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Singer must die

2009-02-20 | 音楽
前・後編に分ければよかった; 非常に長いですのでお手すきのときにおつきあい下さい。


        ・・・・・・・・・・


ipod nano の中で久しく聴いていない音楽は、と見ていたら、あった。
ジェニファー・ウォーンズの“Famous Blue Raincoat”

彼女を初めて知ったのはむかーしむかし。
「愛と青春の旅立ち」の主題歌をジョー・コッカーとのデュエットで歌っていた。
いい歌だと思ったけど、別にほしいとまでは思わなかった。

で、このアルバムはそのあとに出ていたらしいんだけど、
日本のドラマの主題歌にある曲が使われるまでは全く興味がなかった。

2002年、ユースケ・サンタマリア主演で日本に翻案された
ドラマ「アルジャーノンに花束を」のテーマに使われていた“Song of Bernadette”
これはルルドの聖母の奇跡から泉を見つけた少女、バーナデットの物語を
根底に歌にしたもので、偶然、ジェニファーの本名もバーナデットだとか。
歌詞がものすごく心に響いて、つい買ってしまったもの。
これについては語りだしたらきりがないのでまたに譲るとして。

“Singer must die” という、美しいコーラスワークの、
アカペラの曲があとのほうに入っていて、これに教えられたことがある。

実は「酉の市」を初めて録音したとき、私は緊急の開腹手術をうけてまだ2ヶ月だった。
開腹手術なんて生まれて初めてだし、レコード会社での録音も生まれて初めてだし。
諸事情で延期するわけにいかなくて。

けれど、手術が身体にどれほどのダメージを与えるものなのか、
自分で自分の響きを探し、声を開発してきた私には、それを教えてくれる人はいなかった。
声帯にも。手術の際は全身麻酔をし、気道を確保するために声帯に管を通す。
声帯に充分気をつけてほしいとオペ前に懇願したためか、
幸いダメージはない、と退院して一日で行った専門医で言われてほっとしたけれど。
普段何も触れない場所に長時間固いものが触れるわけだから、風邪状態には変わりない。
しかしそれよりも手術後の腹部が安定するまでに長い時間がかかる。
皮膚や、筋肉を分け入るため皮下にも麻痺が残る。
完全になくなるまで2年くらいも残っていたろうか。
全身麻酔の副作用も。身体全体のバランスも。
全身にすさまじいストレスがかかるということが想像できなかった。
しかし、ヴォーカリストでなければここまでそれが影響することも多分なかったろう。
(レコーディングの最中に思わぬ差し金が入ったショックも実はあるのだが)

これらの出来事が重なって。
ミックスダウンされたものを聴いたときのショックと
聴いていての居心地の悪さ、身もだえするほどの屈辱は
筆舌に尽くしがたいものだった。
一般の方の耳にはそこまでの違いはわからないのかもしれない。
身内に配った範囲では歌詞のせいか評判はよかった。
けれど、これは私の歌ではない、本気でそう思った。
自分がなぜこんなに稚拙に歌ってしまったかの理由が全くわからなかった。

そしてひどくショックなことが翌日にまたひとつ。
翌々日には、空にあまりに美しい彩雲を見て、
これらの出来事にはきっと何かの意味があると信じた。

その理由がレコーディング1週間後にわかることとなる。
ショックから立ち直った頃、Famous Blue Raincoat を久々に聞いた。
癒しがたい心の傷を癒したくてSong of Bernadette の世界に浸りたかったのかもしれない。
洋楽の歌詞はよほど好きな曲でなければ聞き流すことも多い。
それが久々に聞いていて、Singer must die の歌詞が初めて耳に飛び込んできたのだ。
法廷は静かで・・・に始まるこの歌詞が。

「歌い手はその声に嘘をついたかどで死ななければならない」
                    (あえて直訳してます)

やさしい雷(というものがあるなら)に打たれたような衝撃だった。
プレッシャーと慣れない事象が重なり、体がまだリカバーしていなかったとはいえ
本番強いと謂われる私なのに
普通に開いていた引き出しが開かなかったことに気づかなかったのだ。
結果的に私は発声の選択を誤った(自分の声に嘘をついた)のである。
演劇時代に、自分の本当の声を使うことがどれほど大切かは
さんざん学んできたはずなのに。愕然とした。

しかし、とりあえずはデモがここにあると気づいた時点から、
私は可能な限り動いた。なんとなればもう一度録り直せばよい、
そのチャンスはきっと来ると信じて。

その数ヵ月後、大きな祭りで採用されることになり、朝日新聞さんに
同日の高校野球選抜代表決定より大きいカラー写真記事で取り上げていただき
汚名挽回と再レコーディングの機会を得た。
今度はもう身体もだいぶ元にもどっていたし、充分な調整時間もとれていたので
自分の声に嘘をつかずに済んだ。その後の紆余曲折を経てCDを作っていただき
まがりなりにも私は歌うたいを名乗ることとなったのだけれど。

だからこのアルバムは非常に思い出深い。
大切なことをいくつも教えてくれた。
もしもチャンスがあったら聴いてみていただきたい。
美しく含蓄があり心に響く歌詞は全て
カナダの詩人で歌手のレナード・コーエンが書いている。
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