三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

ロシアの独裁体制と西側諸国の「半民主制」

2024-01-08 15:31:12 | 国際政治
 前回、当ブログ2024.1.6「ロシアの偽の〝民主政体〟から学ぶ」で、プーチン・ロシアの独裁恐怖政治と対外膨張政策の実態について語った。今回はその続き。

 ロシアがこのように独裁的な侵略政策を正当化する現状に於いて、欧米や日本をはじめとする「民主主義」〔*公正な選挙、三権分立、言論・報道の自由など〕を標榜する国々はロシアの非民主性を批判し、自分たちの正当性を強調する。こうした批判の多くは的を射ているし、ウクライナ軍事侵略の不当性は揺るぐものではない。

 本来なら、ロシアのウクライナへの侵略を受けて、世界中の国々が一致団結してロシアに対し経済的・社会的制裁を加える必要があった。

 だが、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を侵略・占領〔*ドンバス地方も実質的に分離・占領〕した際も、G7(米国・日本・英国・フランス・ドイツ・カナダ・イタリア)など「民主主義」を謳う諸国は、ロシアに対し「骨抜きの経済制裁」を実行するだけでお茶を濁した(誤魔化した)。

 プーチンは、こうした弱腰姿勢を見てG7など西側「民主主義」諸国を侮(あなど)り、〈まだ行ける〉と判断し、より大胆かつ強気な姿勢を採る決意を固めたのだろう。

 日本の安倍晋三首相(当時)に至っては、ロシアによるクリミア侵略などを忘れたかのように、経済制裁を「骨抜き」にしただけでなく、〔ウラジミール=〕プーチン大統領と27回も友好的に首脳会談を行なった。「北方領土返還」という甘い餌に誘(おび)き寄せられたのだろう。安倍氏は2019年のプーチンとの会談では、「ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ている」と歯の浮くようなセリフまで吐いている。

当ブログ2022.3.27「シンゾーの素人「内交」がプーチンを増長させた」参照

 国際政治では、義理とか人情を(過度に)期待してはいけない。特にプーチンに対しては、そうした甘い考えは百害あって一利なしだ。プーチンは安倍政権の対応を受け、〈日本なんて、ちょろいもんだ〉とほくそ笑んだに違いない。結果的に、日本はロシアの策動に踊らされ、ロシアに対しても、国際社会にも、「ロシアのクリミア併合などを黙認している」ととられかねないメッセージを送ってしまった。

「民主主義国」と言われる諸国のこうした弱腰外交と「足並みの乱れ」が、プーチンをより増長させ、2022年2月24日以降のウクライナ全面侵略を招いたに違いない。

 本来であれば、2014年のクリミア侵略の段階で、「民主主義」諸国はプーチンの悪逆さ・危険性を深刻に捉え、一致団結して経済的・社会的制裁等を徹底的に行なうべきだった。

 ところが、「民主主義」諸国の特質だが〔*短期的には「弱み」だが、中長期的には「強み」にもなり得るが〕、制裁による経済的・資源的な反作用〔*国民の反発を含む〕を懸念する国が続出した。こうした流れは、2022年以降のウクライナ全面侵略の際にも再現している。

 他方で、プーチン・ロシアは言論・報道管制とフェイクニュース・茶番劇を織り交ぜ、かつ反対者らを弾圧することで、西側諸国ほどには民意に気を配る必要なく「特別軍事作戦」という名の軍事侵略を進めることができた〔*もちろん、ロシアにも様々な限定要因があった〕。

 このように、ロシアのような集権国家・全体主義国家のほうが、戦争継続という面で短期的には有利になりうる〔*権力者にとってであり、人民にとってではない〕。それゆえ、「民主主義」諸国がこうした暴挙を抑制できずに、国連のような国際機関も有効に機能しなければ、世界は徐々に全体主義・侵略主義的国家に侵食されかねない。

 だが、当ブログ2023.11.25「『民主主義国』は国際的に立憲民主的か?」で述べたように、「民主主義」国の親玉たる米国は、パレスチナ自治区ガザ地区などでジェノサイド〔*集団殺害。2023年10月から年末までに約2万2000人を虐殺。ただし、遺体確認者のみの数字〕を続けるイスラエル〔*この国も「民主主義」国とされている〕を、若干の「苦言」を呈しつつも支持・支援し続けている。米国は、ロシアのウクライナ侵略を批判する一方で、イスラエルによるパレスチナ人大量虐殺を容認・支援しているのだ。

 こうした米国のご都合主義とダブルスタンダードは、「認めたくない人々」を除いて、世界中の誰の目にも明らかになりつつある。米国の言う「民主主義国の正義」の信用性は、地に落ちてしまった。こうした状況に乗じて、ロシアや中国などは「米国の正義」の欺瞞性を「ここぞ」とばかりに強調している。

 このままでは、ロシアや中国などの集権国家・専制国家が中東諸国やグローバルサウスと言われる諸国の支持を得る状況に進み、G7を中心とする西側「民主主義」諸国はジリ貧に追い込まれかねない。

*ただし、日本としては、中国が侵略的な動きに進まない限りは、可能な限り中立的友好関係を保つ必要があると思う。もちろん、常にリスクヘッジ(*危険や不確実性の回避)を念頭に置き、信用し過ぎないことも重要だが。中国には「民主主義」という面で大きな課題もあるが、残念ながら他国が介入できる範囲には限界がある。

 こうした状況下で、本来であれば、米国をはじめとする「民主主義」諸国は対抗改善策を一刻も早く打ち出し、実行しなければならないはずだ。だが、米国は本来向かうべき方向とは真逆に進んでいるようだ。

「民主主義国」の親玉たる米国は、こうした「悪循環のサイクル」をもたらす政策を見直し、世界中の国々から信頼されるような国際立憲主義的な〔*国際法と社会正義に基づく。当ブログ2015.12.19「最上敏樹「国際立憲主義とは何か」から学ぶ」参照〕国家を目指すべきではないか。中東の「門番・用心棒」としての役割をイスラエルに任せるのではなく〔*敵対する必要はないが〕、アラブ諸国・イスラム諸国(*イランを含む)を巻き込んだ安全保障政策に移行すべきではないか。こうした方向に徐々にでも転換することによって、安全保障を含めて、中長期的には米国の国(民)益にとって大きな利点となるはずだ。

 だが米国は今、こうした方向とは逆に、「より悪い方向」に進む可能性を大いに秘めている。「民主主義」国の宿命として、国の権力者(*特にトップ)を決める選挙を大いに意識せざるを得ない状況に落ち込んでいる。ということは、有権者こそが国の「行く先、行く末」を決める決定権を握っているはずだが、これはイスラエルについても言えるのだが、そこにこそ可能性と共に大きなリスクも潜んでいるのだ。

 こうしたことは、米国やイスラエルだけの問題ではない。私たちは、人類の英知と努力を結集してこの危機を食い止め、世界を少しでも良い方向に進めていく必要がある。
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