アナウンサー「今日は予定を変更して東京ドームより、みゆみゆVSピリンの中継です。
ピッチャーみゆみゆが投げる12球のうち1球でもヒットにすれば
バッターの勝ちという変則ルールです。
今夜の解説は櫂(かい)よしひろさんですが、今日の見所はどの辺に?」
櫂「結果は分かっているので、みゆみゆのピッチングだけですね、
見所と言っても…」
ア「なるほど。バッターボックスにピリンが向かいます。
おー、みゆみゆに対して深々とお辞儀をしています」
櫂「尊敬するピッチャーの1番手に挙げていますからね」
ア「今回は投げる球種が前発表となっています。
それでも打ち返せるわけがないということでしょうか?
注目の第1球は<桜ららら>。関係者以外誰も知らない新球種です。
みゆみゆ振りかぶった…
…いや振りかぶらない、ソフトボールのように下から投げたっ。
高め一杯にストライク。ピリン驚いています」
櫂「いやぁ、こう来ましたか…。私も下手投げから来るとは思わなかった…」
ア「間髪を入れずに2球目。<ただ・愛のためにだけ>です。投げました。ファウル。
バットに当てるのが精一杯のようです。最後まで持ちますかねぇ?」
櫂「地に足が着いていないように見えますね」
ア「今度は<宙船>ですね。お、これなら打てるというバッターの表情です。
みゆみゆ投げた! バットが出た! ジャストミートか?
…しかしバットはまっ二つに折れ、ボールはピッチャー前へころり…」
櫂「まだまだセーブしていますね、
それでもバットをへし折るのですから恐ろしいピッチャーです」
ア「みゆみゆは余裕のほほえみです。ピリン、途中でギブアップするのか?
おや? ポケットから薬瓶を取り出し、ベンチに向かって水をくれと言っています。」
櫂「今の1球で頭の芯まで痛みが走ったようですね。大丈夫でしょうか?」
しかし、タイミングが合ってきたのか、薬が効いたのか、その後はファウルで粘る。
放送時間の関係で10球目へ飛ぶ。
ア「さすが団塊の世代ですねぇ。よろよろになりながらもボール食いついています。
10球目は<お月さまほしい>ですが、どんなボールなんでしょうか?」
櫂「私も初めて見るボールです。楽しみですよ」
ア「振りかぶって、投げた。バッターの胸元近くだ。ピリン、尻もちをつく」
櫂「今の球は凄いですね。3段階にスピードが乗りました。
バッターがニャオと叫んだように見えましたが?」
ア「そうでしたか? みゆみゆしか見ていませんでした。あはは。
汗一つかかずにみゆみゆ残り2球です。ラス前は<重き荷を負いて>ですね。
さぁ振りかぶった。投げたっ。ど真ん中だっ。ピリン呆然と見送る」
櫂「キャッチャーミットに収まったボールの音はズシンと言いましたねぇ。
かなり威力のあるボールだったのでしょう」
ア「さぁ、泣いても笑っても最後の1球。<ララバイSINGER>です。
ピッチャーとキャッチャー以外はすでに帰り支度をはじめています。
ピッチャー振りかぶった。
お、バッターの様子がおかしい。泣いているようです。
それにはおかまいなしにど真ん中だーっ。あらら、終わってしまいましたねぇ」
櫂「あっけない勝負でしたが、みゆみゆの球種の多さ、パワーには驚かされましたよ」
ア「あれ? バッターがマウンドへ向かっています。なにやら紙切れを出しました。
カメラさん、アップでお願いします。
なになに…へたくそな字で<あくしゅけん>と書いてあります。
手製のようですよ。あ、簡単に見破られたようで、すごすごと引き揚げてきました。
この男、かなり短絡的な思考回路のようですね。
みゆみゆはぺこりとお辞儀をしてマウンドを降ります。
いつもながら颯爽としていますねぇ、凛とした姿には心を打たれます。
さて、来年もこの対戦があるのでしょうか?」
櫂「対戦の可能性は高いですが、放送して良いのかどうかが問題ですね」
ア「確かに…。その時に改めて考えましょうか。お疲れさまでした」
櫂「お疲れ。いいのかなぁ、これで…クレームがつくかも…
」