのに


シンプルだけど実に良い歌詞。実際その通りなんだけど「よくわからない生き物」と表現するあたりも憎い。
昔はそんなにピンときませんでしたが、年を取ってから、こういった何気ない歌詞がウッと胸に来るようになりました。
しかし年をとっても女の子がよくわからないのは変わらないぜ、そんな話はどうでもいいか。

くるり - 男の子と女の子


#11「THANK YOU MY GIRL」
アルバムで一番好きな曲。ギターの音、ヴォーカル、コーラス、様々な音が重なっていて、そのせいかすごく温かみがあります、聴いていると安心する。余談ですが、前の曲では女の子に対して「よくわからない生き物」と歌っていたのに、この曲ではひたすら感謝をしている。いったい何があったのでしょうか。まあいいか。

こうして並べてみると、結構好きな曲が多いんだよな。本人たちがどの程度意識しているか不明ですが、冷たい手触りの曲があいだに挟まることによって、#10や#11の温かさがより引き立つようにも思います。この作品はイギリスのグラスゴーでレコーディングされましたが、作業はかなり難航したらしいです。その甲斐があってかわからないけれど、彼らの作品のなかではとても好きなアルバムです。


このアルバムは高校生の時に買って、最初は「えっ地味...」と思ってそれからしばらく聞いていませんでした。でも大学生になって改めて聴いて「あれれれ、こんな良かったっけ!!!?????」と衝撃を受けた記憶があります。それがちょうど春先の、風が強くて桜の花が散っている頃でした。そのせいか、毎年春になると聴きたくなります。今年もまた、ぼわぼわした春がやってきたのです。

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