読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
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高村薫著「我らが少女A」

2020-08-10 | た行
合田雄一郎を主人公とする警察小説シリーズ。痛恨の未解決事件。12年前のクリスマスの早朝、元高校の美術教員を退職した画家が、毎朝写生に行く公園で死んでいた。そこから話が始まり、その先生に絵を習っていた当時中学生だった少女上田朱美(少女A)が、12年後に元俳優志望の風俗嬢として同棲していたつまらない男に、つまらない理由で殺される。そして、その犯人の男が警察で、彼女は12年前の老女の死亡した現場から絵具を1つ持ってきたと語ったことを語る。そこから過去の未解決事件を捜査する特命班が動き出す。そして、12年前の人間模様を再度調べ始める。合田雄一郎は、12年前の捜査本部の責任者で、今は12年前の現場に近い多磨駅近くの警察大学の教授。ことの顛末は多摩駅の若い駅員小野雄太の視線を通して語られる。殺された教師の孫娘で、朱美の同級生の真弓、同じく同級生の浅井、浅井の親、真弓の親。朱美の親。少女Aの死をきっかけに、当時の記憶が呼び覚まされ、深く掘り下げられていく。殺された美術教師は何を考えていたのか、当時の同級生らは何を見ていたのか、少女Aはどのような人間だったのか、そして、誰が殺したのか。関係者それぞれの些細な日常を描きながら、そこに潜む諦めや寄る辺なさといったものが、著者独特のユーモラスで絶妙な比喩表現をもって語られ人びとの記憶の片々が織りなす物語になっている。各個人の緻密な心理描写、ゲーマーやSNSのネット世界と精神に障害の浅井の描写がある意味鬱陶しいがそれぞれの動き出す時間が世界の姿を変えていくちょっと変わった謎解きミステリー。
2019年7月毎日新聞出版刊

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